今ここで共に
※現在登場人物紹介は取り払い、こちらを特別表示中です。
A県夜洛市 輪命回病院
西棟側 東棟側
7階 屋上
6階 産婦人科・乳腺外科 小児科
5階 呼吸器循環器内科・外科 心臓外科
4階 消化器内科・外科 脳外科・神経内科
3階 リハビリテーションルーム 整形外科
2階 手術室 ICU HCU 透析室
1階 外来患者受け付け インフォメーション
コンビニエンスストア 救急センター
その瞬間だった。
空の色が 一瞬だけ広い雷が走ったように光る
ドゴオオォッッ ドゴオォォッ
凄まじい音がして、地面は揺れた。
少し遅れて、爆風が辺りを駆け抜けた。
だが、その時 風晴達は他のことに集中していた。
7階の屋上から飛び出した、真淵実咲と聖を受け止めるために、彼らはただ上を見ていた。
『受け止めたら手を離す気持ちで!無理に張ったら両方とも怪我するぞ!!』
北橋が大声で言った。
彼らが飛んだ瞬間、その背景が変わった気がした。
後から思い出せば、あの瞬間爆発していたのだろう。
反対側の西棟6階と屋上が。
風晴の瞳に、見る見る大きくなってくる人間2人の姿が映る。
『こい!!』
彼はその瞬間叫んだ。
そして
ボスッッ
と鈍いような音と共に、一気に赤い布が沈み込む。
長いテープ状の布を、星形にして、トランポリンのようにして待つアイデアは、桂木のものだった。
彼のアイデアで、風晴達は駐車場の柵からストライキ用の長文の書かれた赤い幕を外してきていた。
勿論、それだけでは足りない。
下には、マットレス、布団、毛布、ベッドパット達が敷き詰められている。
正火斗は、4階と5階の人々は西側に避難させただけで下には降ろさなかった。その人達から窓から出せる寝具を落としてもらったのだ。
風晴が祖父と風子に連絡して、呼びかけてもらった。このためだけに、窓を外してくれる人達もいた。祖父は自分のマットレスを落としてくれて、5階の他の人達も習った。風子は4階へと走った。
駐車場にいた人達も来てくれた。
何が始まるのかと聞いてきて、屋上から避難する親子がいるはずだから、受け止める準備をしていると知ると、率先して呼びかけて、寝具を動かしてくれた。
あの時、5分あっただろうか。
風晴は思い返して実感することになる。
本当に、奇跡のようだった、、、、と。
真淵親子が幕と布団やマットレスに沈んだ時、爆風が吹いた。だが、東棟の建物そのものが風除けとなり、その場にいる人達には、一吹きの風に過ぎなかった。
わぁ、、、!
と、声が上がった。
風晴も、水樹も、安西も、桂木も体制を崩して座り込んでいた。
北橋はもう立ち上がって、赤い幕の中から実咲と聖を引っ張り出していた。
『大丈夫ですか?』
と、声をかける。
実咲は聖の身体をあちこち触り、それから北橋にうなずいた。
その時だった
『実咲!!!聖!!』
真淵巡査部長がパトカーから降りてくるのが見えた。
大きな身体で彼は息を切らして走ってくる。
聖が破けて出た布団の綿を払いながら
『お父さん!』
と呼んだ。
その声を聞いた風晴達は顔を見合わせた。
『聖、声が戻ったんだね。』
水樹は目に涙を浮かべた。
安西は、その彼女の肩を抱いて引き寄せた。
水樹はそのまま安西に寄りかかっている。
おぉッと。
風晴と桂木は顔を見合わせて、笑った。
やっとかよ。
真淵耕平は、マットレスや賃金値上げの赤い幕や毛布を避けて出てきた妻と息子に迎えられた。
2人をしっかりと抱きしめる。この上なく、しっかり と。
周りからは拍手が起こり、歓声が上がった。
パトカーや救急車、消防車達が到着した時、あたりはもう薄暗くなってきていた。
北橋勝介が警官に羽柴真吾について報告していた時、調度、近くに停まったパトカーから安藤と正火斗達が降りてきた。
安藤は、北橋にすぐ気づいてやってきた。
北橋の隣りの警官など お構いなしに彼女は口を開いた。
『死者や負傷者は見当たらないとしか聞いてないの。どうなったの?』
