03.奇妙な四者
「――成程ねえ」
夜闇の、星空の下、耳元に1枚の符を添えた少女が相槌を打つ。
外見は15歳くらいの少女だ。可愛らしい顔立ちをしているのだが、ひとつ、どうにも奇妙なところがある。
目。
両目に渡り、きつく隙間なく包帯を巻いているのだ。
市子である。
誰かと符で通信しているらしく、相槌を打ちながら時折訊き返しなどしており、その間、長身の麗人や白犬は静かに待機している。狸のぬいぐるみまでもが、黙って白犬の頭上に座っている。
「そう――特務は三人ね。とりあえずは高坂さんと、向枝さんと、誰だろ、舟鳥さん? え? ――あ、新人さん? へえ。どんな人?」
ふむふむ、と頷いて聞き、へえ、と、
「成程ねえ。期待の新人ってわけか。でもそうすると、ちょっと悪いことしちゃうかなあ……うん、大丈夫。それは注意しておくよ。見てみたい気もするけど――わかってるよ、遊ばないって」
それからまた二、三頷いて、市子は符を耳から離した。
ぴぴ、と手早く畳んで懐にしまう。ふぇー、と吐息した市子に、白犬が、
「ゐつ殿は何と?」
「んー、別に、依頼に大きな変更はないんだけど。古都圏特務にちょっと面白い新人さんが入ったんだって」
「面白い?」
「そ。楽しみだね」
にやっと笑って、投げ出した足をぱたぱたと上下させる。
「――にしてもよォ」
じー、っと地平線を眺めていたぬいぐるみが、ふとつぶやくように言う。
「久々にでかい依頼じゃァあるが……にしても、古都圏と東北圏の共同戦線ってェのはちょっと派手すぎやしないか? 確かにこの“だいだら”は他にいないほどでっけェがよ。それが移動するってだけで、こうも騒ぐもんか? 街には出ないんだろ?」
「……狸殿、昨夜の説明を聞いていなかったので御座るか?」
「寝てたよ悪ィかよ」
「全く悪びれないで御座るな」
頭上で無駄に胸を張るぬいぐるみに、白犬は呆れた声音で返す。市子は、あはは、と笑い、
「神、中でも土地神級に神格化した“だいだら”――これはもう、“だいだら”であって“だいだら”じゃあないんだよね」
「じゃー何だ」
「そのまんま。神様だよ」
つまりさ、と市子は人差し指を立てる。
「土地から神様がいなくなったら、それは駄目でしょう、って話」
「市子、お前ってホントーに説明苦手なのな。さっぱり要領を得ん」
「だからって拙者の耳を引っ張らないでほしいで御座るよ。地味に痛う御座るから」




