第43話 ー 『三十億円の使い道』
第43話 ー 『三十億円の使い道』
2026年5月13日(水)——午前8時0分。
丸の内·キサラギ・アセット・マネジメント本社ビル——十階。
丸の内の朝は、いつもと違う空気が流れていた。雲一つない青空が広がり、鳥たちが街路樹の間でさえずり、遠くには朝日を浴びて緑豊かな皇居が見える。樹は社長椅子に座り、手にブラックコーヒーのカップを持ち、忙しい一日が始まる前の静けさを味わっていた。
扉が開いた。志織がタブレットを手に、プロフェッショナルで快活な表情で入ってくる。
「おはようございます、如月さん。残り目標の完全な計画書をまとめました。」
樹はコーヒーカップを置いた。「……見せてくれ。」
志織は彼の前の椅子に座り、タブレットを開いて、非常に詳細なスプレッドシートを表示した。鮮やかな色分け、明確なカテゴリ、そして精密な計算。
「これが残り百九十五億円の使用計画です。」
樹はその画面を見て目を見開いた。「……これを一人でやったのか?」
志織は小さく微笑んだ。「……昨夜、仕事をしていました。」
樹は感嘆と心配が入り混じった表情で志織を見た。「……寝てないのか?」
「三時間ほど寝ました。」志織は肩をすくめた。「……十分です。」
樹は息を吐いた。「……君は忠実すぎる。」
「ただ仕事をしているだけです。」志織は画面を指さした。「さあ、ご覧ください。残り目標を五つの主要カテゴリに分類しました。不動産、企業、施設、車両、そして予備費です。」
樹はそのリストを読んだ。
1. 不動産 —— 八十億円
· 新宿のオフィスビル:三十二億円
· 六本木の高級マンション:二十八億円
· 渋谷の土地:二十億円
2. 企業 —— 五十億円
· 中小テクノロジースタートアップの買収:三十億円
· 物流企業への投資:二十億円
3. 施設 —— 三十五億円
· このビルの五~九階の改装:十五億円
· 最新セキュリティ・ITシステム:十二億円
· 従業員ラウンジ・休憩室:八億円
4. 車両 —— 十五億円
· 追加業務用車両:十億円
· メンテナンス・保険:五億円
5. 予備費 —— 十五億円
· 緊急予備資金:十五億円
樹はそれら全てを注意深く読んだ。
「……よく整理されている。」
志織は微笑んだ。「……もう無作為にお金を使う必要はないと思いました。今回は、本当の意味のあるものを築けるはずです。」
樹は優しい眼差しで志織を見た。
「……ありがとう、志織さん。」
「お礼には及びません。ただ仕事をしたまでです。」
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午前9時30分——十階·小会議室。
樹と志織は各カテゴリについて詳細に話し合った。志織は各決定の背後にある理由を辛抱強く明確に説明した。
「新宿の不動産は戦略的な立地です。駅やビジネスエリアに近く、今後五年で価値が上昇するでしょう。」
樹は頷いた。「……いいね。」
「テクノロジースタートアップの買収については、可能性はあるが資金不足の中小企業を数社調査しました。そのうちの一社は物流AIを手がけています。」
樹は眉をひそめた。「……物流?」
「ええ。投資予定の物流企業と統合できます。相互に有益です。」
樹は再び頷いた。「……本当に全て考えてあるんだな。」
志織は微笑んだ。「……それが私の仕事です。」
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午前10時30分——五階·ワークエリア。
樹と志織は五階に降り、改修の進捗を確認した。作業員たちが小会議室用のガラスパーティションを設置しており、オープンエリアには新しい机がいくつか設置されていた。
「五階は運営の中心になります。」志織が言った。「ここで中核チームが働きます——財務、人事、総務。」
樹は周囲を見渡した。この部屋は、もはや空っぽのビルではない。本物のオフィスになりつつある。
「……現実味を帯びてきたな。」
志織は彼の隣に立った。「……ええ。あなたが築いているからです。」
樹は答えなかった。しかし心の中に、説明できない誇りが広がっていた。
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午前11時30分——九階·樹のプライベートスペース。
樹と志織は九階へ上がった。樹のプライベートスペースはほぼ完成していた。B&B Italiaのソファが設置され、Poltrona Frauの無垢材のデスクが置かれ、エレガントな本棚が埋められるのを待っている。
「……とても快適だ。」樹はソファに座りながら言った。「一日中ここにいられそうだ。」
志織は微笑んだ。「……それが目的です。」
樹は志織を見た。「……志織さん。」
「はい?」
「……感謝したい。君がしてくれた全てに。」
志織は瞬いた。「……もうおっしゃいましたよ。」
「でももう一度言いたい。」樹は正直な目で志織を見た。「……君が全てを変えた。君がいなければ、今頃まだ混乱してパニックになっていただろう。今は……自分をコントロールできている気がする。」
志織は答えなかった。しかしその目には、隠せない温かみがあった。
「……ありがとうございます、如月さん。」
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午後0時0分——丸の内ビルの外。
