表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/128

行き違う愛達


※現在登場人物紹介は取り払い、こちらを特別表示中です。




A県夜洛市 輪命回病院



     西棟側            東棟側


7階          屋上


6階 産婦人科・乳腺外科         小児科


5階 呼吸器循環器内科・外科      心臓外科


4階 消化器内科・外科       脳外科・神経内科 


3階 リハビリテーションルーム     整形外科 


2階 手術室 ICU HCU 透析室 


1階   外来患者受け付け   インフォメーション

   コンビニエンスストア      救急センター







まずは桜田臣五郎にミネラルウォーターを買おうと、安西、水樹、桂木は一階に降りた。一階にはコンビニエンスストアが入っている。

コンビニに入ろうとした時、正面入り口から入ってきた人物に、水樹は目を見張った。


『聖!』


大きな声で呼びかける。聖はビクリとして、水樹達を見た。だが、すぐに視線をそらす。

水樹は歩み寄った。


『良かった、会えて。お母さんに会いに来たんでしょう?

お母さん、意識が戻った?』


聞いたが、聖はすぐには答えなかった。それでも3人が待っていると、小さくだが、首を左右に振った。


『、、、そう。心配だね。』


水樹の返事に、聖は今度は素早くうなずいて、そして、立ち去ろうとした。


『待って!』


水樹は必死で止めた。聖は止まったが、顔は向けず下を見ていた。


『これ、聖に受け取ってほしいの。』


水樹はキャロットパンツのポケットから、折りたたみナイフを取り出した。

安西は、その水樹の姿にショックを受けた()() に 衝撃を受けた。


『変な物でごめんなさい。でも、私にとって大切な物だったの。今はもう、それに甘えたくない。受け取ってくれないかな?』


聖はナイフと水樹を交互にチラチラと見た。だいぶ迷っていたようだが、やがて手を伸ばして、折りたたみナイフを手にしてくれた。

水樹は肩で大きく息をした。

それから、


『ありがとう。』


と聖に告げる。

聖は一度だけ水樹を見て、あとはエレベーターへと足早に歩いて行った。

その聖の背中を、水樹は見送った。

見えなくなってから振り返ると、

安西が近くに来ていた。

彼の方から傍に来ることは、もうほとんどなかったから、少し驚く。


『水樹は真淵くんが本当に好きなの?』


聞かれて、彼女は 今度は、ひどく驚いた。

だけど実は、安西の方が驚いていた。自分自身に。


(こんなことを聞くなんて、僕はどうしたんだろう?)


2人は見つめ合っていたが、それはほんの刹那(せつな)だった。でも互いにそれはもっと長く感じられた。

水樹が、唇を開いて、、、


ブーブーブーと、

安西のスマートフォンが振動して、彼は必要以上にビクリとした。

水樹もドキリとしたようで、胸に手を当てている。


安西が画面を見ると、正火斗からだった。









スマートフォンが振動した時、彼女はすでに決意を固めていた。

着信の画面が最愛の夫であっても、それは変わらない。

出ないと言う選択肢もあった。だが、結局通話を押す。無視することは、できなかった。


『実咲?実咲か?意識が戻ってるのか?』


彼はひどく慌てていた。どうしたの?何も知らないはずなのに。


『あの手紙で最後にしようと思っていたのに。、、、私、馬鹿よね?』


実咲は空を見つめて小さく言った。


『助かって良かったんだ。オレは何もお前を責めようと思わない。今は、聞いてくれ。まだお前を脅すヤツらは動いてる。そこも危ないかもしれな、、』


『知ってるわ。』


彼女は知ってると言った!" 知っている "と。加担するのか?自分の妻が?

真淵耕平は身を震わせて言った。


『なんでなんだ実咲、、、?どうしてだ?お前、オレを裏切るのか?7年前の和弥のことじゃない。今、オレを、オレ達を裏切るのか?』


桜田風子がこの人に話したのだろうか。大丈夫のはず。この人達なら、聖にまでは伝えたりはしないだろう。それに、私は約束通りに命を懸けるから。


『あなたは、何も分かっていない。』


実咲の声は、ブラインドもカーテンを閉め切った個室に 静かに響いた。


『和弥を産んで、育てて、だからこそ分かった事実もあるわ。()()()()()()ら、普通の、元気な、素晴らしい子供が育った!

子育てが、楽、とても楽で、楽しい!他のお母さん達と気兼ねなく接することができる!だけど、それが、それが、それこそが、、、』


実咲の頬を涙が伝う。


『私をどんなに追い詰めていたか、あなたに分かる?

そう感じるたびに、聖に申し訳なく思った。自分という人間の(みにく)さの証しだもの。あの子の生きづらさを、どうにもしてやれなかったのに、和弥を見て、あの時、自分の卵子を使わなくて正解だったと、そう心底思っていた!私は、そう思って暮らしていたのよ!あなた達と!!!』


『実咲、、、、』


『、、、墓場まで持っていくことを誓っていた秘密だったわ。そうしたら、幸せは守られると信じていた。それが私の償いだと思っていたの。

でも、電話は 鳴った。』


彼女の瞳からはまだ涙が溢れていたが、言葉は、それを感じさせないほど、強くでた。


『あなたに罪は無いの。()()()()()()()()()()()()()()?罪は私にある。私が産んだから、私の遺伝から、聖はああ産まれてしまった。私は、せめて最後に、あの子に償わなくては。』


『実咲!待て!聞いてくれ、実咲、、、』


夫の声は遠くに聞こえた。最愛の人。最後に話せて良かった。

耳元から、実際にスマートフォンは離し、通話を切る。

電源も切った。


瞳を閉じて思い描く。


あの人と、和弥と、聖。

ありがとう、本当に。

こんな私に幸せをくれて。


母親は立ち上がり、床に裸足の足をついた。その先には、かなり大きな紙袋がある。清掃員の男が置いていった。

実咲は、それを見つめた。しっかり と。







通話を切られて、真淵はすぐまたかけ直した。妻に。だが、電源が切られている。


『クソっ、、、、!!!』


スマートフォンを叩きつけんばかりの勢いで、ハンドルに手を叩きつけた。彼は、そのまま しばし動けなかった。

ただ息を荒くついて、流れる感情に揺さぶられる。


(どうして信じられない!?たとえ、そうだったとしても、オレ達の幸せは、ちゃんとそこにあったのに!!!)


伝えられなかった言葉が胸を焼き、痛む。

睨みつけるように顔を上げた時、駅の駐輪場が視界に入った。

見覚えのあるマウンテンバイクが目につく。

毎日見てる。聖のだ。

駅、電車、、、、聖はどこへ?


真淵は息すら止めていた。

向かった先は一つしかない!


『なんてことだ、、、』


彼は、ギアを入れ替えて、アクセルを踏んだ。

仕事を辞めることになっていい。

パトカーのまま、夜洛市に向かう。

働く意味なんて無い。


愛する者達を、守れないなら。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