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会社をクビになった俺、金を使うほど資産が増える神システムで人生をやり直す  作者: MagnusOps


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第71話 ー『父と息子』

第71話 ー『父と息子』


2026年6月3日(水)——午前8時0分。


世田谷·キサラギ家——リビング。


朝の光がリビングの窓から差し込み、使い古された木の床の上に光の模様を作り出している。樹はソファに座り、手に緑茶の湯呑みを持ち、穏やかな朝の静けさを味わっていた。外では鳥たちが木々の間でさえずり、遠くでは電車が線路を走る音が聞こえる。


彼は実家に帰って三日目だった。三日間、会議もなく、書類もなく、システムの目標もない。ただ家族と、食事と、心地よい静けさだけがある。樹は久しぶりに感じる何かを味わっていた。深い静けさ。嵐が過ぎ去り、全てが静かになった後のような。


「……いい朝だ。」


彼は小声で呟き、お茶を一口すする。


階段から重い足音が聞こえてきた。正則が静かな足取りで降りてくる。シンプルなシャツにズボンという、仕事のない日の格好だ。手には、郵便受けから取ったばかりの朝刊。


「……おはよう、父さん。」


正則は頷き、窓際のいつもの席に座った。新聞を開き、数ページを静かに読み、そして読み解くのが難しい表情で樹を見た。


「……樹。」


樹が顔を上げた。「……うん、父さん?」


「……今日、時間はあるか?」


樹は頷いた。「……ああ。特に予定はない。」


正則は新聞を丁寧に折りたたみ、立ち上がった。「……散歩に行こう。ある場所に連れて行きたい。」


樹は瞬きをした。少し驚いた。父がこんな風に突然誘うことは滅多にない。いつも正則は家か書斎で過ごすことを好む。


「……わかった、父さん。準備はできてる。」


---


午前8時30分——家のガレージ·トヨタ・クラウン。


正則がガレージのドアを開けると、丁寧に手入れされた黒いトヨタ・クラウンが現れた。六年間乗り続けてきた車だ。清潔で、手入れが行き届き、目立った傷の一つもない。樹は父が常にこの車を細心の注意を払って手入れしていたのを思い出した。精度と信頼性を重視する技術者のように。


「……乗れ。」正則は運転席のドアを開けながら言った。「……俺の車で行く。」


樹は頷き、助手席に座った。トヨタ・クラウンの内装は馴染み深いものだった。少し使い込まれたクリーム色のレザー、年季の入った木目のダッシュボード、そして幼い頃から慣れ親しんだ、古い車特有の香り。


正則がエンジンをかけると、トヨタ・クラウンはスムーズにガレージを出た。樹は道路の端に停めてある自分のZeekrを見た。真珠のような白い大型SUVが、シンプルなトヨタ・クラウンとは対照的だ。正則はその車については何も言わなかったが、一瞬だけ視線を向けてから前方に集中した。


「……お前の車はそこに置いておけ。」正則はくつろいだ口調で言った。「……どこにも行かない。」


樹は小さく微笑んだ。「……分かってる、父さん。」


正則は静かに運転し、子供の頃から馴染みのある世田谷の通りを通り抜けた。樹は変わらぬ店々や家々を見た。通りの角のパン屋、よく遊んだ小さな公園、そして今も変わらず建つ小学校。


「……あの場所を覚えてるか?」正則は道路脇の古い建物を指さした。


樹はその視線を追った。「……俺の小学校だ。」


「……そうだ。お前はよく裏の校庭で日が暮れるまで遊んでいた。母さんはいつも、遅くなると心配していた。」


樹はその頃のことを思い出して微笑んだ。「……覚えてる。母さんはいつも叱ったけど、次の日にはまた遊んでた。」


正則は小さく微笑んだ。めったに見せない笑顔だ。「……お前はあまり変わっていないな、樹。」


樹は眉を上げた。「……どういう意味だ、父さん?」


「……お前は今でも、他人が良くないと言っても、自分が好きなことをやっている。」正則は一瞬樹を見た。「……昔は遊びに夢中で時間を忘れた。今は自分が正しいと思うことをやっている。」


