2人だけの奈落
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆井原雪枝・・・風子に屋敷を貸すオーナー。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵実咲・・・耕平の妻。
◆真淵聖・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。
◆真淵和弥・・・耕平と実咲の次男。
「聖…………」
聞くべき話の全ては終わった。
真淵は立ち上がって 息子に声をかけた。その時だった。
「真淵巡査部長」
桜田風晴の声だった。真淵は彼を見た。
「聖と話をさせてもらえませんか? ──── 少しだけ。2人で」
彼はそう言った。
わずかな間の後、真淵は決断した。
「分かった。聖、車で待っているから」
そう言って席を後にした。
ミステリー同好会メンバー達も、ぞろぞろと出て行ってくれている。井原雪枝も席を立つ。
「風晴…………」
隣りから呼ばれて、風晴はその人にしっかりと言った。
「母さん」
そして、うなずく。
その人も自分を見て ただ うなずいた。
大丈夫 ほら
母と息子は──それだけで分かり合える。
風子が立ち上がり広間を出て行った。
風晴も立ち上がりテーブルを周り、聖の傍に行った。
「聖。今、何を考えている?」
「……………………」
聖は答えなかった。
目も合わせない。
でも風晴はそれを予想していた。返事を求めた問いではなかった。
「オレ、かなりショックだった。一歩間違えたら クラクラしてたかもしれない。あの黒竜池の時みたいに」
聖がチラリと風晴を見る。
「なんでこんなの知らなくちゃいけないんだろうな。どっかの誰か──神様みたいなのがいるなら、言ってやりたい」
風晴は拳を握った。
「人の運命 もて遊ぶな って。これ以上があるなら……そんなもん無い気もするけど、もしあるとしても──何も変えられないし変わらない」
聖は風晴に顔を向けた。
「怒ってるんだ、オレ。腹が立って仕方ない。オレ達の 今までを踏みにじるな!!! って言ってやりて……」
ガタンと椅子が倒れた音がして、聖が飛びついてきた。
風晴は驚いたが、やがてすぐに理由が分かった。
聖は風晴を引き寄せて 頭をなでた。
ああ そうか
泣いてるんだ、オレが。オレの方が
情け無い。…………でも……
気がついて 崩れ落ちる。聖も風晴を抱えて 床に座ってくれた。
聖はただ優しく風晴を撫で、さする。
風晴は自分に泣くことを許した。
お前が泣けないなら その分も、オレが泣いてやるから
────なんて 馬鹿な考えだ
でも確かに そう思った。強く 強く 強く
そう 思ったんだ
この残酷な世界の中で
風晴は聖にすがって泣いた。
これ以上堕ちることを恐れるかのように。
小さな子供のように、身を縮める。
広間の窓から 厳しいほどの眩しい陽が差し込む。
2人を照らすけれど、聖はその体で 風晴をおおった。
守るように。
2人だけの広間で
その泣き声は ただ 哀しく 響いた────




