失くしたものを見つけに
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。
◆桜田孝臣・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆西岡幸子・・・桜田家の隣人。
◆井原雪枝・・・風子に屋敷を貸す民宿オーナー。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵実咲・・・耕平の妻。
◆真淵聖・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。
◆真淵和弥・・・耕平と実咲の次男。
ドボンッ、、、、、!!
ついに チップの付けられた全身タイツ人形は、その黒い水の中に投げ入れられた。
パソコンとタブレットには一気にデータが流入してきて数値化されてゆく。孝臣、ミステリー同好会メンバー、風晴は画面に釘付けになっていた。
聖だけは、少し離れた所に立ち、画面ではなく池のほとりに立つ地蔵を見ている。彼には、地蔵にくるかもしれない おばあさんが重要なのだ。
『これは、、、、、』
やがて、正火斗がデータを見つめたまま声を漏らした。
正直、見ていても風晴は全くデータの数値が表すものが分からない。だから素直に
『これってどうなってるんだ?』
と尋ねる。
答えてくれたのは孝臣だった。
『人形は1度中央に引き寄せられて沈んだ。池の真ん中には、表面近くにやはり渦があるんだ。渦に取り込まれれば、普通はただ池の中央で沈んだままのはずだ。そして、いつかは人体なら浮かぶ。
だが、コイツは水底まで行った人形をはじいた。水底はまた違う水流のうねりなんだ。うねりが、まさしく龍のとぐろのように巻いていて、外側に、、、池の縁側に、押しやっている。』
孝臣は顎をさすった。
『いやはや、大蛇なんかじゃなくて、この池には、まさしく黒い龍のごときうねりが巻いてたってわけだ。』
風晴達は、画面から目を上げて黒竜池を見やる。その縁取りを、視線はつい なぞってしまう。
(どこに、、、、、?)
風晴は胸の内で投げかけた。
(どこにいるんだ、、、、、!?)
返事はないと分かっている。
『止まった!!!!』
安西がいつもよりかなり大きな声をだした。
数値が黒竜池付近の地図上を示す点になり、写しだされる。
点滅の灯りは、地図では黒滝池から はずれた場所で 瞬いていた。
『長い間に削られて窪みになったか、もしくは、そこから川への抜け道になってるか、、、、、だ。』
孝臣が点滅を指差しながら言った。
『ドローン出します。桜田先生。』
声は桂木だった。珍しく、敬語になっている。
孝臣はうなずいて
『河川調査用のからにしよう。画像は荒くなるが、パワーがある。』
と指示した。
風晴には安西と神宮寺が手伝いに動くのが分かった。分かったが、、、自分は、動けない。足が、動かなかった。
水中ドローンは、桂木の操作で すぐさま池の中に消えた。
やがて、カメラからの映像が送られてくる。
風晴は、どうしても見ていたいような、今すぐ顔を背けてここから逃げ出したいような、矛盾した気持ちにかられていた。だが、目が離せない。体が動かない。全身が石になったかのようだった。眼球も、視線すらも、動かせない。そのドローンからの水中の映像を、、、、
ふいに、手が伸びてきてタブレットが取り上げられた。
『!』
風晴はそれでも固まっている。両手が、タブレットを持つ形のまま宙にあった。
『大丈夫か?すごい汗だぞ。』
正火斗の声だった。だが風晴は声の方は見ず、ゆっくりとただ手を下ろした。自分の荒い息の音にやっと気づく。ここまで歩いてきた時よりも、汗が吹き出していた。
『暗いな。黒い水底で、何も見えん。、、、、おい、ライトつけてるのか!?』
叔父の、孝臣の怒号がする。すぐ近くなのに、風晴には遠くに感じた。
桂木達はやや離れたところから大きく首を上下した。
風晴はビクリとした。背中に誰か手をあてている。
振り返ると聖がいて、多分、初めて彼と こんなにしっかりと目と目を合わせた。
『大丈夫、、、、大丈夫、、、だよ。』
聖は小さい声でささやいて、風晴の背中を優しくさすった。
『大丈夫、、。、、見つ、、かるよ、、、』
その声で、風晴は力が抜けて、糸が切れた人形のようにしゃがみこんだ。倒れたかと思ってか正火斗が傍に来ていたが、座っただけだと分かると、またタブレットに視線を戻す。
河川用の水中ドローンは無事に水と土のサンプルを回収した。
黒竜池には、2台目のドローンが投入されようとしていた。
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