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失くしたものを見つけるとき

ー登場人物紹介ー


桜田風晴さくらだかぜはる・・・田舎の農業高校2年。

桜田風子さくらだふうこ・・・風晴の母親。民宿を営む。

桜田晴臣さくらだはるおみ・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。

桜田孝臣さくらだたかおみ・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。



大道正火斗だいどうまさひと・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。

大道水樹だいどうみずき・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。

安西秀一あんざいしゅういち・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。

桂木慎かつらぎしん・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。

神宮寺清雅じんぐうじきよまさ・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。

椎名美鈴しいなみすず・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。


西岡幸子にしおかさちこ・・・桜田家の隣人。


井原雪枝いはらゆきえ・・・風子に屋敷を貸す民宿オーナー。


真淵耕平まぶちこうへい・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。

真淵実咲まぶちみさき・・・耕平の妻。

真淵聖まぶちひじり・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。

真淵和弥まぶちかずや・・・耕平と実咲の次男。



水中ドローンの2機目が黒竜池に潜っていく。


2機目は汚水点検用のもので、カメラとライトの性能が高い。何らかの映像をとらえらるかもしれない。ただし、パワーと安定性は1機目に劣る。水中で操作しきれるかが勝負だった。


『くっ、、そ!!戻される!!』


水底の水流に はじかれているのだろう。桂木がリモコンに文句を言っている。





しゃがみ込んだ風晴は手で視界を(おお)った。水中カメラの映像どころか、黒竜池が、、、、もう見れない。

傍では聖がずっと、背中をさすってくれていた。

うつむいていると、風晴の前に誰かが しゃがんだ。長い髪の、、、


『少し飲んだら?、、、、飲めたら、だけど。』


水樹だった。新しいペットボトルの麦茶を差し出している。黒竜池をさえぎって。


『オレ、まだ飲みかけがあっちにある。』


『いいのいいの。多く持って来てるんだから。』


そうして、彼女はわざわざキャップを開けてから渡してくれた。


(相当、今自分は弱って見えているみたいだ。)


受け取って、風晴は少し口に含んだ。ここで倒れでもしたら、それこそ 迷惑になる。


『もう少しだ!!遠くからでも良い!ライトを正確に照射!下にあと30度!』


孝臣の声が森に響く。


『人使い荒いよサクラチャン!!指痛っいんだけど!』


桂木はいつものふざけた口調に戻っている。


『その調子ならまだまだだろう。あと15度!下だ!』


『まったく、、、言うだけなら楽だっての。』


吠える顧問をチラリと見て呟き、それからリモコンについたパネルを見つめる。水流の揺れを読み取ってタイミングを計る。3、2、1、、、、、


『行け!この野郎!!!』


桂木が叫んだ。

ドローンが水中で水を掻く音が強まる。


『見えました!!!』 『映った!!』


パソコンとタブレットをそれぞれ見ていた椎名と正火斗がほぼ同時に声をあげた。


孝臣はスマートフォンで映像を受信していた。彼は写ったものを見て言った。


『、、、、、この()()()()、、、』









木々の影が長くなり、太陽は夕日となりつつあった。ただでさえ黒い水の中は暗さが一層加わり、もう映像の撮影は難しくなった。

メンバーはみんな、片付けをしている。休んでいていいと言われたが、風晴も立ち上がって加わることができた。



映像は撮れなかった。 何も。



写ったものは、投げ込んだ黒の全身タイツ人形だった。

それ以上は、何かを見つけることはできなかった。


それでも、孝臣は言った。


『あの場所の水と土のサンプルは取れてる。すぐ東京に送る。あとは、、、、その結果を待つしかない。』


そして、甥っ子の頭をなでた。

風晴は顔を上げられなかった。






タブレット、パソコン,アンテナ、ケーブル等をケースにしまう。ケーブルを結いていると、桂木が来た。


『ごめん。』


彼は言った。

風晴は、

 

『なんで?謝る必要ない。友達なんだろ?』


と荷物を抱えて通り過ぎた。


一拍おいて

 

