踏み外しながらも
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。
◆桜田孝臣・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵聖・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。
◆北橋勝介・・・フリージャーナリスト。
S県に向かうメンバー達は、すでに一つ目の道の駅は通過していた。
トイレ休憩をして 名産品ソフトクリームを風晴、水樹、正火斗は買った。聖はただのバニラソフトクリームを買った。
これについて正式に詳細を話すと、ソフトクリームは北橋が奢ってくれた。ただし、昼飯代は出さないと彼は言った。
3人がソフトクリームを受け取り、北橋は、聖の分は水樹に渡し、彼女の手から渡されるようにした。これ以上揉め事を増やしたくなかったのだろう。
彼自身はブラックのアイスコーヒーを買った。
名産品の味噌&醤油ソフトは期待以上に美味しかった。
水樹は歓喜の声をあげた。
「うまっ! コレいいわね、東京でも売ってくれたらいいのに!」
「オレも初めて食べた。美味い!」
風晴は隣県なので、また食べにも来れるかもしれない。
「なんて言うか……味噌味、醤油味ちゃんとするのに……キャラメルみたいになってる」
正火斗は不思議そうだ。水樹が
「兄さんホラ、買って良かったでしょ? 奢りだし」
と話しかけた。
「そうだな。S県じゃないと食べられないし。奢りだしな」
と正火斗はうなずいた。
会話を聞いていて、北橋はハ──ッと大きくため息をついた。
「君達は、オレにそんなにガメつくなることないでしょ。
大財閥の御子息御令嬢なんだから。経済格差で言ったら、オレが運転手代もらってもいいところかと思うよ?」
「あんなに強引に連れてきたくせに、ですか?」
正火斗は流石に反論した。
「会社のお金だもの、私達が勝手に自由にって訳にはいかないのよ」
水樹も言い返す。
「水樹ちゃんはね。でも正火斗くんは14歳から株やってるでしょ? 都心部のITライカム社じゃ、今はもう筆頭株主。実質、君の会社になっているのが もういくつかあるんじゃないの?」
正火斗は一瞬だが言葉を失った。それでもすぐ建て直した。微笑んで答える。
「母が、そういうことは勉強になると後押しをしてくれるので。でもよくご存知ですね」
「ここ3年は君を追っているようなものだったからね。登下校送迎付きで外出もボディガード有りじゃなければ、もっとはやく捕まえてるよ? 日本であんなにする必要ある? 敵でもいるのかなぁって思っちゃってたよ」
北橋の言葉を聞いて、風晴は気がついてしまった。
正火斗にも水樹にも敵はいる。
(大道英之だ…………!!)
東京では正火斗はもう戦いを仕掛けてる。おそらくは水樹が事件を起こしてしまった5年前から、彼は義父の会社を狙いだしたんだろう。大道英之側もそれに気づいている。
「母が心配症なもので。海外にも行っていて、自分はついては歩けないから──と」
「へぇ。いいお母さんだね」
前列の2人は何食わぬ顔で会話をしてるが、風晴は底知れないものを感じた。北橋はどこまで調べ、どこまで知っているのか。
だが、話しの方向は水樹が大きく変えた。
「そんなことより、さっきの病院の話の続きでしょう!?
