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見失った家路2

ー登場人物紹介ー


桜田風晴さくらだかぜはる・・・田舎の農業高校2年。

桜田風子さくらだふうこ・・・風晴の母親。民宿を営む。

桜田晴臣さくらだはるおみ・・・風晴の父親。市議会議員。6年前から行方不明。

桜田孝臣さくらだたかおみ・・・晴臣の弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。

桜田和臣さくらだかずおみ・・・晴臣の弟。桜田建設社長。


大道正火斗だいどうまさひと・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。

大道水樹だいどうみずき・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。

安西秀一あんざいしゅういち・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。

桂木慎かつらぎしん・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。

神宮寺清雅じんぐうじきよまさ・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。

椎名美鈴しいなみすず・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。


宝来総司ほうらいそうじ・・・正火斗、水樹の実父。元陽邪馬市市長。桜田晴臣が行方不明になる同日に転落死。

西岡幸子にしおかさちこ・・・桜田家の隣人。

井原雪枝いはらゆきえ・・・風子に屋敷を貸すオーナー。

大河弓子おおかわゆみこ・・・夏休みの間の民宿の手伝い人。

大山おおやまキエ・・・黒竜池によく行く老婆。


真淵耕平まぶちこうへい・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。

真淵実咲まぶちみさき・・・耕平の妻。

真淵聖まぶちひじり・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。

真淵和弥まぶちかずや・・・耕平と実咲の次男。


北橋勝介きたはししょうすけ・・・フリージャーナリスト。

安藤星那あんどうせいな・・・朝毎新報・新聞記者。


羽柴真吾はしばしんご・・・関光組組員。6年前から消息不明。

松下達男まつしたたつお・・・関光組組員。羽柴の舎弟。

緑川みどりかわまどか・・・羽柴真吾の女。6年前から消息不明。




桜田風晴が、白い定型封筒の手紙を受け取った頃、同じ種類の封筒がもう1通、灰畑(はいはた)駐在所にも届いていた。

宛名は、真淵耕平 様 だった。



輪命回(りんめいかい)病院で、真淵実咲は一命を取り留めた。意識は戻ってはいないが、昏睡のレベルが危険なものではなく、戻る見込みも高いと判断されて今朝一般病棟に移された。

昨日は実咲の両親が来てくれて、和弥を預かって行ってくれた。

聖は昨日一日中母親のベッドから離れなかった。誰も、離すことができなかった。今日、一般病棟に移るとなって、やっと家に一度戻ることを了承してくれた。おそらくほとんど寝ていなかった息子は、自宅に連れてきて、崩れるように布団に横になった。今も、寝息をたてている。



真淵は今日は私服のままだった。実咲に何か異変があればすぐに向かいたい。署には勿論連絡を入れてあって、駐在に届く電話は皆転送にしてもらった。

迷惑をかけているのは分かっているが、どうしようもなかった。ここで一番大切なものを優先できなければ、仕事を辞めていいつもりだった。

最も、続けられないのかもしれないが。



閉め切り、誰も来ない事務所の方で、その封筒を開けた。差出人の名前は無かったが、彼女の字だとすぐ分かっていた。19年、ほとんど毎日 一緒にいた人なんだ。


真淵は中にあった手紙を取り出した。B5程のサイズで、3枚に渡っていた。折りたたまれていた それを広げる。




" 真淵耕平 様


 許して下さい とは あなたに とても言えません。

 私はあなたと子供達に、許されないことをしていま

 した。

 分かってほしいのは、分かってもらえるのならば、

私は隠すことでこの幸せを守りたい と本気で

思ってきた ということです。

 思い返せば、私はせめてあなたには相談すべきだっ

たのでしょう。あの、残酷な選択をしてしまった

時に。

 今となっては全てが取り返しがつきません。やり直

 すことはできない。決して、できないのです。

 

 それでも、信じて下さい。

 私は、あなたといて本当に幸せでした。あなたと、

 聖と和弥がいて、それが本当に幸せだと感じられ

 る日々を私達は確かにそこに築けていた。"



真淵は泣いていた。必死に顔を(ぬぐ)い、続きに進む。

次の一文に目が留まった。



" でも電話が鳴ったのです。あの日。駐在所に3回目

 の電話が。それで、私の秘密は暴かれてしまった。


 あなたにとっても、聖にとっても、今の私はいなく

 なった方がいい。そう思いました。私はずっと、聖

 に罪を感じて生きてきた。あの子にこの罪を償わな

 くてはなりません。せめて、あの子がこれ以上傷つ

 かないように最後に守りたいのです。だから、どう

 か 私の決断を悲しまないで下さい。

 和弥には本当に申し訳なく思っています。これから

 の毎日に、母親がいない生活をさせて、申し訳あり

 ません。カレーライスを、おばあちゃんに作っても

 らって下さい。"



そこで、彼女の字も乱れ、(にじ)んでいた。

真淵は前が見えなくなるほど泣きはらしていたが、最後の3枚目にたどり着いた。



" あなたの仕事に、私が影響してしまったら申し訳あ

 りません。あなただけにしてしまって、ごめんなさ

 い。


 けれども最後に、これだけは言えます。

 聖も和弥も、間違いなくあなたの息子です。あの子

 達を育てて、愛してあげて下さい。

 どうか 私の分まで。


                   真淵 実咲 "





駐在所の静寂の中には、しばらく嗚咽(おえつ)だけが響いていた。



いつの間にか、窓をポツポツと叩く雨音がしだし、数分でザアッと言う雨音に変わる。駐在所の屋根を叩く。

真淵耕平の慟哭(どうこく)は雨音に打ち消された。


それは、灼熱の日中をしばし やわらげる 優しい雨だった。

次から次へと空から落ちる大粒の水滴たち。

乾いた大地に染み込み、熱を奪い、空気に潤いを与え 生命を癒す。


優しい、雨だった。







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