最悪の終点1
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵聖・・・耕平の長男。農業高校2年。
安西は重い足取りでオープンスペースに向かった。
水樹が1人──大きな出窓の縁の部分に座っていた。
窓の向こうの木々も、夜空も星も彼女にふさわしい背景のようになっている。
安西は眼鏡をかけてこなくて正解だったと心底思った。
見ていたくもない
早く戻りたい
逃げ出したい
彼女から
「何の用事? 今日はちょっと……疲れてるんだけど」
開口一番で嫌な口調だった。自分でも思った。それで良かった。
「……………………」
いつもならやり返すどころか、こちらをズタズタに裂ける女王の言葉が今夜はなかった。
彼女は悩むような表情で、無言だった。
安西は少し近づいた。少しだけ──だ。
「何かあった? 真淵くんと」
水樹がその美しい瞳でこちらを見上げたので
(ああ、そうか。やっぱり)
と思った。
「仲良くなれなかった?まだ会って2回目だもの。大丈夫だよ」
「私は……」
女王は唇を開いたけれど、珍しく言い淀んだ。それで、珍しく安西の方が言葉をかぶせることができた。
「水樹が本気だしたら、誰だって好きにさせることが絶対できると思うよ。真淵くんは…………今までの相手よりは時間はかかるかもしれないけれど」
「秀一は────」
彼女の口から自分の名前が出たので、刹那聴き入ってしまった。なんて恐ろしい女性だろう。
「秀一は、私と聖がうまくいったら本当に嬉しい?」
彼は迷いなくうなずいた。
願ってきた。
君の幸せを────ずっと
「嬉しいよ。良いことだと思う。水樹に本当の好きな人ができること。真淵くんとだと遠距離になるだろうけれど、応援するよ」
「心から?」
水樹の声が震えている気はしたけれど──眼鏡の無い自分には顔がぼやけていて、表情は見えなかった。
「勿論、心から」
心から願ってきた。
君の幸せを────だから
「分かった。…………もう、行って」
女王の許しを得た。彼は足早にその場を去った。
残された水樹は 1人窓辺の端で身を縮めた。長い髪がその身を包むように流れた。
今夜──秀一に、借りていたハンカチと5年間持ち続けていた折りたたみナイフを渡そうと決めていた。
何故だろう?
分からないけれど、彼に渡したかった。
そうしたらこの身から、何か言葉も出るような気がしていた。伝えるべき何かが。
分からないまま、ただただ苦しくて悲しくて涙は溢れ落ちる。
それを返し損ねた秀一のハンカチで、拭ってそして気がつく。
自分は馬鹿だ
本当に、どうしようもないほどに
嗚咽を彼のハンカチで押し殺して、脚を丸めて泣いた。
北橋は"取り返しがつかなくなる前に"と言ったけれど、もう充分 取り返しはきかなかったのだ。
何も取り返せない。
自分はやはり 戻れない。
もう元には……戻れないんだ。