『桜田あぁあー!!もう、親友になろう!戦友でもいいぞ!!』


と、桂木が飛びついてきた。風晴はかわして、


『ならねーよ!』


と 笑った。

椎名と水樹のクスクス声もした。神宮寺や安西も笑い、正火斗は静かに微笑んだ。


風晴の進む先に、マウンテンバイクを押す聖が現れた。


『そろそろ、、、、帰らないと、、、』


『だな。良かったな、お前のお父さんきっと帰れてる。』


その言葉に、聖はじいっと風晴を見つめた。


その時ーーー


『わ!わわわわわわ!!助けて、、、、っ!』


神宮寺の声が黒竜池からした。一斉に皆が振り返る。


『神宮寺!!』


孝臣の声が響いた。


池の底の全身タイツ人形を1人で上げようとしたのだろう。神宮寺の右手にロープが(から)められている。そして、そのまま彼はロープに引きずられていた。池に向かって!

ロープリールがガラガラと回転してる。


1番近くにいた安西が神宮寺の左手を取った。だが滑って2人とも転んだ。それでも神宮寺は引きずられる。彼の手が水に入り、神宮寺は悲鳴を上げた。


それとほぼ同時に池の縁に孝臣と正火斗が到着していた。水の中の、神宮寺を引こうとするロープをつかむ。だが、2人とも体が揺れた。引く力が強くて、この体制では長くはもたない。


安西は立ち上がって、神宮寺の手を 絡んだロープから抜こうとした。しかし、すでにきつく引かれてしまった結び目がひっかかるのか、緩めることができない。


『抜、抜けない、、、、!!』


と苦しい声を出した。


風晴、桂木、水樹や椎名、聖までもー

残りの者もロープに集結した。


『桜田先生!』


正火斗はそう呼んだだけだったが、孝臣はそれにうなずいた。 


『分かってる!助かるにはこれしかない!』


孝臣は叫んだ。


『全員ロープを引け!安西もだ!神宮寺 お前も立ち上がって片手でも引くんだ!今人形を引き上げなければ、神宮寺の右手は ちぎれる!』


誰かが息を飲む声が耳に届く。次の瞬間には、全員が決意した。


『『うぅーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!』』


吸い込むような力との引き合いだった。


『せーーーーーーの!』


孝臣の号令で、皆、さらに自分の限界以上の力をだした。

シューズが土に めり込み、腰を落として、両腕に力を込める。引け!歯を食いしばった。

しばしロープは拮抗(きっこう)し、、、、


身体が後ろに動く!

ロープがこちらに引かれ出したのだ。


『気を抜くな!!上げるまでは力を(ゆる)めるな!』


声に従って最後の力を振り絞る。退()がりながらロープを引いて、引いて、引いて、、、、、



ズルリと、全身タイツ人形は陸に上がった。


カチャカチャと中のシンカーの音がする。そして、白くて細いものが絡みついて、、、、


『!』

水樹はすぐさま、調度 隣りでロープを引いていた聖の目を(おお)った。

聖はそれに驚いたようだが、振り払うことはせず、大人しくしている。彼の手からはロープが落ちた。


ハアハア、、、と、肩を上下させながら、聖以外の全員が視線を一点に向けていた。



夕日となった太陽が、濃いオレンジ色の光りを 木々の間から差し込む。それに照らされて写し出されたのは、黒いタイツに絡まって出てきた白骨体だった。

灰色の布と、おそらくは白だったのだろう。シャツのような布をところどころに(まと)っている。だがボロボロで原型はない。

それでも、風晴は家を出ていく父がグレイのスーツを着ていたことを思い出した。


まだ決まったわけではない。分かってはいたが、その言葉は口から こぼれ落ちた。


『父さん、、、、、、』




呼びかけたその白骨の頭蓋骨部分には、ハッキリと丸い 弾丸とひびの(あと)があった。








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― 新着の感想 ―
殺人が確定っ!? しかし相手は銃持ちか。危険だな。
遺体が見つかり、風晴はとてもショックを受けているかも知れませんね。 (。ŏ﹏ŏ) にしても、弾丸ですか。 一つ謎が溶けて、新たな謎が浮かび上がりました。 これは荒れそうですね! (・∀・)
やっぱり読みやすい。 いよいよ引き上げのシーンですね。 なんか、大変なことになってますがw そして、すこしじらしてからの……正体 ウマいです! 『誰かが殺されたの?』って終わらせ方…… なぞが…
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