『爆弾は2つ爆発したけれど、最小限の被害で済んだと思う。見たら分かるけど、建物の上部端が欠けたような被害なんだ。6階は仕方ないが、後は5階の一部だけだろう。煙も上に消えていくし、救助者はいないし、消防も楽なんじゃないか。』
北橋は説明した。
『あなたは間に合ったの?探し人には会えた?』
安藤の問いに、北橋は右手を挙げて見せた。
『一発はぶち込めた。ただその後 見失ったんだよね。でも警察に手配をもう頼んだところ。』
視線を隣の警官に移す。だいたい話は済んでいたので、警官は軽くうなずくような会釈をして立ち去った。
安藤は真剣に言った。
『残念だったわね。』
『そっちはどうしたの?』
北橋は、安藤のスーツの汚れや、擦り切れた膝部分を指さした。
『ぁあ、ええっとね!、、、色々あったのよ。正火斗くんを通さなくちゃいけなくて。だから、警察に立ちはだかったの。で、倒されるとか蹴られるとか、そんな感じ。』
北橋が真顔になった。安藤は慌てて付け足す。
『でも一瞬だったし。あとは揉めてる暇もなし。こっちも痛くもなんともなかった。とにかく、それどころじゃなかったもの。』
『この後 病むかもね。今夜一緒にいようか?』
サラリと彼はとんでもない発言をする。いつもなら,切り替えせていただろう。だが、星那も今はあちこち弱っていた。彼を見上げたまま、止まってしまった。
北橋は壊れものを扱うかのように、優しく、星那を抱擁した。耳元に低い声で囁く。
『先生 代行 ご苦労さん。助かった。』
星那は しばし北橋の腕の中にいたが、思いついたかのように顔を勢いよくあげた。
『ランドクルーザーは?!なんか、、、見当たらなくない?』
北橋は手を戻して頭をかいた。
『あー、、、アレね、デカ過ぎてやっぱり混んでる中は走れなかったんだわ。だからレンタカー屋で、あっちに変えちゃった。』
彼の指差した先には、ヤマハのドラッグスター250が停まっていた。
『おかげで すっ飛ばして来れて間に合った。ランドクルーザーはやっぱり駄目だな。しかも黄色じゃ。』
安藤星那は心底思った。コイツやっぱり大嫌いだ!!!
『さっさとそのバイク返して来なさいよーー!!』
彼女は大声で北橋勝介に命じた。
救急車に妊婦達、産後の母親達と赤ちゃんが乗せられて行くのを見届けて、風晴はホッとした。
ふと、眺めているうちに、桂木達とはぐれたようだと気づく。まあ、近くにはいるだろうが。
少しキョロキョロしていると、声をかけられた。
『風晴!』
が、その声は桂木でも秀一でもなかった。
振り返ると、今日1番の功労者が歩いてくる。
やはり周りから浮かび上がるほどの凛々しい たずまいだったが、彼の美しい顔には 疲労が色濃く出ていた。
『大丈夫だった?』
彼からの問いは放って、こちらが労う。
『正火斗、お前ってやっぱり凄いのな。』
正火斗は動きを止めた。
『水樹も、オレも、聖も、じいちゃんも、みんなも。お前が守った。お前が救ってくれた。ありがとう。』
風晴の言葉に、彼の表情は崩れた。
『いや、1人じゃ実際出来なかったし、踏み切れなかった。みんなのおかげだし、風晴のおかげだ。』
正火斗は言った。
『ありがとう。ぼくを信じてくれて。それから、聖を信じることを後押ししてくれて。』
彼の顔は、笑顔のようでもあり、泣いているようでもあった。
風晴は正火斗が気の毒になった。
どれほどの重圧だったことか。あまりに多くの命を、今日彼は背負ったのではないだろうか。
風晴は正火斗に近づくとその背中を2度ポンポンと叩いた。
『お前の力になれてたなら、良かった。本当に、、、良かったんだ。』
上手い言葉は出てこない。そう言う自分に少し呆れたが、彼には伝わったようだ。正火斗は風晴の肩に頭を垂れて、自身の顔に右手を添えた。大きく息をついたあと、一言、
『腹が 減った。』
と耳元で聞こえて、風晴は吹き出した。止めることができなくて、笑い続けた。正火斗はその風晴を見て微笑んだが
