手探りの反撃へ
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵実咲・・・耕平の妻。
◆真淵聖・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。
◆北橋勝介・・・フリージャーナリスト。
◆安藤星那・・・朝毎新報・新聞記者。
ミステリー同好会メンバー達は広間から出て、階段を上がった。上がりきったところでかすかにだが────風晴の泣き声が聞こえた。
水樹や椎名はもう泣いていた。
椎名はハンカチを出して、その顔を拭っている。
正火斗は妹の肩を抱いた。
「真淵巡査部長と桜田の母さんの話からしたら、聖のお母さんは……聖に出生のことをバラすぞって脅されたってことだろう?
犯人、ひどいヤツだ。こんなやり方あるかよ」
桂木は肩を震わせていた。
「話しは……北橋さんや安藤さんにも言おうと思う。どうしても"緑川まどか"と"今井薫子"は気になる。2人に頼んでちゃんと調査してもらおうと思うんだ」
正火斗は泣く水樹を抱きとめたまま言った。
すると神宮寺が
「部長"今井薫子" についてなら、実家に住んでいる妹さんから安藤さんに連絡があったそうですよ。お盆に入るから仕事が休みになりますって。
明後日 北橋さんと陽邪馬市に行って話を聞くことになってるみたいです。安藤さんから聞いて、僕も一緒に行こうかなって部長に相談しようと思っていたんです」
安藤狙いの神宮寺は北橋と2人きりにしたくなかったのかもしれない──とは、考えすぎだろうか。
「そうだったんだな。じゃあ一緒に連れてってもらおう、神宮寺。"今井薫子"の生い立ちデータをまとめていてくれていたから、椎名もこないか?──返事は後でもいいけれど」
椎名も水樹もボロボロだったので、正火斗はそう付け足した。だが、椎名は大きくうなずくリアクションをして表した。
「は、はい……っ」
安西は正火斗に言った。
「それじゃあ僕は風子さんと風晴に話をして、輪命回病院に行ってみようかと思うんだ。風晴のおじいさんのお見舞いってことで、今なら僕らもついていけるよね」
「なるほど」
正火斗は副部長にうなずいた。
「お! それいいじゃん! オレ風晴のじいちゃんに会ってみたい。けど、どうやって行く感じになるんだろ?」
安西が答えた。
「前に風子さんと大河さんが話してるの聞いたことがあるけど、その時風子さんはタクシーで行ってるって説明していた。
運転免許証は持っているけれど、車がないからって。大河さんは車を貸そうとしてくれたけど、何かあって戻れなくて大河さんが帰れなくなったら良くないって断ってたんだ。────これさ」
彼は続けた。
「例えば明後日にしたら、北橋さんはランドクルーザーに乗って行くわけだからレクサスを置いていくだろう?
北橋さんに,車貸してもらったらいいんじゃないかな?」
「たしかに!!」
桂木は安西案を絶賛だ。暑さの中の移動を恐れている。
「悪くない案だと思う。今の輪命回病院では何もつかめないかもしれないが、これだけ名前が上がるんだ。行ってみてほしい。北橋さんに車のことも頼んでみよう」
そう言った正火斗に安西はうなずいた。
そこに
「私も病院に……行きたい」
と水樹が言った。
「私も何かしたい。……病院で調べるわよ! 一緒に」
水樹は必死に涙をぬぐって言った。見かねて、安西はポケットからハンカチを出して差し出す。
だが水樹は首をしっかり横に振った。
もうハンカチなんていらない
正火斗が
「とりあえず部屋に戻ろう。女子は顔を洗いたいだろうし」
と言った。
その指示で、ぞろぞろとみんなが歩きだした。
安西はハンカチをポケットに戻して、椎名の肩を抱いて女子部屋に入っていく水樹の後ろ姿を見送った。
夕食の席に 風晴の姿はなかった。
聖と別れた後、自室で寝入ってまだ起きていないと風子がみんなに説明した。
「心配かけて、みなさん 本当にごめんなさいね。あの子には後でちゃんと食べさせますから」
一度深く頭を下げて 風子は広間を出て行った。
夜ご飯はカツ丼だった。キュウリとナスの2種類のお新香もついていて、あとは豆腐、わかめ、ネギ、なめこの味噌汁だ。その どっちりとした盛り具合を見て桂木はむしろ、こう言葉をもらした。
「食えんのかな、あいつ」
"頂きます"をして かき込む。出汁の染みたカツの ころもとトロリとした卵が絶妙に混ざる。何があっても腹は減っていた。
しばらく誰も喋らず食事の音だけだったが、そこに携帯電話の着信音が響く。
「はい、そうです。…………」
素早く応答して 立ち上がったのは安藤星那だった。彼女も、もう食事を一緒に摂るようになっていた。
電話をしながら席を立ったが、安藤の受け応えから──あまり良い話しではないのが伺えた。
最後には
「…………編集長! 編……」
と言う声と溜め息が聞こえた。
それから彼女は戻って来て北橋に、そしてみんなに話した。
「駄目だった。輪廻回病院については"過去の疑惑"ってだけでは枠が取れないって。被害家族達が顔出しでもしてくれたら信憑性が出るけど、やれないならできないって」
北橋は頬張っていた食事を飲み込んで、言った。
「想定内さ。突っ返されるのは分かってた。でもこれで朝毎新報に君が輪命回病院のネタをつかんでることは伝わった。そこまででいいよ──今はね」
高校生達が北橋を見た。安藤は見たうえに 眉を上げた。
北橋は続けた。
「真淵実咲がどこまで証言してくれるか今は分からない。でも もし真淵実咲、桜田風子、井原雪枝の3人が"ハイブリッド卵子"の詐欺まがい売り込みについて話してくれたら、誰か1人が顔出し なんてしなくても かなり信憑性が上がると思うよ」
「希望的観測──ですね」
安西はそう言ったが 北橋は
「いや、現実的な可能性を上げるさ。奥の手がある」
と言って キュウリを口に放った。パリパリと音がする。
「奥の手って?」
聞いたのは安藤だった。
「イギリスのメディアに知り合いがいるから、"日本での最先端卵子研究をうたう医療詐欺疑惑"として報じてもらえないか頼んでみる。
芸能界の闇の暴露も始まりは海外報道がキッカケだった
だろ? 日本て島国は外からのテコ入れに弱い」
北橋の話に、安藤が美しい顔を輝かせる。
「いけるかもね。そうしたら、うちの上層部も報道に乗り気になるかも。10年以上も不妊に悩む女性達につけ込んで利益を得たヤツらが、今も野放しになってるなんて許せないわよ。絶対記事にするわ!」
「そうしたら警察…………動いてくれたら、いいですね」
椎名が味噌汁の椀に両手を添えて言った。
安藤は椎名に大きくうなずく。
「大丈夫よ。私はそれまで追うから」
北橋が顔を上げて
「あのランドクルーザーで? 黄色の?」
と言ったので 安藤は彼を睨みつけて
「あなた明日乗せてほしいのよね? それに?」
と聞いた。
北橋は頭を少し下げて素直に述べる。
「乗せてほしいです。美人の隣りに」
安藤星那は女王の如く告げた。
「よろしい」




