表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/128

先行きの不安

ー登場人物紹介ー


桜田風晴さくらだかぜはる・・・田舎の農業高校2年。

桜田風子さくらだふうこ・・・風晴の母親。民宿を営む。

桜田晴臣さくらだはるおみ・・・風晴の父親。市議会議員。6年前から行方不明。

桜田孝臣さくらだたかおみ・・・晴臣の弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。

桜田和臣さくらだかずおみ・・・晴臣の弟。桜田建設社長。


大道正火斗だいどうまさひと・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。

大道水樹だいどうみずき・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。

安西秀一あんざいしゅういち・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。

桂木慎かつらぎしん・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。

神宮寺清雅じんぐうじきよまさ・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。

椎名美鈴しいなみすず・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。


宝来総司ほうらいそうじ・・・正火斗、水樹の実父。元陽邪馬市市長。桜田晴臣が行方不明になる同日に転落死。

西岡幸子にしおかさちこ・・・桜田家の隣人。

井原雪枝いはらゆきえ・・・風子に屋敷を貸すオーナー。

大河弓子おおかわゆみこ・・・夏休みの間の民宿の手伝い人。

大山おおやまキエ・・・黒竜池によく行く老婆。


真淵耕平まぶちこうへい・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。

真淵実咲まぶちみさき・・・耕平の妻。

真淵聖まぶちひじり・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。

真淵和弥まぶちかずや・・・耕平と実咲の次男。


北橋勝介きたはししょうすけ・・・フリージャーナリスト。

安藤星那あんどうせいな・・・朝毎新報・新聞記者。


羽柴真吾はしばしんご・・・関光組組員。6年前から消息不明。

松下達男まつしたたつお・・・関光組組員。羽柴の舎弟。

緑川みどりかわまどか・・・羽柴真吾の女。6年前から消息不明。



合同葬儀では、風晴の元には農業高校の同級生達も訪れた。クラスのほとんど、それに去年一緒だっただけの顔もあって、正直驚いた。

だが、やがて思った。


(灰畑じゃあ、大事件だものな。)と。


形だけの挨拶をしていくヤツもいれば、どう声をかけるべきかだいぶ考えてくれたんだろうなと感じられる女子生徒もいた。それから、クラスでよく一緒にいるメンバー。


『矢野、吉沢、悪い。オレ昨日当番忘れてたわ!』


今は夏休みだが、農業高校では水まきや餌やりの当番がある。あまりにも色々ありすぎて風晴はスッカリ頭から抜け落ちていてすっぽかしていた。


『ばっかお前、来てる場合じゃなかったろ。』


『LINEして来させることになったら悪いから、黙ってた。でも心配はしてたからさ、会えて良かったよ、桜田。』


矢野と吉沢は中学から一緒の同級生だ。


『でも人足りなくて大変だったろ?オレ連絡もしなかったから。』


『それがさ、』


矢野は吉沢と顔を一度見合わせて、それから続けた。


『真淵が来たんだよ。お前の代わりだって。』


『真淵⁉️』


風晴は心底ビックリした。そこで聖の名前が出てくるとは思ってもみなかった。


『なんか、"桜田くん、、、来れないだろうから、、代わりに、、。"とかゆっくり小さく言ってたぞ。』


確かに絶対にそれは聖だ。


『夏休み中に真淵と会ってたのか桜田?いつの間に?』


吉沢に聞かれて、風晴は正直に答えた。


『それこそ今回の黒竜池とかで、偶然会ったんだよ。で、後は2回くらい。あいつ、喋り方ゆっくりだけど、結構ちゃんとしてたんだ。』


矢野の相槌(あいづち)は意外なものだった。


『分かる。いっつもしっかり作業するしよ。実際お前よかちゃんと糞掃除してったぜ。だから" 真淵、良いヤツじゃん" って言ったら、なんか、、、ニッコリされた。』


『あいつ、どっか小動物みたいだよな。妙な健気さ?愛らしさ?みたいな。』


そうして友人達は


『じゃ、またな桜田。お前ちゃんと真淵に礼言えよ!』


と去っていった。


(真淵聖は、人知れず隠れファンを増やしているのかも知れない。)


と風晴は思った。


また、よくあったのは風晴に挨拶しに来て、凰翔院(おうしょういん)学園の生徒を紹介してくれないかと言う申し出だった。男子も女子もだった。

正火斗が立って寺院の庭でスマートフォンで話しをしている時などは、女子生徒達からキャーキャーと歓声があがり、お寺の人に注意されたほどだった。

はぁーー、、とため息はもれたものの、風晴は腹は立たなかった。正火斗や水樹はこの田舎だと存在が信じられないレベルのセレブだし、他のメンバーもそれぞれに魅力があって、そして知性的だ。

クラスメイトに紹介してあげたいような気持ちもあった。だが、風晴は言わなくてはいけなかったのだ。


『引率の顧問が亡くなったから、彼らも間もなく、戻ると思う。東京に。』と。








北橋勝介は数ヶ月ぶりにしっかりと髭を剃った。

行方不明だった兄の9年ぶりに行なわれる葬儀ともなれば、仕方なかった。レンタルの白いシャツ、黒いスーツに袖を通し、黒いネクタイを締める。


苗字の違う実兄、、、田所高文については、電報が多かった。事件について知って、かつての知人や友人は気にかけてはくれているのだろうが、、、9年と言う年月はとても長い。山岸結のように、人生に変化が訪れるほどに。まして東京出身でS県が住所だったこともあってか、A県で行なわれることになった合同葬儀にまで足を伸ばす者はそうそう いなかった。

