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魔毒喰らいのミト~「ゴミ箱」と呼ばれた魔毒処理師、実は最強の知識とスキルを溜め込んでいました~  作者: いおにあ


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第16話 学園生活、波乱の幕開け

 王立学院の朝は、鳴り響く鐘の音と共に幕を開けた。


 白磁の石材を惜しみなく使った巨大な校舎、整えられた並木道、そして行き交う生徒たちの放つ輝かしい魔力の気配。ここは、この国の未来を担うエリートたちが集う最高峰の学び舎だ。


 僕は、新しく仕立てられた「総合行政・戦略財政コース」の制服に身を包み、校門をくぐった。隣には、同じ学院の「剣術科」の制服を着たエマがいる。


「ミト、制服すごく似合ってるわ! やっぱり私の目に狂いはなかったわね」


 エマは自分のことのように嬉しそうに僕の腕に絡みつき、周囲の視線も気にせず微笑んだ。


 かつては不浄の者として忌み嫌われ避けられてきた僕が、王立学院の中を歩いている。隣には、名家めいかの令嬢エマ・シアン・スプレンディアス。周囲の生徒たちが、驚きと好奇の入り混じった視線をこちらに送ってくるのが肌で感じられた。


 午前中の講義は、エマと共通の一般教養科目だった。


 大きな階段教室の席に並んで座る。僕は、これまでに魔毒と共に吸収してきた知識を総動員して、教授の言葉を噛み砕いていった。金融、歴史、魔導理論――すでに僕の頭の中にある断片的な記憶が、体系的な学問として繋がり、確かな知恵へと昇華されていく。


 一方、エマはというと、時折僕のノートを覗き込んでは「ミト、それどういう意味?」と小さく耳打ちしてくる。彼女の甘い香りが鼻をくすぐり、ペンを握る手に少しだけ力が入る。「ああ、これはね・・・・・・」と僕は解説する。


 クレアの言うとおりだ。僕の頭の中は、いまはまだ混沌としている。その整理も兼ねて、学院に入ったことは、正しい選択だったようだ。


 授業は静かに進んでいく。

 

 午前の講義が終わると、僕たちは学院の名物である巨大な食堂へと向かった。


 そこは、一流のシェフが腕を振るう、王都の高級レストランにも引けを取らない食堂だった。


「わあ・・・・・・美味しそう! ミト、今日は『黄金牛の赤ワイン煮込み』があるわよ!」


 エマが目を輝かせて選んだ料理を、僕たちは窓際の席で囲んだ。


 実際に口に運んでみると、その味は驚くべきものだった。肉は口の中でとろけ、深いコクのあるソースが舌を包み込む。毒霧の谷の金貨のおかげで金銭的な心配こそないけれど、こうして普通の学生として美味しいものを食べる時間は、何物にも代えがたい。


「・・・・・・幸せ。ミトと一緒に学校に通えるなんて、一年前の私に教えてあげたいわ」


 エマが感極まったように吐息を漏らして、微笑む。その姿は、剣を持った時の凛々《りり》しさとは対照的な、年相応の少女の美しさに満ちていた。


 しかし、その平和な時間は、長くは続かなかった。


 ガシャリ、と近くの席で乱暴に椅子を引く音が響いた。

 顔を上げると、そこには数人の男子生徒たちが立っていた。全員が剣術科の制服を着ており、その胸元には高級貴族の紋章が誇らしげに刺繍されている。


「おいおい、見ろよ。スプレンディアス家の宝石、エマ様が誰と食事をしているかと思えば・・・・・・」


 リーダー格と思われる、燃えるような赤い髪をした男が、僕を蔑むような目で見下ろした。


「あの『ゴミ箱』じゃないか。おい、貴様のような不浄の汚物が、なぜこの崇高な学院の制服を着ている?ここは魔法の残りカスをすする寄生虫が来る場所じゃないんだよ」


 取り巻きの連中が下卑げびた笑い声を上げる。


 エマの表情が、一瞬で氷のように冷たくなった。彼女は手にしていたフォークを置き、ゆっくりと立ち上がる。その手は、すでに腰の剣の柄にかかっていた。


「・・・・・・もう一度言ってみなさい、ライナス。その無礼な口を、二度と開けないように叩き切ってあげるわ」


 エマから放たれる凄まじいプレッシャーに、ライナスと呼ばれた男が一瞬たじろぐ。どうやらエマも名前は知っている人物だったようだ。


「エマ様、騙されているんですよ!そいつは世間を上手く騙して英雄気取りをしているが、中身はただの『ゴミ箱』だ!そんな男に媚びを売るなんて、スプレンディアスの名が泣きますぜ!」