樹と志織は昼食のため丸の内仲通りを歩いていた。道すがら、街路樹の下のベンチで休憩するオフィスワーカーたちが見えた。
「志織さん。」
「はい?」
「……俺は本当に意味のあるものを築けると思うか?」
志織は立ち止まり、優しい眼差しで樹を見た。
「……もう築いていますよ。」
樹は眉を上げた。「……どういう意味だ?」
「あなたには会社があります。チームがあります。あなたを信じる人々がいます。」志織は微笑んだ。「……それは意味のあることです。」
樹は答えなかった。しかし心の中で、より静けさを感じていた。
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午後1時0分——十階へ戻る。
樹と志織はオフィスに戻った。十階で、樹は社長椅子に座り、システムの残高を表示するスマホの画面を見つめた。
【本日の支出: 〇円】
【残り目標額: 百九十五億円】
【残り時間: 10:00:00】
「……早く使い切らなきゃ。」
志織が隣に立っている。「……新宿と六本木の不動産会社に連絡を取ってあります。午後から物件を見に行けます。」
「……よし。行こう。」
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午後2時0分——東京都新宿区·オフィスビル。
樹と志織は新宿のオフィスビルに到着した。十二階建てで青いガラスのファサード、新宿駅に近い戦略的な立地。不動産業者——田中という男性——がロビーで彼らを迎えた。
「こんにちは、如月様。こちらのビルは先日空きが出ました。以前は商社の本社として使用されていました。」
樹は周囲を見渡した。広いロビー、白い大理石、エレガントなエレベーター。
「……価格は?」
「三十二億円でございます。」
樹は志織を見た。志織が頷いた。
「……買います。」
田中が瞬いた。「……お客様、内部をご覧にならなくてよろしいのですか?」
「必要ありません。」
田中は驚いた様子だったが、すぐに微笑んだ。「……かしこまりました。書類の手続きをいたします。」
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午後3時30分——東京都港区六本木·高級マンション。
樹と志織は六本木の高級マンションに到着した。二十五階で、東京の壮観な景色が広がる。不動産業者——鈴木という女性——がロビーで彼らを迎えた。
「こんにちは、如月様。こちらの物件は三LDK、広いリビング、モダンなキッチンです。価格は二十八億円でございます。」
樹は窓からの景色を見た。遠くに東京タワーが見え、眼下には都市が独自のリズムで動いている。
「……買います。」
鈴木が瞬いた。「……お客様、内部をご覧にならなくてよろしいのですか?」
「必要ありません。」
鈴木は驚いた様子だったが、微笑んだ。「……かしこまりました。書類の手続きをいたします。」
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午後5時0分——東京都渋谷区·土地。
樹と志織は渋谷の土地に到着した。有名な渋谷スクランブル交差点に近い戦略的な立地だ。不動産業者——佐藤という男性——が現地で彼らを迎えた。
「こんにちは、如月様。こちらの土地は五百平方メートルで、価格は二十億円でございます。」
樹はその土地を見た。周囲には高層ビルがそびえ立ち、遠くには賑わうスクランブル交差点が見える。
「……買います。」
佐藤が瞬いた。「……お客様、土地の調査をなさらなくてよろしいのですか?」
「必要ありません。」
佐藤は驚いた様子だったが、すぐに微笑んだ。「……かしこまりました。書類の手続きをいたします。」
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午後6時0分——丸の内ビルへ戻る。
樹と志織は疲れたが満足した気持ちでオフィスに戻った。四時間足らずで、八十億円相当の三つの物件を購入したのだ。
樹は社長椅子に座り、システムの残高を表示するスマホの画面を見つめた。
【本日の支出: 八十億円】
【残り目標額: 百十五億円】
【残り時間: 6:00:00】
「……まだ百十五億円残ってる。」
志織は微笑んだ。「……明日、残りを片付けましょう。」
樹は頷いた。「……ああ。」
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午後7時0分——ロールス・ロイス・スペクターの中。
樹はロールス・ロイス・スペクターに座り、暗くなり始めた夜空を見つめていた。手には、冴、莉々香、澪、レイナからのメッセージが表示されたスマホ。全員が今日の様子を尋ねている。
樹は小さく微笑んだ。
「……生産的な一日だった。」
彼はエンジンを始動し、ロールス・ロイスは心地よい静けさと共に滑り出した。
窓の外では、街の灯りが一つまた一つと点り始めていた。
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【次話 第44話——『みなとみらい』】
翌日、樹は横浜·みなとみらい21へ向かう。システムが推奨するホスピタリティ物件を視察するためだ。彼は壮観なウォーターフロントの景色を見て、一つのアイデアを思い浮かべる。自分のホテルを持てば、予約のことを考えずにいつでも行けるのではないかと。
【第44話へ続く……】




