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進む先に待つもの

ー登場人物紹介ー


桜田風晴さくらだかぜはる・・・田舎の農業高校2年。

桜田風子さくらだふうこ・・・風晴の母親。民宿を営む。

桜田晴臣さくらだはるおみ・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。

桜田孝臣さくらだたかおみ・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。



大道正火斗だいどうまさひと・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。

大道水樹だいどうみずき・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。

安西秀一あんざいしゅういち・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。

桂木慎かつらぎしん・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。

神宮寺清雅じんぐうじきよまさ・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。

椎名美鈴しいなみすず・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。


西岡幸子にしおかさちこ・・・桜田家の隣人。


井原雪枝いはらゆきえ・・・風子に屋敷を貸す民宿オーナー。


真淵耕平まぶちこうへい・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。

真淵実咲まぶちみさき・・・耕平の妻。

真淵聖まぶちひじり・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。

真淵和弥まぶちかずや・・・耕平と実咲の次男。



黒竜池のほとりには思わぬ先客がいた。

白いTシャツにジーンズの私服で、夏なのに肌はTシャツと同じくらいに白い。背丈も風晴や桂木達、、、、水樹よりも低く、おそらく160センチ程だろう。髪はまっすぐでやや長めのショートだが、色素が薄いのか色があたると茶色に光った。

彼のことを風晴は知っていた。クラスメイトの真淵聖だ。


しかし桜田風晴と真淵聖は、この春から同じクラスだったが、5ヶ月程の間に 話したことはほぼ無い。


そもそも聖は2年生から入った転校生で、


『話すことが苦手で、話しかけられてもうまく答えられない時もあるそうだ。みんな、仲良くしてやってくれ。』


と、初日に先生が意味不明な紹介をした生徒だ。

それでどうやって仲良くなれと言うのか。


だが令和の高校生は察する能力がとても高い。彼らは つたない担任の言葉からでも、聖がいわゆる"コミュ障"タイプなのだと当たりをつけることができた。


大方の予想通り、聖は授業中に姿がなく、保健室に行っていることがよくあった。だが、クラスメイト達が最も危惧(きぐ)していた実技授業や飼育当番は、彼は休まず参加した。

農業高校の生徒達には実はここが重要で、これがあやふやだと、グループ分けの段階で数に入れるか入れないか迷ったり、ドタキャンされると残りのメンバーの負担となり、もめ事になったりするのだ。

その点、聖はちゃんと来て仕事を教わり、それをこなそうと努力をしていた。そういうことは会話はなくとも、一緒に作業をすれば なんとなく伝わるものだった。


そして、真淵聖は ある一部の生徒からは、少しだけ知られた存在だったのだ。


風晴のように灰畑町に住む人間は、町の駐在所の家族が変わるとすぐに気づく。こういう小さな地域の警察官は特に頼りにされていて、外からどういった人物が来たのかみんな興味津々なのだ。聖の父親は2年前から赴任してきている真淵巡査部長だった。






何にせよ、その聖は今 風晴の目の前に、黒滝池のすぐそばに佇んでいた。


(それって、駐在所からってことだよな?)


風晴は、少し混乱して自問しながらもクラスメイトを呼んだ。


『真淵、、、、、!』


呼ばれて聖はピクリとし、ゆっくりと振り返った。

そして、風晴とその一団にひどく驚いたようだった。

何も言わないが、両手で自らを抱きしめ、身を縮める。


『お前、どうやってここまで来たんだよ?』


草木と、前方にいた孝臣を越えて、風晴は前に進んだ。

風晴の後ろにいたミステリー同好会メンバー達も後に続く。しかし、数歩行ってすぐ風晴は足を止め、片手を挙げた。

"止まれ" と言うことだ。

後方には伝わったようで、従ってくれた。誰も動かなくなった。

 

(様子が変だ、、、、)


灼熱の太陽が、木々の間から降り注ぐ日だと言うのに、聖は両手で自身をさすって、まるで寒さに凍えるかのようにしている。こちらをチラチラと見ては伏せる瞳の中に、風晴は以前田んぼから保護した 翼の折れたカルガモを思い出す。


(警戒してるのかもしれない。)


聖との間に距離を取ったまま、風晴は慎重に言葉を選んだ。


『ええっと、、、、オレ、お前と同じクラスなんだけど?

