表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
外伝 ルーカス編 見守る者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

183/237

第5話 嵐の中で

リーゼの診察が始まった。


俺は、診療所の隅で見守っていた。


   ◇


リーゼは、患者を一人ずつ丁寧に診ていく。


脈を取り、熱を測り、発疹を観察する。


そして——


「衣服を見せてください」


リーゼが、患者の服を調べ始めた。


「何を探してるんだ?」


俺は、近づいて尋ねた。


「シラミです」


リーゼが、静かに答えた。


「シラミ……?」


「はい。この病気——発疹チフスだと思います」


「発疹チフス?」


俺は、聞き覚えのある名前に眉をひそめた。


「シラミが媒介する感染症です」


「高熱、発疹、頭痛——症状が一致します」


   ◇


リーゼは、患者の衣服の縫い目を調べた。


「いました」


小さな虫が、縫い目に潜んでいた。


「コロモジラミです。これが、病気を広めています」


「なるほど……」


俺は、納得した。


だが、現地の医師は、首を傾げている。


「シラミが病気を広める? そんな話は聞いたことがない」


「信じていただけなくても構いません」


リーゼが、冷静に言った。


「でも、このまま放置すれば、被害は拡大します」


「対策を取らせてください」


   ◇


リーゼは、住民を集めて説明を始めた。


「この病気は、シラミが媒介しています」


「感染を防ぐためには、シラミを駆除する必要があります」


「具体的には——」


リーゼが、対策を説明した。


「まず、患者を隔離します」


「次に、衣服や寝具を煮沸消毒します」


「そして——」


リーゼが、少し躊躇した。


「髪を短く切ってください」


「シラミは、長い髪に卵を産みつけます」


「駆除するためには、髪を切るのが一番確実です」


   ◇


住民たちが、ざわめいた。


「髪を切る?」


「俺たちの髪を?」


「冗談じゃねぇ!」


怒りの声が上がった。


「髪は男の誇りだ!」


「俺たち鉱夫は、長い髪が伝統なんだ!」


「子供に何が分かる!」


俺は、状況が悪化していくのを見ていた。


リーゼの言うことは正しい。


だが、住民たちには受け入れられない。


伝統と誇りがかかっているからだ。


   ◇


「静かにしてくれ!」


俺は、前に出た。


「彼女の話を聞け!」


「お前は誰だ?」


リーダー格の大男が、睨んできた。


「俺は、ルーカス。彼女の同行者だ」


「彼女は、王立医学院の特別研究員だ。この病気を治すために、王都から来た」


「特別研究員だと? こんな子供が?」


「子供だと思うなら、見てみろ」


俺は、リーゼを指した。


「彼女は、すでに病気の原因を突き止めた」


「五百人以上の患者を診た経験がある」


「お前たちの命を救おうとしているんだ」


   ◇


だが、住民たちは納得しない。


「髪を切るなんて、絶対に嫌だ!」


「俺たちを馬鹿にしてるのか!」


「子供の言うことなんか、聞けるか!」


怒号が飛び交う。


状況は、ますます悪化していく。


俺は、剣の柄に手をかけた。


「これ以上、彼女を侮辱するな」


「暴力で解決するつもりか」


大男が、俺を睨んだ。


「必要なら」


俺は、覚悟を決めた。


リーゼを守るためなら、何でもする。


   ◇


「先輩、やめてください」


リーゼの声が聞こえた。


「え?」


「剣を収めてください」


リーゼが、俺の前に出た。


「私が話します」


「リーゼ——」


「大丈夫です」


リーゼの目が、真剣だった。


俺は——剣から手を離した。


   ◇


リーゼは、住民たちの前に立った。


小さな体。


だが、その姿には——威厳があった。


「皆さん」


リーゼの声が響いた。


「私は、皆さんの誇りを傷つけたいわけではありません」


「髪を切れと言ったのは、皆さんを守るためです」


「……」


「私は、以前にも疫病と戦ったことがあります」


「故郷で、コレラが流行した時です」


「五百人以上の患者を診ました」


「そして——たくさんの人が亡くなりました」


リーゼの声が、震えた。


「助けられなかった人がいます」


「もっと早く手を打っていれば、救えたかもしれない命がありました」


「それが、ずっと心に残っています」


   ◇


住民たちが、静まった。


リーゼは、続けた。


「皆さんの誇りは、大切です」


