すれ違う者たち3
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。
◆桜田孝臣・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵聖・・・耕平の長男。農業高校2年。
「ねぇアレ、何やってるんだろうね?」
水樹は問いかけたが、そもそも答えは求めていなかった。
隣りに座る聖は、ペットボトルを受け取ったり うなずいたり 首を振って反応は返してくれた。
でも一度も水樹と話そうとはしなかった。
(まあ、いいわ。私はよくやった。頑張ったもの)
水樹は胸の中で独り言ちた。
その水樹の見ている先────2人の前方、黒竜池の向こう側では 風晴がウロウロとしていた。
さっきから池の縁に佇む地蔵を見に行っては、またウロウロしてまた見に行く。そしてまたウロウロと周る。
「何…………やってるのかな……?」
「え? え!? 今……」
水樹は聖が初めて答えてくれたことに驚いて、物凄い勢いで振り返った。長い髪が背中で波打つほどに。しかし聖は水樹を全く見ずに、立ち上がると風晴の方に向かってスタスタと歩き出した。
「わ……! ま、待ってよ!」
水樹も慌てて後を追う。
風晴はすぐに聖に気がついた。そして自ら駆け出して聖を呼んだ。
「真淵! ちょうど良かった! 聞きたいことある!」
"ちょうど良かった"そう言われて聖は嬉しくなった。
(良かった。僕は何かが今良かったみたいだ。全然何がいいかは分からない。でも良かったんなら、良かった)
聖は風晴にニコニコとした。とてもニコニコだ。
自分といた──さっきまでとはまるで違うので、後ろからきた水樹は複雑になった。
「あんた達、ホントはクラスで仲良いんじゃないの?」
風晴をにらむ。
「いや、ロクに話してないから」
風晴は正直に言ったが、水樹は納得していないようだった。だが彼女の機嫌をかまっている時ではない。
風晴は聖に向かって聞いた。
「なあ、ここにくるお年寄りが花を地蔵に供えているかは、お前の父さん話してなかったか?」
聖はキョトンとした。────沈黙が続く。考えているのかもしれないと 風晴は待った。
風晴が聖を呼んだ声が大きかったからか、あちこちから同好会メンバーが集まってきていた。1番近くにいた桂木はすぐ到着して
「どした?」
と声をかけてきた。
風晴が聖と対しているので水樹が状況を説明した。
「お年寄りは…………お地蔵さんを拝むって。いつもお地蔵さんを……拝む。でも花のことは…………聞いたこと……ない」
「おお! 助かる! ありがとな!」
風晴は聖の肩をポンポンと2回叩いた。聖は叩かれたところを見てる。
風晴は そうしている聖はそのままにして、地蔵の場所にもう一度戻った。置いてある──枯れ細ったり色が変わったりしている花々を手に取る。
近くに正火斗も来ていた。
枯れ花を持つ風晴の様子を見て
「それは?」
と尋ねた。
「メマツヨイグサ……だと思う。少し色は変わってるけれど」
答えた風晴の後ろから桂木の声も飛び込んでくる。ついてきたようだ。
「けど真淵の親父さんは、おばあさんが花を供えてるって話しはしたことないんだって。ってことは──」
「誰か他の人も黒竜池に来てるって事ですね」
スケッチブックを抱きかかえた椎名が後を引き取る。
「でも誰かが来てることはさほど不思議じゃないですよね? この池に思い入れのある人や大事に思っている人が地元にいるのは、むしろ当たり前なくらいですから。……何者かが池の周りを手入れしている風景なのは、僕だって来た時から感じてましたよ」
これは神宮寺だ。
安西は風晴の持つ花を覗き込んでから言った。
「花は腐食の段階が分かれてる。すごく古い、やや古い、少し前──のように。来ている人間は定期的に訪れて供えてるんだよ」
「でもこれ、お供え花としておかしいんだ」
風晴は花をひっくり返したり戻したりして見ながら言った。
「どういうことだ?」
正火斗はまた聞いた。
風晴は彼を見た。
「メマツヨイグサは、別名"待宵草"とか"月見草"とか呼ばれる夕方から夜に咲く花なんだ。あちこちの道端や河原でもあるような草花だけど、日中は花が開いていない。でも開いた花が枯れているってことは────」
「嘘。夜中に来てるの? ここに?」
水樹がゾッとしたように言った。
「深夜ってわけじゃなくても、結構薄暗くなってからだと思う。閉じてる状態のを、つんでお供えにしようとするのも変だろ? この辺り見回したけどメマツヨイグサは無かったんだ。来る途中の道は…………あんまり覚えてないけれ」
「無いよ…………」
小さな声が風晴の声に重なってみんながそちらを向いた。
「来る途中は…………無い。……覚えてるから……」
聖だった。彼は瞼を閉じていて、そのまま話している。
「メマツヨイグサは…………無い。この道は……忘れないから」
「気に入った景色を記憶しておけるの? もしかして」
水樹がきいた。
聖は首を降った。
風晴は技能実習で必死に手順をメモして覚える聖の姿を 覚えていた。
「ええっと──できる時もあるってことか? 詳しく覚えておくことが」
聖が風晴にうなずく。
「自分で…………選べない。僕は……どこかが悪いから」
水樹は自分を見てはいない聖を じっと見つめた。心なしか、彼女の美しい顔は悲しそうだった。
誰もが話せないで続く沈黙を、低く太い声が破った。
「始めるぞ」
みんなが声の主の方を向いたが、誰のものなのかはもう分かっていた。
そこには全ての準備を終えた孝臣の姿があった。
ついに 黒竜池の調査が始まる────
読んで頂きましてありがとうございます。
水樹に関してモヤモヤな方もいるかと思いますが、水樹の過去についてが分かるパートも後々必ずありますので、しばしご辛抱を。引き続きよろしくお願いします。