それでも、呼ばねばならぬ人物もいる。どうしても。

例えば、離婚しているとは言え、自分達の父親と母親がそれだ。




寺の長い廊下を歩いて行くと、黒いパンツスーツの上に、白いエプロンをつけて、やたらとデカいまんじゅうを運ぶ女性が前から来た。エプロンはあちこちにフリルがついていて、何がしかのメイドのようだった。


『寺で飾られてるのは見たことあるけれど、実際に誰かが食べてるのはほぼ見たこと無いようなまんじゅう運んで、、、、ここで何してるの、君?潜入取材?』


安藤星那は北橋を(にら)みつけて答えた。


『これは上用まんじゅう。食べることもできるようにはなっているけれど、元々お供え用として作られてるんですって。

それから私は善意で手伝ってる。人手があった方が良い日だから。確かに話も何人かに聞いたわよ。作業していたら女同士は色々話すもの。そこは認めるけど、記事にしてもいいですか?とちゃんと確認は取ってる。』

 

『なんでそのまんじゅう、そんなにデカくする必要あるの?飾り物みたいな存在なのに。あと、結局は潜入取材じゃないの、それ。』


安藤は難しい顔をして、まんじゅうに関しての意見のみをした。


『私もこんなに大きくする必要は無いんじゃないかと思ってはいるわ。でも神様や仏様への気持ちの問題じゃない?信仰心の表れ、のような。』


彼女はその表情のまま立っていた。胸の内にはなんらかの葛藤(かっとう)があるのかも知れない。


『まあ別に責めてないよ。そういうやり方もあるし。、、、桜田孝臣からの独占インタビューは取れなくなっただろうからな。』


北橋の言葉は珍しく ふざけていなかった。


『悪かったね空振りさせて。高校生達の足代わりさせただけになっちゃったね。』


ホントに珍しく しおらしくて、安藤はむしろ警戒すらした。髭も剃ってて、いつもより若く精悍(せいかん)にも見える。(だま)されてはいけない。この人ロクな男じゃない。


『それは結構楽しかったから良いのよ。あの子達は並の新人記者より斬り込めるし動けるし。実はあの日ポストに入れてきた陽邪馬(ひやま)市の今井薫子の実家からは、彼女の妹から連絡が来たの。"大したことない話しでも聞いてもらえるなら姉のことを話します"って。』

 

北橋も目を丸くした。レアなケースだ。わざわざ連絡をくれる親族はあまりいない時代だ。


『そいつは凄い。』


『ええ。それで、、、』


そこに、力強い中年女性の声が割り込んだ。


『ショースケ!!』


北橋と安藤は声の方に振り返った。

身体にピッタリとした黒いワンピースを着た女性がスパンコールの輝くハンドバッグを携えて立っている。スカートにはスリットが入っていて、セミロングの髪は燃えるような赤。多分それなりの年齢だろうが、不思議と髪の色はその女性に似合ってさえいた。熟練さえ伺える化粧がされていて、口紅は真っ赤だった。


『店にも来てくれないから心配してたのよ。でも、いい仕事してたのね。』


大股でその女性が一気に距離を詰めて来たので、不意打ちされて安藤は気後れしたほどだった。


(ショースケ?店?恋人でもこの人呼んだのかしら?信じられない神経だわ、やっぱり。)


『勝介、母さんから連絡をもらって、ビックリしたぞ。』


そこに、女性が来た同じ方向から年配の男性がまた、新たに現れた。髪に白いものがかなり混じっていて、眼鏡をかけている。黒いスーツの装いで、全てがしっかりしている感じだ。


『父さん。仕事、大丈夫でしたか?』


『息子の葬式に出ない父親がいるか。上司にゴネてきたよ。正直、外務省研修所副所長なんてポスト、いなくても1番誰も困らないと思うんだが。』


安藤はそもそも無かった言葉を、さらに失った。外務省、、、

北橋の肩に手を回していた女性が、外務省研修所副所長の男性を見て言った。


『あなたがそう言うセリフを30年くらい前に言ってくれてたら、きっと別れなかったのにね。本当に、、、なんで私達合わなかったのかしら?』


『いや、10年は、、、よくもった方だと思うよ、母さん。』


北橋の衝撃の一言で、安藤はついに眩暈(めまい)がしそうだった。寺は暑いし、盆は重い。まんじゅうはデカい。


『もう、ショースケって結構優しい子なのよねー!、、ねえ、こちらの綺麗な方紹介しなさいよ。今の彼女?』


安藤は猛烈に首を振った。積み重なったまんじゅうも揺れる。


『違う。ただの同業者で、たまたま今回協力することになっただけ。安藤さん。』


実の親の前では、流石に北橋もセクハラしてこなかった。

安藤はもう充分にパニック状態で、頭を下げて名乗った。


『安藤星那と申します!』


礼をした時、手も傾いた。

神々に捧げられるはずの まんじゅうは、見事なまでに全て盆から滑り落ちた。



転落編はこうして始まる、、、まんじゅうが、転落して。あれあれ?

すみません。ちょっと遊びました。

え?東京帰っちゃうの?これからなのにーと言う部分を、次回スッキリさせますよ。どうする正火斗?解決策はある?

そして前回の安西、水樹のことも気にかけんかーい!!!

(安西的には、幼馴染みで大道家が子供を気にかける親ではないと知っているので、正火斗・水樹には親からの連絡がそもそも無いと思っているのです。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
田舎の高校生からすると都会の高校生は輝いて見えますよね〜。 聖が裏でそんなサポートをしていたとは……意外と気が利いてマメですよね。 (*´ω`*) あら、クールビューティーの安藤らしからぬオチ担当回…
 さりげないユーモアはセンスですよね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