18話
「かわいそうだと思います。ギリス様」
「そうだよねぇ」
問題が起きた。
なにが問題なのかというとチタン合金で新たに作ったスケルトンのイチロー君のモデルオランとモデルグリゼルダの二人が強いことだ。
それも少し強いぐらいなら問題にならなかったのかもしれないけど、あまりにダントツ過ぎたので……。
「イチロー君たちの心を消してしまうってことですよね……これまでお世話になりましたからやっぱり複雑です」
ノルゥが悲しそうな表情で俺を見る。
そうだよねぇ。
ゲームとかなら新たに強いユニットが手に入ったら、それまでどれほどそのユニットにお世話になっていたとしても切り捨てて、新たに手に入れたユニットを使用することに躊躇なんてしないんだけど……現実では難しいと言わざるおえない。
イチロー君たちには自我的なものはないと思うんだけど、相手を煽ったり、愚直なまでに基本に忠実だったり、フェイントみたいな動きを多様してたり、間違いなく個性っぽいものはあるし、経験を積むごとに成長はしていくみたいだし、だからと言うわけじゃないんだけどこれまで苦楽を共に……いや、俺はあんまり苦労してないけどお世話になってきたイチロー君たちをリボーンで新たにイメージしたモデルオランやモデルグリゼルダに生まれ変わらせることにはちょっと、いや、かなり抵抗があるんだよねぇ。
「そもそも、俺やグリゼルダが騎士の完成系ってわけじゃないと思いますよ、坊ちゃん」
「えっと……どういうこと?」
「正直に言って俺より強い人たちなんてごまんと居ますし、モデルオランやモデルグリゼルダと対戦させることで、アルファたちがモデルオランやモデルグリゼルダよりも強くなる可能性もあるんじゃないですか?」
「おおぉ、確かに」
「それに同じスタイルの騎士ばかりの騎士団ってのは弱いと思いますよ。剣に槍に弓って話じゃなくて、剣と盾を使うやつの戦い方にもいろんな戦い方がありますからね」
確かにオランさんの言う通りかもしれないなぁ。
同じ戦い方ばかりのイチロー君にしてしまうと単純な考えかもしれないが、相性とかで一人のイチロー君が敵わない相手には俺たちは勝てないということになる。
「逆にアルファやベータみたいにそれぞれの戦い方で成長している方がいいってこと?」
「訓練により単一の動きを覚えさせて均等化する方がいいって考え方もありますから一概には言えないのかもしれませんが、俺はいろんな騎士がいる騎士団のほうが戦い辛いと思います」
「ということは、うちの騎士団のみんなを真似たイチロー君たちを作ってアルファやベータたちの師匠にして育てた方が」
「それはいい考えかもしれませんね。単純にうちの騎士団の真似をすればいろんな戦い方のイチローが生まれますし、そのイチローたちにアルファやベータたちを加えて模擬戦をやらせれば、お互いにまた成長していくんじゃないですか?」
おおぉ、なんかその方がいいような気がしてきたね。
うちの騎士団には体の大きな人、小さな人、それに女の人もいるし、みんな得意なことと不得意なことがあってもちろん戦い方もかなり違うはずだ。
それに同じイチロー君たちを並べるより騎士団っぽくなりそうだし、人によって小柄な相手が苦手とか、大きい相手が苦手とかもあるだろうから体格的なばらつきを取り入れるのもいいかもしれない。
となると……俺が母さんをチラッと見る。
「やってみる価値はあるんじゃないかしら」
母さんがうなずくと隣にいたデンマーさんが、「それでしたら」と続く。
「固定ではないにしろ、初めは一人の師をお決めになる方がよろしいかと」
「師弟関係を固定しろってこと?」
「はい、さまざまなやり方を学べるのは良いことですが、基礎が出来上がるまでは同じ方向の教えを学ぶようにされないとどんなことでもうまくいかないと思われます」
「確かにデンマーさんの言う通りかもしれませんよ、坊ちゃん。俺も若い頃はこっちの先輩とあっちの先輩でやり方が違って混乱したりしましたから」
「まあ、二人がそんなに言うなら騎士たちをモデルにしたイチロー君たちを作って、今いるイチロー君たちを……えっと、うちって騎士は何人いるの?」
俺が聞くと母さんが、「二十四名よ」と答える。
「二十四ってことは弟子の数はだいたい四人ってとこかな」
