第014話 同胞
私たちは先生がいない教室で給食にありつく。
とりあえず食事が必要なのは私、犬の獣人、猫の獣人、羊の獣人だ。あとの3人は卵。
メイド達も一緒にと声をかけてみるが彼女らは「叱られてしまいます」と断られた。
私たちがどのような階級構造のどの位置に組み込まれているのかわからないが、
彼女たちが恐れ慄く様から想像するに使用人とはかなりシビアな立ち位置のようだ。
「叱られてしまいます」が「殺されてしまいます」に聞こえた気がした。
机を4つ持ってきて顔を突き合わせて「給食の時間」さながらな私は獣人の皆と食事をした。
私は普通の食事を与えられている。今日はポークと野菜の炒め物にパンとポタージュのスープ。この世界には家畜としてピグとチキンがいる。馬車があるので馬もいるが牛を見たことがない。少し某チェーン店の牛丼が恋しい今日この頃。
他の幼児の皆は白いシチューのようなものを皿に盛られて食べていた。離乳食だろうか?
とりあえずここに集うのは元地球人。
そしてグレート・サモンと称した事故に見せかけた大量殺人は20xx年のあの商業ビルで起きたのだ。
となるとその時あのビルにいた人たちがまとめて転生した来た可能性が高い。
私は日本語で切り出した「この言葉わかる?」
すると猫と犬と羊の獣人が顔をあげて私を見ると、
突然ブレーメンの音楽隊よろしくニャーニャーワンワン鳴きだし、
羊だけ「めェー・・にほんご・・・」と少し声を出した。
まだ完璧にはしゃべれないようだがもしかしたら日本語ならいけるかも。
食事が終わると私は頭の中で新聞記事を探しだし、黒板に日本語で書いてやった。
これがあの災害に巻き込まれた時の私ですと皆に説明した。
2026年5月xx日
東京都〇〇区 震度3で〇〇ビル崩壊 死者192人 行方不明者301人
〇〇商事株式会社 営業2課 山口俊也
ついでに今の私についても自己紹介しておこう。
私は黒板に「ズラームクス」とカタカナで書いた。
「ファンタジー系の物語やゲームで聞いたりしたことあると思うけど見た通りゴブリンです。」
この世界でヤマグチくんと呼ばれ続けても困るので。
個人情報だと思うかもしれないが構わないだろう。
もうあの人間の体には戻れないだろうし、星を巡る魔術と聞いたので渡る術があったとしても恐らく魂だけ。リスクを冒して再度転生するしかないと思う。
後は宇宙開発か。ロケットを作り、太陽系を見つけて地球に帰る。
見たところ中世のような世界なのでローマ帝国が5世紀(400年代)頃だとして宇宙ロケットの開発は19世紀(1800年代)頃。20xx年のロケットも進歩はしているが宇宙旅行ができるレベルにも達していない。単純計算でも1500年は掛かりそうだ。もちろん脳内ネットがあれば500年ぐらいは短縮できそうだがそれでも1000年は掛かる。
それに今戻れたとしてもゴブリンだ。頭をカチ割られて脳内ネット仕組みを研究されるモルモットにしかならんだろう。
諦めていることなので、それに費やするのは時間の無駄というものだろう。
さて、私の日本語が通じているみたいなので、黒板に先生が言っていたことを日本語で書く。
「死の間際に思ったことが転生した時に何らかの能力として備わっているはず、思い出してみてほしい。」
私もみんなの能力が知りたい。
私は死に際に「もっと勉強しておけばよかった」と思い、得た私の能力は「脳内の百科事典」と嘘をついた。
猫と犬がため息吐いた。
心当たりがあるようだが、どうやらあまり役に立つ能力を身に着けて転生したようではなさそうだ。
見たところ犬は真っ白な紀州犬の子犬。猫はオッドアイの三毛猫の子猫。
日本人だったからだろうか?どちらも日本の固有種という感じだ。
まさかこの犬猫・・・。
「もしかして、愛玩動物で可愛がられて楽して生きたいと思ってた?」
二人はそっぽ向いて視線を反らした。やっぱりか!!!
