File99 首都惑星ヴォルダルへの貨物輸送からの災難⑥ 見舞いには意外と気を遣うもの
お待たせいたしました
じいさんが救急搬送されると同時に、不良警官達は同僚に逮捕されて連行されていった。
電磁警棒については、差し入れの旅行用トランクに戻し、連中のを奪ったことにした。
まあ、後で警部殿がなんとかしてくれるだろう。
襲撃されたとはいえ、俺自身がいまだ留置されているのには間違いないので、当然このままここに寝泊まりだった。
ちなみにその時は女になったままだったこともあり、若い警官から、オオキタ・ソーナそっくりだと指摘され、写真を取らせてくれとたのまれたが、男に戻って拒否をさせてもらった。
そうして翌朝、朝食が終わったぐらいの時に、リュオウ警部がやってきた。
「釈放。というか、協力感謝する。ご苦労だったな」
「色々大変でしたよ」
差し入れのトランクをもち、牢を出ると、受付のようなところで書類を書かされた後、没収された汎用端末・財布・短針銃を返してくれた。
それから警察署を出ると、警部殿が運転する車に乗せられた。
車が発車すると、俺は汎用端末のチェックをしながら、気になっている事をたずねた。
「それで?どう決着ついたんです?」
「以前報告した内容もあるが、改めて説明する。
まずはお前の現状だが。
停泊地での爆発は防犯カメラの映像から、宇宙港職員の仕業と判明。
職員は責任者に言われてやったと主張。
責任者は知らないと主張。
しかし、職員が録音していた音声から主犯であることが判明。逮捕となった。
スターフライト社から依頼されたと言っているが決定的な証拠はない。
宇宙港管理局は、荷担して逮捕された職員と責任者を懲戒解雇にしたそうだ。
警官達も同様に、スターフライト社に依頼されて、お前の不当逮捕と性的暴行に及ぼうとした。
シュメール人の性別を強制変換させる薬と、性別を固定させる薬を所持していたので、不当逮捕を含めた今までの犯罪関係なく無期懲役決定だ。
場合によっては極刑だな。
そのため、お前は容疑者ではなく被害者ということが判明し、無罪放免ということになった。
同時に破壊された船の事に対しても、向こうにとっての多少の金銭は保証されるだろう」
警部からの報告に、ひとまずは胸を撫で下ろす。
「それにしては警察所長が頭を下げに来なかったっすね」
ドラマなんかで見るような事はあるのかなと、ちょっとだけ期待していたが、そんなことはなかったのでちょっとだけ残念ではあったのだが、
「ここの上層部は、軒並み公安の尋問を受けていましたから、来るに来れなかったのだと思いますよ」
ラツィム巡査からの情報を聞き、なるほどと納得してしまった。
「それで、元凶のスターフライト社の方だが。
まず、お前が言っていたヘンリー・タダヤマを雇ったのは人事部部長の独断だったらしい。
常務のメイ・ダイムルは、スカウトは指示したものの、ああいうやり方は指示していないそうだ。
そのため、一連の事件はヘンリー・タダヤマの仕業だと言われているが、決定打がない。
そのスターフライト社の内情だが。
社内の改革推進派と呼ばれる社員たちが、一部上層部の悪事の証拠をGCPOに提供した。
どうやら地元警察だと握り潰されると思ったらしい。
そのため、経営者一族の内2人がリコールされ、経営権と持ち株を全て没収されたそうだ。
さらに、社長のエルカ・ダイムルは、フォトンクラウド社に対する威力業務妨害の主犯として逮捕された。
同時に旦那から離婚を言い渡されて、調停中らしい」
「間抜けと言うか自業自得と言うか…」
やっぱり、大企業ってのは大変だな…。
「到着したぞ」
そして車はいつのまにか、宇宙港内の病院に到着していた。
病室は3階にある341号室。
そのネームプレートには、ジャック・ヴェルグスフ様とあった。
あのじいさんそんな名前だったのか。
俺がノックをすると、
「どうぞ」
と、声が返ってきたので、
「失礼します」
と言って病室に入った。
そこには、パジャマを着たじいさん、ヴェルグスフさんが、ベッドの上で雑誌を読んでいた。
そうして俺の顔を見るなり、
「おう。やっぱり無実だったな。
それにしても『月のもの』はもう終っちまったのか?