北橋さんのお兄さんの、入院してた時のヤツ。産婦人科病棟に行って、お兄さんに一体そこで何が起こったの?」
北橋は少し笑った。
「水樹ちゃん、その言い方だと兄貴が何かされたかみたいな表現だけど、大丈夫。兄貴はただ話しを聞かされただけ」
「何なのよ。思わせぶりしてただけなの?」
水樹の問いかけには、北橋は正火斗に向かって答えた。
「妹さんは根っからの男殺しか何かなの? 登下校送迎付き・ボディガードも、こりゃしていた方がいいのかもね」
「クセが抜けないだけです」
と正火斗は返した。
風晴は たまらず聞いた。
「それで? 輪命回病院の産婦人科病棟で、何の話しをされたんですか?」
「不妊治療だよ。当時の最先端の──だったかは、まあ、怪しいところだけど」
北橋はやっと話しだした。
「どういうこと?」
水樹は困惑した顔をした。
「不妊治療……つまり妊娠しづらい女性が、妊娠するためにする治療法だ。君達も聞いたことくらいはあるんじゃないか? 人工授精、体外受精、タイミング法あたりは」
風晴も聞いたことがある。牛には人工授精マニュアルなるものも存在する。世の中には"家畜人工授精師"だっている。
「兄貴にされた話しは、不妊治療で最新式の"卵子提供"の話だったんだ。
卵子提供は 第三者からの卵子で結合させた受精卵を、母親となる女性の子宮に移植して出産させる方法だ」
「ええっと、自分が体外受精の受け皿になって、産まれた子供は自分の子供として育てられるってことですか?」
風晴が確認した。
「あってるよ。母親は出産はするが、遺伝子的なつながりは父親側としかない。卵子の老化や問題のある女性の選択肢。あとは同性婚カップルなんかが望むこともある」
「それって卵子を第三者から購入するってことよね? 不正な人身売買には該当しないの?」
水樹は眉間に皺を寄せて尋ねた。
アイスを食べ終えた聖は、隣りであくびをしだした。
水樹には正火斗が答えた。
「該当しないと思うな。──病院を通じて治療として行われていれば。
2020年に日本には生殖補助医療法がやっと成立したけれど、それもまだまだ問題は多いと指摘されているんだ。2013年なら、もっと際どい医療行為が行われていても、違法の立証は難しい。
何よりも水樹、医者も患者も生命を産み出したいと願って探る手段なんだ。罰するとか罰しないとかの問題じゃない。だがある程度の規則は必要ってことさ」
「そう、それだよ」
運転している北橋が正火斗を指差しながら、同意した。
少し車内が静かになった。そのあと質問したのは風晴だった。
「つまり、北橋さんのお兄さん──田所高文さんは、輪命回病院産婦人科で 規定外のような"卵子提供"を、勧められたってことですか?」
「そうそう。読みがいいよね、やっぱり一流高校の生徒は」
と北橋が勘違いしていたので、風晴は慌てて訂正した。
「北橋さん、オレと真淵はA県の農業高校で、凰翔院学園じゃないんです」
「ああ、そうなんだ。じゃあ、君が桜田? 桜田風晴くん? 桜田孝臣さんの甥っ子の?」
「はい」
風晴は答えた。北橋は
「オレ叔父さんと話したよ。面白い人だよね?」
と続けた。水樹は見かねて話しの方向を戻す。
「はいはい。"卵子提供"は、具体的にどんな内容だったんですか? 北橋さん、話そらしてばっかりですよ。兄さんに調べさせる気持ち本当にあります?」
その言葉に北橋は笑った。
「勿論。"追い求めてきた相棒"だからね。隣りに座ってて気が昂っているのかも」
「やめてくださいよ」
正火斗は渋顔で言った。その正火斗を見て北橋はさらに笑ったが、すぐに言葉を述べた。
「そら、見えてきた。あのマンションだ。輪命回病院からの"卵子提供"についての話は、彼女から聞こう。オレよりよく知ってる」
「彼女って?」
水樹が聞いた。
「旧姓 庄司結。今は山岸結。彼女は一時は田所結でもあった」
北橋はレクサスを、マンションの外来者用駐車場に停めた。マンションの中階あたりを見上げる。
「兄貴の元嫁さんだよ」
今回、名産品に味噌&醤油ソフトなるものが登場しましたが、フィクションです。S県は空想上の県になります。万が一どこかの県で存在してましたら、申し訳ありませんでした。教えて頂ければ改訂を考えます。でも多分美味しいはず。醤油ソフトクリームは人生で食べたことあります。美味しいんですよね。
読んで頂きましてありがとうございます。引き続き宜しくお願い致します。




