27話
久しぶりの学園はいつも通りで、俺が廊下を歩けば遠巻きに俺をみる生徒たちからひそひそと陰口を言われ……。
「あの噂、本当だったのかよ」
「不貞を働いた元婚約者を許し、真実の愛で更生させるとか……」
「私、完全に誤解してたわ。嫌味を言ってるだけだと思ったけど、アレもきっと愛ゆえにってことだったのね」
それらが完全なる誤解だよ……まったく。
「ギリスはさ、私のこと好きすぎるから、ついつい私に少し辛く当たってしちゃうのよね。それもまた愛の形なのよ」
「黙れ、クソビッチ」
「クソビッチ」
コレットがいつも通りトチ狂ったことを言い、俺が丁寧にツッコミ、クラリスがちゃんと追従する。
そして、それにノルゥとマギーさんがため息を吐く。
安定の我が悪役令息パーティの鉄板の流れなのだが……。
「というか、マギーさんは二個上だったんだね」
「ギリス様、それはどのような意味でしょうか?」
だって、我がパーティは安定の幼児、暴走の幼女、残念の少女、慈愛の少女……胸部装甲は推して図るべし、なんだよ。
なのになんなのだね、うちの母さん並みの君の胸部装甲は、まったく、けしからんよ。
嫌いじゃないけど……。
クラリス、コレット、ノルゥと見てからマギーさんを見たら、ノルゥがわざとらしく「うううん」と咳払いをする。
「もし、見た目的に歳が二つしか変わらないとは思えないという意味でおっしゃっているなら小一時間ほどお時間をいただいてもよろしいですか?」
ニコリと笑っているマギーさんの頬が少し引き攣っている。
これはまずい……。
「いやぁ、マギーさんはなんというか、大人っぽいからさ」
「誤解なさっていらっしゃるようですが、女性に対するそれは、褒め言葉ではありませんよ」
「そのぉ……」
まずい、まずい、意味もなく発した言葉が相手を傷つけてしまうこともあるもんね。
「特に意味はなかったんだよ。気分を害したのならごめんね」
「ギリス、怒られてやんの、ざまぁ」
「黙れ、ビッチ」
「ビッチ」
コレットに茶化されて、いや、今回は茶化してくれたって言った方がいいのかな。
クラリスは安定の追従。
楽しそうだし、わかってないな、たぶん。
マギーさんがふふっと笑う。
「ギリス様は本当におかしな方ですね。侍女である私にまで気を使われるなんて」
「マギー、それは言い過ぎよ。確かにギリスはペラッペラのおしゃべり男だけど、悪いやつじゃないの」
「言い過ぎなのはお前だろうが」
「ギリスはいいやつなの、マフィンくれるし」
「クラリスはいい人の基準が軽すぎるんだよ。へんなおっさんとかにひょいひょい付いて行かないか心配になるよ、まったく」
そんなくだらない会話をしながら歩いて、教室の入り口でマギーさんと別れてから自分たちのクラスの教室に入ると、ハルトが俺たちを見てカッと目を見開いた。
「コレット、クラリス……なんで……」
「なんで?」
コレットが首をかしげた。
「ハルトはつまらないの」
「ちょ、クラリス、それを本人に直接言っちゃうのはさすがにかわいそうなんじゃないか?」
「でも、本当のことじゃない。上部だけのペラペラ男なんてこっちから願い下げなのよ」
コレットが言い放つとハルトが、「君は本当にコレットなの?」と聞く。
「初めまして、コレットの双子の姉のソレットです」
「いやいや、昨日は妹って言ってたよね」
「ギリスはいちいち細かいわね。そんなの適当に流しなさいよ、こっちも適当に言ってるんだし」
コレットが呆れ顔になるとクラリスがケラケラと楽しそうに笑う。
「あんたもさ、理解しなさいよ。困っても助けてくれないような男に女が付いて行くわけないでしょ?」
「でも、僕たちは……」
「一回やったぐらいで俺の女とか思わないでよね。このグズ男」
コレットの発言に教室内がざわざわし出した。
「あなた、ご自分がなにを言ってるのか? わかっているの?」
唖然としているハルトに代わって割って入ってきたアリアンナ公爵令嬢にコレットは、「わかっているわよ」と答える。
「令嬢としての価値がなくなるから私がしゃべるわけないとか思ってるなら、こいつは盗賊とかそんなやつらと同じよ」
