File102 首都惑星ヴォルダルでのアルバイト② 仕事中に友人に会うのはなんだか恥ずかしい
お待たせいたしました
途中で切ると半端になるので、長めになりました
デリバリーの仕事を始めてから、あっという間に1週間たったが、実に順調だった。
今のところアホな客にも当たらず、地図も少しずつ頭に入ってきた。
常連さんにも顔を覚えてもらい、職場の人間関係も良好だ。
ちなみに、バイト初日に社長から『配達の時は常に女性の姿でいるように!これは命令だ!』と、宣った次の瞬間、
「なにセクハラ&パワハラをやってるのよ!」
と、副社長が社長を蹴り飛ばし、そんな事はしなくていいと言われた。
が、その日は運悪く、朝礼の最中に多めの注文が急に入って慌ただしくなり、女の姿で盛り付けを手伝ってから配達を開始。
初めての業務だった事もあって余裕がなくなり、その日は女の姿で仕事をこなし、翌日から男の姿で働く事になった。
しかし今日は『月のもの』が来てしまったため、朝から女の姿のままだ。
「次、ブレフタウン34街区方面、No.148・No.150。お願いしまーす!」
「はーい。ライアット。ブレフタウン34街区方面、No.148・No.150でまーす!」
この数字は注文番号で、詳しい名前や住所は伝票に書いてあり、同じ街区で固めてくれているので、番号の品物と伝票を受け取り、エア・バイクに載せて出発する。
配達が終われば、店に戻ってきて、また配達にでる。
これが一連の仕事の流れだ。
ちなみに、ブレフタウン34街区方面は何度も通ったので迷うことはない。
昼休み前のこの時間と、夕食近くの夕方が、一番注文が多くフル回転な状態だ。
急いで、かつ安全に届けないといけない。
視点変換 ◇No.148のお客様 キャロライン・ウィルソン◇
私は今、プロの漫画家である友人の原稿の手伝いをするために、彼女のマンションに来ていた。
友人は年末のイベントに参加するための原稿に夢中になり、連載作品の締め切りをすっかり忘れていたらしい。
私達が急かしてしまったのもあるので、無償でアシスタントをするために、友人の自宅に集まっての、絶賛修羅場中である。
とはいえ食事と休憩は取らないと、原稿制作のスピードも質も落ちる。
自分達で料理をしてもいいけれど、修羅場でへろへろの状態ではまともなものは無理だし、そんな時間もない。
なので、昼食はデリバリーを利用する事にした。
注文した店は、この辺りでは美味しいと評判の『フライングテーブルクロス』という、デリバリーとケータリングの専門店だ。
注文したのは、特製ミートソースパスタ×5・ミックスサンド×3・生野菜サラダ×2・フライドチキン×5・フライドポテト×3・コーンスープ×4・ミネストローネ×1というラインナップ。
飲み物は、修羅場に入る前に、近くのマーケットで大量購入済みだ。
この『フライングテーブルクロス』は、ピザ・ハンバーガー・デザート類は扱っていない。
なんでもコンビニや、その2つの専門店と競合しないためらしい。
ピンポーン!
『『フライングテーブルクロス』です。ご注文の品をお届けにまいりました』
全員が、空腹と疲労に耐えている部屋の中に、インターフォンと配達の人の声が響き渡る。
「あ、ご飯きた!誰か取りにいって!」
「私いきます」
「よろしくー」
たまたま作業が一段落したので、私が受けとるべく、玄関に向かった。
そうして、お腹が減っているのに耐えながら、スコープから外をチェックし、間違いなく配達員なのを確認してから、すぐさまドアを開けた。
「はーい。ご苦労様ですーって…ショウン?!」
私は心底驚いた。
スコープからは見えなかったが、そこにいたのは、よく見知った、絶対に居るはずのない同業者の顔だったからだ。
「キャシー?ここ、エニラ・クレムスさんのお宅だよな?なんでいる?」
それは向こうも同様らしく、訝しげな表情を浮かべていた。
「エニラは友人で、今彼女の仕事の手伝いにきてるのよ。そういう貴方は?」
「例の爆発事件のせいで船が無くなって、今は賠償金と保険金の支払い待ち」
そして双方が事情を説明すると、私も向こうも納得の表情を浮かべた。
その時、腹を空かせた家主と友人が、戻って来ないからと玄関にやって来た。
「ちょっとーご飯まだー?ってオオキタ・ソーナ!?」
「ヤバーイ!マジそっくりじゃん!」
「画面からでてきた…?なわけないか」
「間違いない!オルランゲアのマルシェにいた人だよ!」
家主も友人も、例のソシャゲにはドはまりしているため、当然、ショウンの外見には即反応。
マルシェで本人をみたコロコロポックルさんにいたっては、その時の写真と見比べたりしている。
その様子に、ショウンの笑顔がひきつっていた。
そこに、友人であり家主であるエニラ・クレムスが、とんでもない事をいった。
「ねえ!今からちょっとオオキタ・ソーナのコスプレして、『私のお弁当いかがですか?』って言ってみて?」
「申し訳ありません。仕事中なので、そういうことは出来ません」
ショウンは当然断る。
「えー?じゃあお金払わないよー」