『結構切実なんだ。この後 聴取があると思う。今日中に帰れるかどうか、、、。』
と沈んだ声で言った。
風晴は正火斗を見つめた。
そこに、聞こえていたのかもしれないー
太い力強い声が飛び込んできた。
『君!君達!今日はもう帰りなさい。我々も忙しくて手が回らない。聴き取りには後で出向かせる。』
正火斗が、その声の相手の方を向いて 言った。
『江元本部長、、、、』
風晴は、なんか偉い人なんだろうな、と言う気はして軽く会釈した。
『だが一つ条件がある。大道くん。』
『はい?』
正火斗は怪訝な顔をして聞き返した。
『君は絶対にこの先、犯罪者やテロリストになるなよ!、、、全く、捕まえられる気がせんよ、本当に。』
言われて、正火斗は一瞬戸惑ってから、笑顔になった。
江元も、彼を見て笑い返した。
風晴は、正火斗に
『最高の褒め言葉なんじゃないか?よくわかんないけど。』
と言った。正火斗は
『よくは分からないけどね、まあ、褒められたような気がするよ。』
と返した。
2人が笑っていると、桂木や秀一、水樹達の方が、見つけて来てくれた。神宮寺と椎名もいる。
そこに、
ドン!
と大きな音がして、皆、驚いて頭を低くした。
ドン! ドン!
と、音は続き、夜空に円状の花が開く。
『花火だ!!』『花火、、!』
あちこちから声がした。
まだ近くにいた江元に、正火斗が
『許可したんですか?』
と質問するのが聞こえた。
『大会は中止にして観客は帰路に向かわせているが、主催者提供花火の一部は許可した。花火大会を楽しみにしていた人達の寄付金で作った花火なんだ。
どっかの誰かさんが花火会場の爆弾はただのトラップだと言うから、待たせていた。』
その言葉の間も、花火は
ドン! ドン!
と上がり続けた。
帰り途中の人も見れるようになのだろう。空が薄暗い程度でも、それは打ち上げられた。
闇夜ではなくても、花火は綺麗だった。
駐車場では、みんながしばし作業の手を止めて 花火を見上げた。
治療する者、される者、警備する者、整備する者、、、
病院の窓から、入院患者と、その家族達。
風子と臣五郎も見ているのが分かった。
風晴と正火斗。
水樹と秀一、神宮寺や椎名、桂木。
真淵親子も、3人で見上げている。
安藤と、バイクにまたがる北橋も。
屋上ではないけれど、駐車場から、新人看護師の椎名楓も。
誰もが思った。
この花火を 忘れない と。
転落編・飛翔 これにて 終了です。
まさしく転落展開だった苦しい道のりを共に歩んで頂きまして、誠にありがとうございました。
もうクライマックスで良くない?と言うところまで持っていったような転落編のラストでした。
が、『炎と水と』は、この後、解決編前半・後半へ
そして、公約ドンデン返し部分 最終編 へと、続きます。
羽柴真吾の行方、緑川まどかの正体、地蔵トリックの解説、結局言葉には何もしてない安西と水樹、なんとかなる?北橋と安藤、仲間達との夏の終わりまで、もう少しお付き合い下さりますと大変大変幸せです。
2025年夏設定の本作。夏の間には終わる予定です。
色々山場でした転落編。今の自分の全力 なんてものはすでに果て、キャラクター達が私の構想や予想を上回るものを創ってくれています。
小説家になろうでは第1作目のくせに、もうこれ以上は、無いかもしれないと思うほどです。すでに感想やブクマ等の評価下さっている方々、大変感謝致しております。支えられています。
それでも尚、作者として書いてよろしいでしょうか。
リアクション、ポイント、ブクマ、感想等まだまだ頂けましたらば、大変励みになります。間違いなく励みになり、励みます!
宜しくお願い致します。
2日お休みの予定です。ちょっとお休み下さいませ。その後は、解決編・前半を1エピソードずつの更新です。
活動報告にて、明確な再開日時決まりましたらお知らせ致します。
読んで頂きまして、本当に、どうもありがとうございました。
流石にちょっと疲れました。頑張ったぞ!私
シロクマシロウ子