せっかくまた別嬪が拝めると思ったんだかな」
さっそく軽口を叩いてきた。
とはいえまず言わないといけないことがある。
「昨晩は助けていただき、ありがとうごさいました」
「なあに、仕事だ。気にするな。それに、お前さんならなんとかなったろ」
実際のところ、なんとかできていただろう。
だが、助けてもらったのは事実なのだから、お礼を言うべきだし、是非ともお礼をいいたかった。
そこに、リュオウ警部が書類の入った封筒をヴェルグスフさんに差し出した。
「今回の入院期間は、公休と有給扱いになるそうです」
「てことは、皆勤は取れるってことか」
その報告を聞いて、ヴェルグスフさんは、本当に嬉しそうな表情をしていた。
そこに、ノックもせずに入ってきた人物がいた。
「ただいま。あら?お客様?」
入ってきたのは、上品な感じのおばあさんだった。
ヴェルグスフさんが慌てる様子もないので、おそらくは家族、多分奥さんだろう。
「奥様ですか?」
そうたずねたリュオウ警部に、
「はい、サイーラともうします。主人がいつもお世話になっております」
ヴェルグスフ夫人はにこやかにそう答え、
「この人ったら結婚する前から危なっかしい捕り物ばかりやってたんですよ?お陰で生傷が絶えないし、治療費も馬鹿にならないし、それで皆勤賞なんか目指してるんだから、その情熱を家族サービスに向けてくれればいいのに、そういうところこの人は気が利かないっていうか…」
止まりそうもないおしゃべりを始めてしまった。
しかしそこは長年連れ添っただけのことはあり、
「あー用事はすんだのか?」
「ええ。夕方にはエイダがまた来てくれるそうよ」
「あの娘には迷惑をかけるな」
別の話題をふることで、ヴェルグスフ夫人のおしゃべりを止めさせた。
「では、我々はお暇しましょう。傷に触りますし」
その隙をついて、俺はお暇を宣言した。
長話もなかなかだが、家族がくるというなら、お邪魔をするわけにもいかないだろう。
「あらあら。お構いもしませんで」
「いえ、失礼いたします。また見舞いに来ますよ」
「だったら、今度は別嬪さんで来てくれよ」
ヴェルグスフさんは、ベッドの上から軽口を叩きながら、いい笑顔を浮かべていた。
病院から出る時に、家族連れらしき一団とすれ違いつつ、また車に乗り込んだ。
「なんか申し訳ないですね。警部殿に運転手なんかさせてる感じで」
「自分の車は自分で運転する主義でな。そうそう、お前への補償、つまりは賠償金と慰謝料だがな。
宇宙港管理局とスターフライト社から支払われる。まあ、前回同様に裁判後になるがな」
どうやら前回と違って、金一封はでないらしい。
まあ当然か。
「後は保険がおりてくれればなんとかなるんですけどね。前回の時は、申請にいった前日に保険の期限切れになってて降りなかったんですよ。まあ、今回は大丈夫だと思いますけど」
「それは残念でしたね。保険会社はどこなんです?」
「カサハス・インシュアランス・グループの航海保険ってやつです」
ラツィム巡査の質問に、何気なく答える。
するとなぜか、リュオウ警部とラツィム巡査は視線をかわし、
「ちょうどいいから連れていってやる。多分前回の分もふんだくれるかもしれんぞ?」
穏やかではない台詞を吐いた。
友人曰く、
『保険は入ってないの?』
と、指摘されました。
よく考えれば入らないはずないですよね
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