が、調子に乗りやすい彼女は、さらにたたみかけた。
そういうのは通用しないと思うから、やめた方がいいと思う。
というか仕事中に出来るわけがない。
そう助言する前に、きっちりと反撃がきた。
「そうですか。ではキャンセルという事でよろしいですね」
そういってショウンは笑顔で帰ろうとした。
しかしそれは、私達のご飯がなくなってしまうということになる。
それに私達が、なによりこのお店の、特製ミートソースパスタがお目当てだったエニラ本人が耐えられるはずがなかった。
「待って待って!冗談だって!払う!払うから!」
エニラは慌て汎用端末を取り出し、情報で代金を支払った。
「ありがとうごさいました。またのご利用を」
そういって彼は、次の配達に向かうべく、エニラの部屋を後にした。
「あーあ。コスプレして欲しかったのになー」
この友人は実に懲りない。
「向こうは、仕事中なんだからしてくれるわけないじゃない」
なにより、本人が嫌がってたみたいだし。
この修羅場が終わったら、ショウンにお詫びの通信を入れておこう。
視点変換 ◇No.150のお客様 ケビン・コールマン◇
俺は今現在、オルランゲアの本社から、ヴォルダル支社に長期出張をしていた。
立ち上がったばっかりのヴォルダル支社の業務が安定するまでの助っ人だ。
今日もその辺りの事で忙しく、昼食を食べにいく暇もない。
なので、一緒に出張に来ていた先輩が注文してくれたたデリバリーを待ちながら、仕事を消化していた。
「『フライングテーブルクロス』です。ご注文の品をお届けにまいりました」
そうしていい加減腹が減ったときに、デリバリーの人がやってきた。
しかし、その声には聞き覚えがあった。
すると次の瞬間、
「あれ?ケビン?」
その聞き覚えのある声が、俺の名前を呼んだ。
「ショウン!なんでお前デリバリーなんかやってるんだよ?」
それは、貨物輸送業者をやっているはずの友人だった。
「この前のスターフライト社の事件しってるだろ?あれのせいで船がスクラップだ」
ショウンは忌々しそうに、自分の現状を説明した。
「あー。それは災難だったな。で、新しいのがくるまでの繋ぎってとこか」
マスコミで大々的に報道されたから、サラリーマンとしては知らない訳にはいかない。
「正確には賠償金と保険金待ちだな」
「ごっそり出るといいな」
「あんまり期待はしてないよ。あ、これ、注文の豚の生姜焼弁当大盛り7つな」
ショウンは、先輩が注文した昼食を近くのデスクに置く。
「サンキュー。現金でいいか?」
そういって、俺は預かっていた代金を差し出す。
「5000クレジットのお預かりで、100クレジットのお返しになります」
そういって、レシートとおつりを差し出してくる。
「そこはせっかく女なんだから手を握って、その上に置くとかしてくれよ~」
「お前…ちゃんと病院にいったか?」
俺の冗談に、ショウンはなぜか憐れみの視線を俺に向けてくる。
「毎度ありがとうございました」
ともかく配達が終わったなら、早く戻らないとという事で、ショウンは足早にこの場を後にした。
「ケービンくん♪」
そしてショウンが帰った直ぐ後に、注文した先輩、ジャン・ゴーズルが戻ってきた。
先輩は、学生時代にフットボールをやっていたというマッチョだ。
「あ、先輩。メシ来ましぐへっ!」
すると先輩が、いきなり俺にヘッドロックをしかけてきた。
「今の美人は誰だ!?めちゃくちゃ親しげだったじゃないか!彼女か?彼女だな!畜生!俺なんか合コンで連敗中なのに…」
先輩は、ここしばらく合コンで失敗続きなため、こういう感じの絡みがうざい。
そして、俺とショウンの会話を、何処からか見ていたらしい。
「し、小学生の時からの友人ですよ。シュメール人で基本性別は男です。今日は多分『月のもの』で女になってたんだと思いますよ!」
大抵は、ショウンがシュメール人で基本男だと聞けば、ちょっと尻込んだりして冷静になる。
嫌な反応だが、真実を言わずにトラブルになる方が問題だ。
「だがシュメール人だ!女性でもあるんだろう?!」
しかし先輩は、尻込んだりすることなく、鼻息も荒くそう言い切った。
「まあ、そうですけど…」
それだけに、その後のセリフも簡単に想像できた。
「紹介しろ!」
「基本性別男ですよ?」
それに対し、俺は冷静に現実を突きつける。
「俺はしってるぞ。シュメール人は産まれる直前に性転換をする。それは同性の眼で意中の相手を探し、同性の視点から魅力的な異性を観察するためだということをな!」
が、先輩には通用しなかった。
さらには、よく言われている迷信を熱く語り始めた。
「それ、迷信だって本人がいってましたよ」
「そんなことはない!それよりも、紹介するのかしないのかどっちだ?」
「断られたら知りませんからね?」
これはもう何を言っても無駄だ。
とりあえず連絡とって頼んでみるか。
悪い人じゃないんだけど、どうにもなあ…。
視点終了
デリバリーの実際のシステムは知らないので適当です。
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




