14.戦況③
「――しっかし、ねえ。いざとなれば神をも殺す」
足をぷらぷらと振りながら、市子は笑う。
「勝手だよねえ」
「まァーしゃァーねーよ。人間って言うのは勝手な生き物なのさ。身勝手と書いて人間と読む。身勝手ってな」
まあねえ、と市子は笑う。
遥か高みから高坂ら守護役を見下ろしつつ、言う。
「私たちの依頼を確認するけど――まあ、確認と言うか」
「専守防衛、だろ? 守護役どもからこの“だいだら”を守り、かつ目的地まで送り届ける――護送だな」
「そうだね。でも、ただ守ればいいってわけじゃない。――これはこれでタイトな条件付きだ。ある意味じゃただ守るってことだけよりも難しいよね」
周囲の空間に、突如として魔法陣が花開いた。精緻な紋章を刻み込まれたそれはひとつやふたつではなく、次々と展開され、空間に己を固定し、輝きを放つとともに、
「呪縛系術式第48番“雛罌粟”。数百数千の鎖を以て対象を縛り上げ、捕縛する術式」
言下に、幾百もの魔法陣から幾千もの鎖が放たれた。魔力で生み出され、魔力を纏った鎖だ。それは対象へ向かって一直線に宙を掻き毟り、一瞬にして取り囲み、
「でも」
市子は笑う。
「届かなくっちゃ駄目だよね?」
縛り上げようと迫っていた鎖が、一斉に失速した。
それどころか、纏っていた魔力の輝きすら次々と色褪せ、消滅し、鎖そのものまでもが崩れ始め、光の残滓を散らして跡形もなく消え失せてしまう。
それを見届けた市子は、横に座っている白犬へ向けて親指を立てて見せる。
「ゴザル君、ナイスアシスト」
「まあ、これが拙者の役目で御座るし」
応じる白犬の全身を、淡い光が覆っている。そして誇るでもなく、市子へと視線を向け、
「で、どうするので御座るか?」
「そりゃあ勿論、御仕事するよ」
言って、座ったままだが浅く両手を広げる。眼下に風と、森と、相対する人々の全てを置いて、軽やかに言う。
「さあさ皆さん御立合い――本日今宵、この市子さんが全てを守ってみせましょう。首尾よく達成の暁には、割れんばかりの拍手をば惜しむことなくどうぞ宜しく」