「ちょっとお待ちください、ギリス様。つまりギリス様のスケルトンはイチロー君だけで百近くもいるというのですか?」
目を見開いたデンマーさんに、「うん、いるね」と答える。
「いるねって……ではジロー君とサブロー君を合わせますと?」
「うーん、だいたい二十ずつぐらいだから、三兄弟で約百四十ってとこだよ」
「それって確かラグズリーフェルト伯爵家の従者の数と変わらない数なのではないですか?」
「そうなんだ。だけど流石に一度に全員出てきてもらって働いてもらうのはまだ無理だよ、魔力が足りないし」
うんうん、転生してから毎日のように魔力をギリギリまで使ってコツコツと作ったり維持したり働いてもらったりしているから魔力の総量もかなり増えた。
まあその代わり常にダルいし、ギリギリまで使いすぎたときは母さんの膝枕で休んだりしているけどね。
「もしかして作るときだけじゃなく、出したり、維持したりにも魔力を使っておられるのですか?」
「そりゃあ、そうだよ。事象には対価を求められるのが基本だよね。火を出す魔法だって出すだけじゃなく維持したり、飛ばしたりするのにも魔力を使うでしょう?」
前世の世界だって火を発すにはマッチとかライターとか必要だったし、それを維持するためには薪だったり炭だったりガスをずっと消費したりする必要があった。
この世界ではそれを魔力という超エコな資材で代用しているってだけだし、クリエイトスケルトンだって俺の固有とはいえ魔法なんだから、魔力を消費するに決まってる。
「材質を鉄にしていたときはもう少し出して働いてもらえたんだけど、材質をちょっと良いものに変えたからさ」
「どのぐらいなら出して働かせることができるのですか?」
「うーん、やってみないとわからないけど、余裕をみて七十ってとこじゃないかな」
「ギリス様お一人で下級騎士と同程度の力を持つスケルトンを七十って……」
「ああぁ、もちろんモデルオランやモデルグリゼルダは燃費が悪いから二人を出すとなると実際にはもう少し少ないかもしれないけど」
高い能力を持つスケルトンになればなるだけ魔力の消費量が増えるに決まってるよね?
まあそれでも全部モデルオランやグリゼルダに変えたとしても十五人ずつの合計で三十人ぐらいなら出てきてもらって働いてもらえると思うから、とりあえず今の段階では十分な数だとは思うけど……まだまだ足りないよね。
「でもギリス、同じモデルは作れないんじゃないの?」
「ああ、そうか、そうだったね」
「どういうことですか?」
「ほらヨウコーちゃんたち」
「そういえば、なにか制約がかかっているのではないかとおっしゃっていましたね」
「そうみたいなんだよ。つまり悩むまでもなかったね」
「別にいいじゃない、方向性が見えたんだし」
「そうですね。たとえ出来ないとわかっていることでも、仮としてあらかじめ考えておくことは無駄にならないと思います」
「それにイチローたちの育成の方向性も見えたじゃないですか?」
「そうだね」
無駄な心配だったのかもしれないけど、おかげで騎士団の人たちを真似したイチロー君たちを作るって当面の目標もできたし、悪いことではなかったと思おう。
騎士団にはハルバードみたいな槍を得意としている人たちや弓を得意としている人たちもいるから、ジロー君やサブロー君たちのレベルアップにも繋がるだろうし、ジロー君同士の模擬戦とか、サブロー君たちを狩りに行かせたりしてもいいかもね。
「ねえ、オランさん」
「なんです、坊ちゃん?」
「弓の的当てを競うみたいな競技はないの?」
「的当てですか?」
「うん、例えば真ん中なら十点、その少し外なら九点みたいに点数をふっておいて、交互にその的に向かって三射ずつ射って十セットの合計点を競うとか?」
「坊ちゃん、それって……」
「サブロー君の技術向上に繋がるし、剣闘とかボクシングが苦手な人向けにやったらどうかと思って、例えばお茶会の催し物とか?」
アーチェリーとかって競技としてやるのはかなり大変だと思うけど、見ている分にはなんか優雅だし、ガーデンパーティとかの余興にいいかなって思ったんだけど……。
「ギリス!」
「どうかしたの?」
急に近づいて来た母さんが俺の二の腕を両手で掴んで顔を覗き込んできたんだけど……なんか目がぎらついていて、少し怖いよ。