「黙りなさい!!」


 エマが抜剣ばっけんしようとした瞬間、僕はそっと彼女の手の上に自分の手を重ねた。


「・・・・・・いいんだ、エマ。落ち着いて」

「でもミト! こいつらは、あなたのことを――」

「わかってる。でも、食堂で騒ぎを起こせばエマの評価に傷がつく。・・・・・・それに、こういう連中には言葉で言っても無駄だからね」


 僕は立ち上がり、ライナスの正面に立った。


 身長は僕の方が少し高い。僕はこれまで吸収してきた数多の騎士たちの「威圧感」を、ほんのわずかだけ解放した。


「ライナス、といったかな。君の言い分はわかった。・・・・・・要するに、君は僕がエマの隣に座っているのが気に入らない。そして、僕にそれだけの資格があるのかを疑っている。そうだね?」

「・・・・・・あ、ああ?当たり前だ!エマ様は俺たち剣士にとっての憧れなんだよ!貴様のような、剣も握ったことがないような『ゴミ箱』が並んで歩いていいお方じゃない!」


 要するに、嫉妬だ。

 エマという美しく強い少女の隣を、かつての「ゴミ箱」が独占している。それが彼らのプライドを激しく傷つけているのだろう。


「わかった。なら、証明すればいいことだ」


 僕は食堂に集まった生徒たちに聞こえるように、静かに、だがはっきりと告げた。


「放課後、決闘をしよう。場所は学院の第三演習場。君たちが剣士の誇りとやらにかけて、僕を叩き伏せてみればいい」

「ミト!?何を言ってるの!あなたは財政コースなのよ、剣なんて・・・・・・」


 エマが慌てて僕のそでを引く。彼女は僕が覚醒したことは知っているが、本職の剣士たちと正面から立ち合えるほどだとは思っていないのかもしれない。


「ははは!面白い!『ゴミ箱』が身の程知らずにも決闘を申し込むとはな!」


 ライナスは勝ち誇ったように笑った。


「いいだろう、受けて立つ。俺が直接、貴様のそたたき込んでやるよ!・・・・・・エマ様、見ていてください。本物の強さで、コイツの化けの皮をいでみせますよ!」

「・・・・・・待ちなさい!ミトがやるなら私も――」

「ダメだよ、エマ」


 僕は彼女の瞳をじっと見つめ、優しく微笑んだ。


「これは、僕が僕自身の価値を示すための戦いだ。エマに守られているだけじゃ、本当の意味で隣には立てない・・・・・・信じてくれるかい?」


 エマは何かを言いかけ、唇を噛んだ。けれど、僕の瞳に宿る確かな自信を見て、やがて小さく溜息をつき、深く頷いた。


「・・・・・・わかったわ。でも、もしミトに指一本でもかすり傷をつけたら、次は私がライナスを細切れにするから」


 その言葉の重みに、ライナスたちの顔が引きつる。


「・・・・・・ふ、ふん!放課後だ、逃げるなよゴミ箱!」


 捨て台詞を残して、ライナスたちは食堂を去っていった。

 食堂には、嵐の前の静けさと、新たな騒動を期待する好奇の目が満ちていた。

 僕は食べかけの煮込み料理を一口運んだ。

 

 ――さて、どの『記憶』を使おうか。


 僕の中には、彼らが一生かけても到達できないような、伝説の騎士たちの技が眠っている。


 「ゴミ箱」が本気を出せば、どうなるか。

 それを分からせてやるには、絶好の機会だ。


 エマが少し心配そうに僕の手を握る。その温もりを感じながら、僕は静かに放課後の時を待った。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


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