わかるか?』


正直、真淵聖に認識されているかがまず自信がない。


聖はまた風晴をチラリと見て、すぐ視線を外した。それでも、口が動いた。


飼葉(かいば)作り、、、一緒にやった、、、桜田、、くん』


『そうそう!アレ,同じ班だったな。』


飼葉は牛や馬に与える餌の干し草だ。数種類の草を混ぜる。

聖に知られていると分かって風晴はとりあえずホッとした。


『お前の家からじゃ遠いだろう?どうやってここまで来たんだ?』


まず1番始めに思った疑問を口にする。

聖は今度は喋らなかったが、顔を横に向けた。視線の先に、マウンテンバイクが折りたたまれていた。


『あ いいの持ってる。』


後ろから桂木の声がしたが、風晴は無視した。

次の質問を投げかけようとした その時、予想外に聖の方が言葉を発した。


『桜田くん、なんで、、、ここにいるの?』


風晴は勿論、誰もが何も返せない。

虫の音や鳥の羽音がヤケに大きく響いた。


風晴は背中に、視線の全てが自分に集中しているのを感じた。ミステリー同好会メンバーとその顧問は、風晴の返答を固唾を飲んで見守っているのだ。


『、、、、、、、、。』


聖は返事を待っている。何故(なぜ)かしっかりとそれを感じた。風晴の頭に適当な嘘でごまかすことが浮かんだ。できる。

東京から民宿に来た客を、池に案内しに来たと言えば、真淵聖は難なく信じるだろう。こいつはきっと信じる。


ハアッと一つ深呼吸する。そして、風晴は聖に答えた。


『オレの、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、親父が、6年前ここで行方不明になってて そこの池に沈んでる可能性があるんだ。それを調べにきたとこ。』


後ろで幾人かが息を飲んだ音がした。

自分でも馬鹿だと分かってる。だが、嘘をつく直前で思いとどまった。それをやる意味が、こいつに対しては無い気がした。それなら、やらない方がいい。


聞いて聖は黒竜池に顔を向けた。それから身体も向けて、池をじいっと見つめている。その姿勢のまま、


『それは、、、、いいよね。調べた方が。』


と呟くように言った。

それから聖は地面に目を落とし、そのまましゃがみ込んでしまった。後はただ地面を見てる。

彼にとっては、ミステリー同好会のメンバーについては全く関心がないのか。もしくは、風晴の連れなのだろうと予想し、わざわざ確認まではしないのか。


(変わったヤツだな、やっぱり。)


それでも、風晴はさっきしようとした質問を今度こそ投げかけた。


『真淵、お前はなんでわざわざここに来たんだ?黒竜池に。』


無視されることも覚悟していたが、真淵は風晴の方を向いた。考えているのか、少し沈黙があったが、、、、


『お父さんに、、、帰ってきてほしくて、、、』


と言った。


『え?』


聞き返すと


『お父さんが探しに来ると、、、家に、、帰ってこれなくなるから、今日は、絶対に帰ってきて、、、ほしくて』


これには、風晴より早くバックヤードが反応した。もう黙っていることに我慢ならなかったのかもしれない。


『待って待って待って、お父さんを探してるんですか?今いないってことなんでしょうか?』


『イヤイヤ、まだ存在してるけど、ここに来たらヤバイから止めたい系の話しじゃねぇの、これ?』


『お父さんはその、、、、最近悩みがあって黒竜池に行こうとしていた、、、みたいな感じですか?』


『え?え?私はもう、、、その、、、その、、、お父さんはいなくなっちゃったけど、戻ってきてほしいってふうに聞こえたんだけど!?』


ミステリー同好会メンバーがミステリー同好会らしいミスリードでミスして聖に詰め寄ってきたので、風晴は慌てて間に入った。


『こいつの親父さん、駐在所の警察官なんだよ。今朝もパトカーで巡回してるの見たばっかだから、そういうんじゃないと思う。』


風晴は聖に振り返った。


『だろ?真淵』


聖は少し驚いていたようだったか、コクコクとうなずいた。


『今日は、、、、』


ここでようやく聖は、たどたどしくも説明を始めた。


今日が弟の誕生日で、父親が必ず時間通りに戻ってくると約束していたこと。でも、最近よくお年寄りの捜索を頼まれて遅くなることもあり、そのお年寄りは黒竜池の地蔵の前でいつも発見されること。だから、自分がここでお年寄りを待ってすぐ帰らせれば、そもそも父は呼び出されず、弟との約束が守れて、誕生会が無事にできるのではないかと思ったこと。



時間がかかったが、正しく理解できた時、そこにいた誰もが思った。


(こいつ いい奴なんだな。) と。








楽しんで書かせてもらっております。そんなことも伝わっていたら良いのですが。

引き続きよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
ミステリーに出て来る真淵くんタイプは早々に事故死しそうでコワいんだよな。 何かあると癇癪起こして「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」と走って行ってしまいそう。 そしてこのお話の場合、池があるからポチャ…
成程。邂逅編の子がここに繋がるのか。 父親の帰りを早くするために手伝うのが健気……。 。:゜(;´∩`;)゜:。 追伸:子供の頃にボートから池に落ちました。軽くトラウマです。
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