「でも、死んでしまったら、誇りを守ることもできません」


「私は——皆さんに、生きていてほしいんです」


リーゼの目から、涙がこぼれた。


「お願いします」


「私を信じてください」


「髪は、また伸びます」


「でも、命は——一度失ったら、二度と戻ってきません」


   ◇


長い沈黙が流れた。


住民たちは、互いに顔を見合わせている。


「……くそっ」


大男——ガンツが、頭を掻いた。


「泣かれたら、困るじゃねぇか」


「ガンツ……」


「分かったよ、先生」


ガンツが、リーゼを見た。


「俺から切ってやる」


「髪くらい、また伸ばせばいい」


「命がなくなったら、それまでだからな」


俺は、安堵の息をついた。


リーゼの言葉が、心を動かしたのだ。


   ◇


「野郎ども!」


ガンツが、振り返った。


「聞いたな! 先生の言う通りにするぞ!」


「服を煮ろ! 髪を切れ!」


「俺たちの命がかかってるんだ!」


住民たちが、動き出した。


怒りが、やる気に変わった瞬間だった。


「リーゼ」


俺は、リーゼの傍に駆け寄った。


「大丈夫か?」


「はい……」


リーゼが、涙を拭いた。


「先輩がいてくれたから、勇気が出ました」


「俺は、何もしてない」


「いいえ」


リーゼが、首を振った。


「先輩が守ろうとしてくれたから、私も頑張れました」


   ◇


それから、町全体での防疫活動が始まった。


巨大な釜で衣服を煮沸し、仮設の散髪所で髪を刈る。


俺も、袖をまくって手伝った。


「先輩、そっちの服を釜に入れてください」


「了解」


「次は、あっちの寝具を」


「分かった」


リーゼの指示に従って、作業を進める。


ガンツたちも、一生懸命に働いている。


「先生、これでいいか?」


「はい、完璧です」


「よし! 次だ!」


鉱夫たちの行動力は、すごかった。


一度納得したら、全力で動く。


三日間で、町中の衣服と寝具が煮沸消毒された。


   ◇


「先輩」


作業の合間に、リーゼが声をかけてきた。


「すごいですね……一度納得したら、この行動力」


「ああ」


俺は、汗を拭いた。


「頼もしい限りだ」


「これなら、勝てます」


リーゼが、微笑んだ。


「新規の感染者が、減ってきています」


「そうか……良かった」


俺は、安堵した。


リーゼの判断は、正しかったのだ。


   ◇


一週間後。


新規の感染者は、ゼロになった。


「やった……!」


リーゼが、小さく叫んだ。


「勝ちました……!」


「ああ、勝ったな」


俺は、リーゼの頭を撫でた。


「よくやった、リーゼ」


「いえ、先輩のおかげです」


リーゼの目に、涙が浮かんでいた。


「先輩がいなかったら、私は——」


「泣くな」


俺は、苦笑した。


「お前の力だ。胸を張れ」


   ◇


帰還の日。


町の入口に、住民たちが集まっていた。


「先生、ありがとうございました!」


ガンツが、頭を下げた。


「あんたのおかげで、俺たちは助かった」


「いえ、皆さんが協力してくれたからです」


リーゼが、微笑んだ。


「お体に気をつけて」


「ああ。先生も、元気でな」


馬車に乗り込む。


窓から、住民たちが手を振っているのが見えた。


「先生! また来てくれよ!」


「髪が伸びたら、見せに行くからな!」


リーゼが、小さく手を振り返した。


「皆さん、お元気で」


   ◇


帰路の馬車の中。


リーゼが、窓の外を見ていた。


「先輩」


「何だ?」


「本当に、ありがとうございました」


リーゼの声が、静かだった。


「先輩がいてくれたから、私は頑張れました」


「住民が反発した時、先輩が守ってくれた」


「心細い時、先輩がいてくれた」


「俺は、大したことしてない」


俺は、正直に言った。


「病気を診断したのはお前だ。住民を説得したのもお前だ」


「俺は、傍にいただけだ」


「それが、大切なんです」


リーゼが、俺を見た。


「一人じゃないと思えるだけで、どれだけ心強いか」


「先輩は——私の大切な人です」


俺は、少し照れくさくなった。


「……そうか」


「はい」


リーゼが、にっこりと笑った。


「これからも、よろしくお願いします」


「ああ。任せろ」


俺は、窓の外を見た。


雪景色が流れていく。


俺にできることは、リーゼを守ること。


彼女が安心して力を発揮できるように、傍にいること。


それが、俺の役割だ。


そして——それは、俺の誇りでもある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