樹は答えなかった。ただ父を見つめ、胸に温かいものを感じた。


---


午前9時30分——世田谷·大通り沿いの喫茶店。


正則はトヨタ・クラウンを小さな喫茶店の前に停めた。街路樹の日陰に木製のテーブルが置かれた簡素な店だ。この店は樹が子供の頃からあり、父がよく学校に行く前に朝食に連れて行ってくれたのを覚えている。


「……ここを覚えてるか?」正則は車を降りながら尋ねた。


樹は頷いた。「……覚えてる。父さんはよくここでパンと牛乳を買ってくれた。」


正則は微笑んだ。温かく、思い出に満ちた笑顔だ。「……お前はいつもカレーパンを注文していた。一度も変わらなかった。」


彼らは道路沿いのテーブルに座り、親しみやすい笑顔の老女店員が近づいてきた。「……正則さん! 久しぶりじゃないか!」彼女の目が樹に移り、さらに大きく微笑んだ。「……坊や、大きくなったね!」


樹は丁寧に一礼した。「……ありがとうございます、おばさん。久しぶりです。」


「……昔みたいにカレーパンにするかい?」


樹は微笑んだ。「……はい、一つお願いします。」


正則はブラックコーヒーを注文し、彼らは心地よい沈黙の中で注文を待った。鳥たちが木々の間でさえずり、朝の風が二人の間を優しく吹き抜ける。


「……樹。」


樹が父の方を見た。「……うん、父さん?」


「……一つ聞きたいことがある。」


樹は頷いた。「……どうぞ。」


正則は深い眼差しで樹を見た。注意深く、賢明な目だ。「……お前は今、本当は何をしているんだ?」


樹はその質問に驚かなかった。父がいつか尋ねるだろうと予想していた。彼は息を吐き、適切な言葉を選んだ。


「……投資と不動産の仕事をしているんだ、父さん。いくつか資産を持っていて……投資会社を経営している。」


正則は驚いた様子を見せなかった。ただ静かに頷いた。まるでその答えを予想していたかのように。「……投資会社?」


「……ああ。少し前に……設立したんだ。」


正則は鋭い目で樹を見た。「……元手は?」


樹は小さく微笑んだ。「……運が良かったんだ、父さん。」


正則は追及しなかった。ただコーヒーを一口すすると、より柔らかな声で言った。「……どうやって短期間でここまで達成したのかは分からない、樹。しかし……」彼は言葉を止め、誇らしげな眼差しで樹を見た。「……お前を誇りに思う。」


樹は胸に温かくも痛む何かを感じた。「……ありがとう、父さん。」


正則は頷き、話題を変えた。「……今の自動車業界をどう思う?」


樹は眉を上げた。突然の話題の変化に少し驚いた。「……大きな変革期にあると思う。電気自動車と自動運転が主流になりつつある。日本の企業は適応しなければ、取り残されるだろう。」


正則は頷き、その目に興味が輝いた。「……トヨタは生き残れると思うか?」


樹はしばらく考えた。「……トヨタは強固な基盤を持っていると思う。でも、電動化の分野でより迅速に動く必要がある。中国とアメリカの競合は、バッテリー技術とソフトウェアの面で既に大きく先を行っている。」