「さすがはギリス様ですね。弓といえば狩猟が一般的ですから狩猟大会などはありますが、その場で見ることのできる催し物はこれまでございませんでしたからね」
「一度見せれば真似されるでしょうけど、リシャ様が開くお茶会で最初に見せれば、真似されることも誉になりますから」
「じゃ、じゃあ、的もあるんだし、とりあえずやってみる?」
無言の母さんがコクコクとうなずくので、イチロー君たちの模擬戦を観戦していたお客さんたちがみんな帰ってから、俺たちはまた訓練所に戻って来た。
母さんとノルゥ、オランさんとデンマーさん、それから……。
「なんでみんな見に来てるの?」
「ギリス様がまたなんかおもしろいことを始めると聞いたら、そりゃあみんな見に来ますよ」
あのメイドの女の子が答えると、おじさん、おばさんたちが、「そうだ」的な返答をくれて、おじいさんが、「いつもいつもオランだけずるいのじゃ」とオランさんを睨む。
いやいや、いちおうオランさんは騎士団長だし、母さんや俺が外出するときの護衛隊長だからね。
「まあいいか。ライズスケルトン」
ズズズっと魔法陣から出て来たサブロー君は騎士団の中で弓を得意としている女性二人を模した者なので、細身で……いや、片方は背が低くがっしりとした体型をしていて、片方はかなり細身で背が高い。
「誰を模したサブローなのか一目でわかりますね」
「うるさいですよ、団長」
「そうですよ」
はい、いまオランさんに文句を言ったあの人たちがサブロー君のモデルさんです。
作成したときに、「私はもっと細い」とか、「ここまで私の背は高くないのでは?」とか言ってたけど……少し誇張があるのかもしれないけど、あくまでも俺のイメージだからね。
ということで、アーチェリー的なことをやってみたのだが、真ん中になかなか刺さらずにバラついてなかなか見応えがあった。
「私はもっと上手いですよ」
「そうです、代わってください」
サブロー君たちも類に漏れず俺のイメージ不足とスケルトンたちの経験不足からなのか、模した騎士さんたちの三分の一以下の実力しかないからね。
「おおぉ、やっぱりご本人の方が圧倒的にうまいね」
「まあ、あの二人の弓の腕はうちの団の中でトップクラスですからね。本人たちもかなり努力してますから、自分たちを模したサブローに負けるわけにはいかないんですよ」
「そりゃあ、そうだよね」
バシバシと真ん中付近に矢が刺さり、その度に、「おおぉ」と観戦しているみんなから声が上がる。
二人が順番を代わる度にニヤニヤしたり、悔しがったりするのも見ていておもしろい。
団体戦とかにしたら前世のボーリング的な感じで仲間同士でハイタッチしたりとかして、それはそれで盛り上がるかもね。
十セットが終わってわずかな差で長身の女の人の方が勝った。
「どうだった?」
「大勢に見られているとかなり射づらいですね」
「ほんと、それね」
「でも、おもしろいと思います」
「うんうん、私らがこんなに注目されることもなかなかないですからね」
「そっかぁ、ありがとう」
俺が二人にお礼を言うとキラキラと目を輝かせた……いや、ギラギラと目をぎらつかせた母さんが寄ってくる。
「良いわね、これ」
「うん、だけど、お茶会の催し物とかにするなら見栄え的にも着飾った騎士さんたちにやってもらった方がいいかもね」
「なるほどね」
「女性の騎士さんたちに男装の麗人的に白い軍服とかでビシッと決めてもらったら、奥様たちの食いつき的にもいいかも」
「「……?!」」
例えるなら塚のオス◯ルみたいな感じでね。
塚もかなり良いらしいから一度は行ってみたいと前世では思ってたんだけど、なんか男一人だと行きづらくて行かずじまいだったんだよ。
転生したいま考えると恥ずかしがったりせずに行くべきだったと後悔してるんだよねぇ。
っん?
「ギリス!」
「どうかしたの?」
「それはいいわ」
「そっ、そう?」
「そうですよ、弓を得意としているのは私たちみたいな女性の騎士が多いですし」
「ギリス様はどこからそんなアイデアが浮かんでくるんですか? 最高ですよ」
自分のアイデアではなくて前世にあったものの模倣だから前世の記憶のおかげだよね。
ということで、母さんのお茶会で催される前世のアーチェリー的なイベントは女性の騎士さんたちが行うことになった。