コレットがドヤ顔で胸を張るとアリアンナが俺を見る。
「あなたの入れ知恵?」
「入れ知恵?」
「ポルグヤック領の盗賊を掃除してやった代わりに、ハルトを貶める手伝いをさせているのではなくて?」
「なるほど、そういう見方も出来るね」
俺が笑うとアリアンナがギッと俺を睨んだ。
「反論されないということは、そういうことなのではなくて?」
「あのさ、俺が違うと言ったら信じるの?」
反論しないから図星なんだろうなんてのは暴論もいいところだよね。
「それに自分の考えとはかなりかけ離れたことをいきなり言われたら、戸惑うのが普通じゃない?」
「じゃあ、今から反論してみたらいかがかしら? 少しは考えがまとまったのではなくて?」
「いや、別に反論はないよ」
「ほら、みなさいな」
アリアンナが胸を張ってドヤ顔を決めてくると、隣にいたコレットが、「ちょっと」と声をかけてくる。
「なんで言い返さないのよ」
「っん? だって必要ないでしょ?」
「えっ?」
「あいつらと仲良くなりたいわけじゃないし」
「はぁ?」
コレットが唖然って表情で俺を見るけど、好きでもないやつらにどう思われようと知ったことではないよね。
「それに、ここで何か言ってアリアンナさんが納得すると思う?」
「いやぁ、思わないわね」
「だよね。俺たちがどんなことを言ってもハルトを貶めるためにギリスが企てたに違いないってなるんじゃない?」
「それもそうかもしれないわね」
「人は信じたいと思うものしか信じないんだよ」
俺がアリアンナを見るとアリアンナが呆れ顔になった。
「どうせ納得させられないのだから反論しないと言いたいのかしら?」
「そうそう」
「自分たちが正しいと思うなら、きちんと反論しなさい。そうすることでしか人は分かり合えないわ」
「うーん、人は分かり合えないと思うよ。それでも一緒にいたいと思うのか、ぶつからないように距離を取るか、出来るのは二択じゃない?」
「極論ね」
「そうだね」
意見が真っ向から違っているもの同士が議論なんてしても、せいぜい本当に衝突する前にどちらかが折れて相手に譲るか、互いに譲り合ってうやむやにするか、どちらかがやり込めて喧嘩別れするかのどれかだよね?
相手の話をもっともだと心から理解して自分の考えを根本から変えるなんて無理じゃない?
「今回の件だって、ハルトが嘘をついていたのは明白じゃないか。それでも君はハルトを信じているんでしょ?」
「明白ってどこがかしら?」
「本当に気付いてないの? それとも気付かないふりをしているの?」
俺が首をかしげるとアリアンナは、「ぐっ」と声を漏らした。
「ほら、君と話しても無駄じゃない?」
「……」
「どちらにしても、俺にとって君は議論してまで溝を埋めたい相手じゃないんだ」
「あら、奇遇ね、私もよ」
「じゃあ、お互いに距離を取ろうよ」
「では、ハルトの友達を奪うような真似はおやめなさい」
「……うーん」
「ギリス様が奪ったわけじゃありません」
俺の代わりにノルゥが答えて、それからコレットが、「私がギリスを選んだだけよ」と続く。
「あら、あなたはギリスよりハルトの方がよかったからギリスを裏切ったのではなくて?」
「ハルトもつまらないけどアリアンナもつまらないの」
「クラリス?」
「結局は行動がすべてなの」
「そうですね。クラリスちゃんの言う通りです」
「こないだまでの私が愚かだったことは認めるわ。でも、真実の愛がどのようなものなのか知ったコレットちゃんにはその程度の揺さぶりなど効きはしないのよ」
「真実の愛ですって?」
「なんだかんだ言いながらもうちの領地の盗賊を討伐してくれたのはギリスよ。ハルトは頼んでもろくに話も聞いてくれずに無視したじゃない」
コレットが言うとアリアンナ公爵令嬢が、「ぐっ」と歯噛みした。
「クラリスも僕よりギリスを選ぶの?」
「っん、お母さんが優しい人を選びなさいって」
クラリスの場合はよく遊んでくれて、マフィンをくれるおもしろそうなことをやらかすやつとも言うけどね。
そう考えるとあのマフィン様はすごいな。
ユーゴス先生も買収できて、戦闘民族幼女も味方にできるんだから、桃さんのきび団子様と張るんじゃないか?
