18.浅沼②
「……例えば、こちらへ来る途中に古い石碑がありましたね。あれは、浅沼さんがお生まれになったときには既にあそこに?」
問いながら、狐は浅沼を見て、思う。
……若いですね。
恐らくは気付かれないようにはしているのだろう。あるいは無意識なのかもしれない。だが、狐には全く抵抗なく透けて見えた。
警戒心。
知らない相手を前にしているという警戒心とも、わずかに違う。なぜならば、
……民間伝承。特にその具体的な、伝説や妖怪、怪異譚といった単語に反応して起き上がりましたね。
それに触発された警戒心であるなら、やはりそれにまつわるものだろう。
……しかし、それにしても。
ならば、その警戒心は、一体どの琴線に触れたというのだろう。
実のところ、事ここに至るまで、狐は、というか狐も白犬もぬいぐるみも、市子からは何も聞いていないのだ。
ここまでの話の流れから察するに、恐らくこの浅沼・南波という少女が、件の神隠しにおける何らかの形での関係者、ということになるのだろうが……まさか、まさにその被害者、ということはあるまい。
もしそんなことだったら、この少女がこうしてここにいるはずもないし。
「石碑……? ああ、あれですか。そうですねえ、生まれた頃のことはちょっと微妙ですけど、物心ついたときにはあったと思いますよ」
成程、ともっともらしく頷きつつメモを取る。そして考える。
どうしたものかと。
情報提供は信用が大事。不用意に警戒されて必要な情報も得られないのでは意味がない――そう言っていたのは市子だが、その意味ではこの状況は既にその信用を得られていない。
警戒心バリバリだ。
本題――市子たちにとっての本題に入る前からこの状態だ。これでは、神隠しに関連する話題をちらつかせただけで口を閉じられかねない。
……本当に、どうしたものでしょうか。
もとより口下手の自分だ。こういうときの巧妙な話運びなど全く心得ていない。だから、どういう展開をすればいいのか、何かアドバイスを求めてさりげなく隣に座る市子を窺って見るが、
…………?
違和感を感じた。
何かといえば、市子が微動だにしない。
思えば、出だしからここまでの会話中、市子が妙に静かだった気もする。
一見しただけなら、市子はただ正座しているだけだ。
だが、妙に姿勢がいい。
折り目正しく座り、背筋も直線、顔はまっすぐに前を向いていて、
口が半開きだ。
「…………」
え、と現在自分が置かれている状況も忘れて、狐は思わず市子を注視してしまった。まさか、いやまさか。これはもうある意味アレとしか思えないが、それでも信じたくない現実というものはある。
背筋を冷たいものが流れていく。
頼むからそれだけは勘弁してくれという思いで、市子を凝視する。一瞬だけ、一瞬だけだ。そしてその一瞬で、
「――――すぅ」
うわぁぁぁぁああああぁぁああ、ね、寝てるゥゥゥゥ――――!?
市子の鼻からもれた寝息を聞いて愕然とした。それはもう、キャラがブレるほど仰天した。
なんかもう、全力でこの場から逃げ出したくなった狐だった。