はぁ・・・とため息をついて羊を見てみる。
彼?彼女?は「めェー・・わ・・たし。ドリー」っと日本語でしゃべった。メスのようだ。
羊のドリー・・・。
「もしかして前世は結構苦労してたとか?体がいくつもあっても足りないって思った?」なんちゃって。
羊のドリーは手を叩いて大当たり!っと言わんばかりの表情を投げてよこした。ガチか。
ドリー「めェー・・この・・せかい・・らくに生きたい・・・」
すると犬と猫が何かを思いついたようでドリーから一本毛を抜いた。
ドリー「いたぃ!・・・な・・?」
犬と猫がドリーの毛を地面に落とすとドリーと全く同じ形の羊が現れた。
分かり易いといえば分かり易い。クローン羊のドリー。
メイドたちは私たちのやり取りを訝し気に見ていたがドリーの分身を見て皆驚いていた。
ドリーは消えるのかな?と一匹の羊に触れると二匹とも姿を消した。
どうやら消すときは彼女の意思で消せるようだ。
私はみんなに私が知る限りのこの世界の情報を共有した。
私も戦場に立ちたくないし、命を狙われるような地位も欲しくない。
幸い私たちはまだ幼児だ、いくらか猶予が有るはずだからこの学校を卒業するまででうまくごまかしてみんなで安全なところで過ごせるように協力していこうと提案した。
皆も安全が保障されるならそれがいいと賛同してくれた。
私はドリーにはできるだけ早く言葉を覚えられるよう協力すると約束した。
犬猫は愛嬌を振りまけば言葉が無くてもどうにかなるかもしれないが、
ドリーは役立たずと判断されたらジンギスカンにされかねない。
さてみんなの約束を取り付けた後は、卵は置いておいて獣人の皆に簡単な言葉を教えていく。
口だけで説明してもわからないだろうからメイドたちにも協力してもらう。
卵は3つメイドがそれぞれについているのでそのまま教室に残し、
3人の獣人に付いている3人のメイドを連れて勉強会だ。
私の専属メイド?そんなのいない。
前世では私にも妹がいたがラノベのような「可愛い妹」は幻想のように、今の私の「忠実なメイド」もまた幻想である。まぁ私にメイドを付けなかったのは、多分先生の嫌がらせだと思う。この待遇が間違いであったと、いつか先生を「ワカラセ」たい。
教室にある物、私たちが着ている服などまずは衣食住にかかわる単語を覚えておけば最低限生活には困らないだろう。
私たちは兵舎を歩き回り教室に使われている部屋のほか、キッチン、寝室、浴室、事務室、メイド室、食堂と回っていると先生とすれ違った。
先生はメイドに「*何をしているのですか?*」と高圧的に聞くとメイドは震えながら「*こちらの方が子供たちに言葉を教えているのです*」と答えた。
先生は私を見て考える仕草をした。私は瞳孔を隠す半眼(瞼を半分閉じる)になる。
先生は私を一瞥すると「*メイドの一人借ります。あなた私についてきなさい。*」と言って一人メイドを連れて立ち去る。
去り際に先生に指名されたメイドは青ざめ私たちに助けを求める眼差しを投げて寄越すが、誰にも先生を止めることはできなかった。私は心の中で彼女に敬礼し生還を祈った。
そうして私たちは兵舎を周りながら私はメイドの一人に疑問を*魔族の言葉*でぶつけてみた。
私「*そういえばここは兵舎のようですが空き室ばかりで兵士が居ないのはなぜでしょう?*」
メイド「*半分は国境の警備や訓練に駆り出されております。後の在駐兵士はレディ・デルフィラの命令で訓練所に追い出され野営で寝泊まりされております。たまに上級の士官が事務処理などで訪れることがありますが寝泊まりされることはありません。*」
私は日本語で声に出した。「なんて奴だ・・たった7人のトロッターの為に兵士の宿泊施設から兵士達を追い出したのか…」
私はみんなに目配せするとみんなも先生の機嫌を損ねない様に振る舞おうと誰もが無言で賛同してくれた気がした。
もし最悪の事態が起きた場合、私は人知れず姿を消しその次の標的は頭の先からつま先まで余す所なく有効に活用されそうな羊の同級生に視線が集まる。
ドリーが落ち込んだ様子で「めぇ・・・」と鳴いた。