「優しい? ギリスが?」
「お父さんが本当の優しさは行動によるって言ってたの」
「理解しなさいよ。時代は口だけ男よりツンデレ男なのよ」
「おい! ツンデレ男って誰のこと?!」
「あんた以外に誰がいるのよ、ギリス」
「ギリス様はツンデレなんかじゃありません、ちょっと素直じゃないだけです」
「それをツンデレっていのよ、ノルゥ」
「えっ? ツンデレって人前ではそっけないのに二人きりになると甘える人のことなのでは?」
ノルゥが首をかしげるとコレットが、「甘いわね」と笑う。
「確かにそういうやつのこともいうけど、素直に好きといえず、普段はついキツイ態度を取ってしまうけど、本当はそいつのことが大好きで、ここぞの場面では優しくしてしまうギリスもツンデレなのよ」
「ふざけんな、俺はコレットのことなんて大好きなんかじゃないよ」
「そうよね、はいはい、わかってるから」
コレットがしたり顔でコクコクとうなずいてるけど、それはぜってえ、わかってないよね。
クラリスが、「ギリスがまたコレットに押し切られそうになってる」と言いながら口を押さえて笑いを堪えるとノルゥが、「そうだったのですね」とうなずく。
クラリス、いま押し切られそうになっているのは俺じゃないよ。
「もういいじゃない、私もクラリスもその口だけ男より真実の愛の男ことギリスに付いていくって決めたってわけ」
「ギリス、おもしろい」
「ギリス様は天才ですからおもしろいのです」
三人がドヤ顔で胸を張ったけど、少女二人と幼女なので……げふん、げふん。
「ギリス、あなたは不貞を犯したコレットを赦すというの?」
「っん? 複数の女の子に粉かけて間違いまで起こしたハルトを側に置いてる君がそれを言うの?」
「……」
「人は誰でも過ちを犯してしまう生き物なのよ」
「お前が言うな、お前が」
俺が呆れ顔になるとコレットが、「いいじゃない」と笑う。
「これ、一度言ってみたかったのよ」
「あのねぇ、それは過ちを犯したやつのセリフじゃないと思うよ」
「まったく、ギリスはいちいち細かいわね。大事なのはいつでも流れ、流れなのよ」
「そんなこと言ってて、酷い目にあったのを忘れたの?」
「あれはしかたないじゃない、王家と公爵家と教会が揃って読み間違えているなんて誰だって思わないし」
それは確かにね、俺だって前世のあのクソゲーの主人公がここまで残念なやつなんて思ってなかったし、序盤で退場するはずの噛ませ犬な悪役令息が一人いなくならなかっただけで、ここまで酷いことになるとは思わなかったからね。
俺はそこまで考えてから教室内を見回す。
「アリアンナさんが本当に自分が正しいと思うならハルトから距離を取った令嬢たちから話を聞いたらいいよ。それでも君はきっとその子たちも嘘をついている。もしくは俺たちに騙されていると思うとは思うけどね」
俺が転生してきて初めてこの教室に来たとき、俺はノルゥと二人で、ハルトの周りにはたくさんのクラスメイトたちが集まっていた。
それなのに、今はアリアンナとろくでなしのカインとジルがハルトの後ろからこちらを睨んでいるだけだ。
まあ、少し離れたところでハルトとアリアンナのことを心配そうに見ている王女殿下がハルトの側に戻れば少しは戻るかもしれないけどね。
っん?
そういえば、聖女はどこ行った?
まあ、いいか、俺のやるべきことは変わらないよね。
母さんとノルゥとクラリス、それからついでにコレットを幸せに……いや、一緒に幸せになるためにコツコツとやれることをやっていく。
せいぜい足掻くといいよ。
俺が母さんやノルゥに酷いことをしていたあのクソゲーと君たちを赦すことはないから……。
ここまでギリスの物語にお付き合いくださって、ありがとうございます。
とりあえずここで一区切りとしてお休みします。
また一冊分ぐらい書けたらまとめてどんと載せたいと思ってます。
応援もありがとうございました。