正則は注意深く聞き、時折頷いた。「……業界に対する理解が深いな、樹。俺が知っている大抵の若者よりずっと良い。」


樹は小さく微笑んだ。「……父さんから学んだんだ。」


正則は微笑んだ。心からの、温かな笑顔だ。「……いや。お前が自分で学んだんだ。」


---


午前11時0分——喫茶店·会話は続く。


彼らは多くのことについて話した。仕事、人生、未来について。正則は樹に会社の詳細を説明するよう迫ることはなかった。ただ聞き、観察し、時折賢明なコメントをした。


「……樹。」


樹が顔を上げた。「……うん、父さん?」


「……お前は幸せか?」


樹は正直な目で父を見た。「……ああ、父さん。幸せだ。」


正則は頷き、そして微笑んだ。心からの、温かな笑顔だ。「……良かった。それが一番だ。」


---


午後0時0分——帰路。


彼らは車に戻り、正則は静かに家へ向かって運転した。道中、樹がよく遊んだ公園を通りかかり、正則は一瞬車を減速させた。


「……この場所を覚えてるか?」


樹はその視線を追った。「……自転車の練習をした公園だ。」


「……そうだ。何度も転んだ。でも、一度も泣かなかった。」正則は小さく微笑んだ。「……いつも起き上がって、また挑戦していた。」


樹はその頃を思い出した。膝の痛み、バランスを保てない時の苛立ち、そしてようやく成功した時の誇り。「……父さんはいつも、転んだら受け止めてくれた。」


正則は答えなかったが、その顔の微笑みが全てを物語っていた。


---


午後0時30分——帰宅。


トヨタ・クラウンがキサラギ家へ続く細い道に入った。家の前にはZeekrがまだ道路の端に停まっており、樹は父がもう一度その車を一瞥するのを見た。


「……樹。」


樹が顔を向けた。「……うん、父さん?」


「……あの車、本当に借り物なのか?」


樹は静かに息を吐いた。「……違う、父さん。俺のものだ。」


正則は驚いた様子を見せなかった。ただ静かに頷いた。「……そうだと思った。」


「……父さんは怒らないのか?」


正則は深い眼差しで樹を見た。「……なぜ怒る必要がある? お前は大人だ。欲しいものは何でも持てる。」彼は言葉を止め、より柔らかな声で続けた。「……大事なのは、傲慢な人間にならないことだ。」


樹は胸に温かいものを感じた。「……傲慢な人間にはならないよ、父さん。」


正則は微笑んだ。心からの、温かな笑顔だ。「……知ってる。」


---


午後1時0分——家の中·リビング。


樹が家に入ると、千春が台所から迎えた。「……樹、お父さんとどこへ行ってたの?」


「……散歩だよ、母さん。公園の近くの喫茶店に行ってきた。」


千春は微笑んだ。温かく、理解に満ちた笑顔だ。「……お父さんが人を連れ出すなんて珍しいわね。きっと特別なんだね。」


樹は小さく微笑んだ。「……どうだろうな。」


部屋の隅で、美咲が好奇心旺盛な目で樹を観察していた。「……お兄ちゃん、何を話したの?」


樹は肩をすくめた。「……いろいろだよ。自動車のこと、仕事のこと、昔のこと。」


美咲は目を細めた。「……お父さんに会社のことを話したの?」


樹は小さく微笑んだ。「……少しだけ。」


美咲はその答えに満足したようだった。「……良かった。少なくとも誰かは知ってるんだね。」


樹は小さく笑い、休むために自分の部屋へ向かった。


---


午後4時0分——裏庭·正則と樹。


正則は裏庭に立ち、何年も育ててきた植物の手入れをしていた。樹が近づき、静かにその隣に立った。


「……父さん。」


「……うん、樹?」


「……今日はありがとう。」


正則は植物の手入れを止めなかったが、口元がわずかに上がった。「……何に対して?」


「……聞いてくれたこと。追及しなかったこと。……信じてくれたこと。」


正則は一瞬手を止め、深い眼差しで樹を見た。「……お前は俺の息子だ、樹。俺はいつでもお前を信じている。」


樹は涙がこぼれそうになったが、こらえた。「……ありがとう、父さん。」


---


【次話 第72話——『キサラギ・アセット・マネジメント』】


翌朝、樹はビジネスの世界へ戻る。志織がアジェンダを準備し、冴が拡張戦略を議論し、レイナが投資の話に加わり、澪が協力について話し合い、彩芽が法務面を担当する。樹は、家族と会社の生活を永遠に分離し続けることはできないと気づき始める。


【第72話へ続く……】

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