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1話

目を開けると北欧系のものすごい美人が、心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでいる。

白い肌に色の薄い金髪、それから緑色の瞳。

これは悪夢だね……こんな状況、普通にあり得ないし、どう考えても途中で良からぬ方向に話が向かうパターンか、良いところで、『はい、夢でしたぁ』ってやられるパターンでしょ?


「目が覚めた?」


舐めてるね。

こっちはこんな北欧系の美人と出会えるような人生送ってないんだよ!

なんなら海外旅行でもヨーロッパなんて行ったことないんだからね。

だから速やかにもう一度、瞳を閉じる。


「大丈夫なの?」


っん?

今日の夢はなかなか手強いね。

しかたないなぁ……もうこっちは夢だってわかっているけどしかたなく、そうしかたなく付き合ってあげるんだからね。

俺はまた目を開く。

というかこの人……本当にバカみたいにきれいなんですけど?

それから視線を少し下げると窮屈そうな二つのアレが目に入る。

さっ、さすがにちょっとこれは……いくら夢だからってデカ過ぎなんじゃないかね、君?!

嫌いじゃないけど。


「ところで、あなたは誰?」

「ギリス?」

「ギリス?」


ハッと女の人が表情を変えてバタバタと慌てた様子で部屋を出ていって、すぐに白衣を着た男の人を連れて戻ってきた。

この人も見た目は外国人だけど白衣だし、医師ってことなのかな……ってことは、海外に来てるって設定なの?


「ギリス君」

「あのぉ……ギリス君って誰?」


俺が首をかしげると男の人が、「まいったな」とつぶやながら自分の額に手を当てた。

その医師の説明によると俺はギリス・ラグズリーフェルトという名の伯爵家の嫡男らしい。

ギリス・ラグズリーフェルト?

俺は目の前にいる医師から隣に立っている女の人に視線を移した。

うん、この人どっかで見たことあると思ったらリシャだね。

おいおい、ちょっと!

海外どころか異世界じゃないか、しかもギリス・ラグズリーフェルトって俺が前にやったことのあるゲームの悪役令息だよ。

そして、この俺の目の前にいる美女はそのギリスの母親のリシャ。

いやいや、さすがにこの設定は無理があるんじゃないかぁ、いくらなんでも目覚めたら異世界はやりすぎだよね、こんなの夢ってすぐにバレるじゃないか……まあいいか、面白いからもう少し乗っとこっと。


「ギリス君がどうして寝ていたのかと言うとね」


俺がキョロキョロと周りを見渡していると医師が今の状況を説明してくれる。

どうして俺ことギリスが病院のようなところのベットに寝ていたのかというと、婚約者をかけた決闘で相手の男爵令息に一方的にボコボコにされたそうだ。

ああぁ、そのイベントなら知ってるよ。


「学園にある闘技場で行われてたくさんの生徒たちも観戦していたし、その心的負荷はかなり大きいと思うんだ」


多くの生徒たちが見ている前で見ているのも辛くなるほどに一方的にやられたそうで、医師の見立てによると心を守るために一時的に記憶を失ってしまっているのではないか、ということなんだけど……。

うーん、でもそれは違うんじゃないかなぁ。

これって何度も頭を強く殴られたことでギリスが脳死して、その体に俺の意識が入ったぁって設定なんだと思うよ。

だって、あのゲームのギリスは意識を失ったまま取り戻すことはなかったんだもん。


「ギリス!」


おおぉ、話を聞き終えると男の人の側で聞いていたリシャさんが俺に抱きついて来た。

ふむふむ、結構なお手前で……柔らかなアレが俺ことギリスの小さな体に当たってふにゃんと形を変える。


「そんな……うぅぅぅ」


リシャさんが俺の首筋に顔を隠して泣き出した。

それにしても、さすがはファンタジーなゲーム世界。

ギリスはもう十六才なのにこの人は若過ぎるし、美人すぎるし、スタイルも良すぎるから絶対にギリスのお姉さんとかだよね?

俺がそんな事を思いながらリシャさんを見ていたら俺の首筋に顔を埋めたまますごく小さな声で、「恩知らずのポルグヤックのやつら、いつかぶっ潰す」と呟いたような気がするんだけど、こんなにやさしそうなリシャさんがまさかそんなことを言うわけないので空耳だよね?


「リシャ様、申し訳ありませんが、大事をとってギリス君にはこちらに泊まってもらおうと思うのですが……」

「だったら私もここに泊まるわ」

「えっと……」

「なによ」

「大変申し訳ないのですが……」

「な・ん・で・よ」


えっと……とりあえずしこたま頭を殴られているし、記憶も失っているので念のために俺はここに泊まることになったんだけど、リシャさんは、「私もここに泊まる」と言ってまったく話を聞かない。


「ここは学園の医務室なのでリシャ様のような高貴な方が泊まるのはちょっと無理なんですよぉ」


さもありなん。

わらわらと集まって来た学園の大人たちに促されて、泣く泣く部屋を出て行くリシャさんを見送る。

本当に渋々といった感じでリシャさんが部屋を出ると、廊下の方から、「ギリスに何かあったらあんたたちも全員潰すわよ」とか聞こえたような気もするのだがぁ……あんな美人のリシャさんがそんな馬鹿げた脅しみたいなものをかけるわけがないのでこれもたぶん空耳の類だね。

うん、違いないよ。


「私も今日は泊まり込みで隣の部屋にいるから少しでも口が回り辛かったり、気持ち悪くなったらまた呼んでもらえるかい?」

「わかったよ」


それにしてもこの夢はいつまで続くんだろうか……しかもなんでギリス・ラグズリーフェルトなんだよ。

確かにギリスの母親のリシャさんはかわいくて美人だし、アレも素敵なので嫌ってわけでもないんだけどぉ……あのゲームの中にも意識を失ったままのギリスのベッドの側に座る母親が出てくるくだりがあった。

さっきまでここにいたリシャさんとは別人のような姿で、ツヤを失った髪、コケた頬、乾いた唇、その唇から溢れるうわ言のように繰り返されるギリスの名前。

それはギリスの義理の弟が絡むイベントでの一コマで義弟をいじめていた悪役令息とその母親の末路的なムービーだったのだが、もうそれを見せられた時点で俺はかなり萎えた。


「うーん、確かにときどきあの光景がチラついたりするんだけどね……トラウマレベルで嫌いなんだよ、ああいうの」


ギリスは序盤の噛ませ犬的な悪役令息だったから、爵位の低い主人公に対して嫌味を言ったり、主人公と仲良くする自分の婚約者を強めに罵ったり、義弟を弟と認めないような言動を繰り返したり、確かに嫌味なところはあったとは思うんだけど、だからといって死ぬほどボコボコにする必要はないと俺は思う。

ざまぁ的な感じでスカッとする人もいるのかもしれないし、ギリスの義理の弟を、味方だと思っていたやつがゲス野郎だっだとわかって敵になる的な話の流れを作るために、あの寝たきりのギリスと憔悴しきった母親を出したんだと思うけどさ……鬱展開は苦手なんだよ。


「はぁ、嫌なことを思い出したし、やっぱり悪夢じゃないか」


まあ、どうせ夢だから寝れば終わるんだし……ってかさ、どうせ夢ならあのリシャさんが幸せになっているような夢だったらよかったのに。

なんて中途半端な。

それでもギリスがあのまま脳死しなかったってだけでリシャさん的には救われたかな。


「それにしてもきれいだったなぁ」


憔悴しきった姿しか見たことなかったから、それが見られただけで俺的にも救いになったと思うことにする。


「なんか疲れたから寝るか」


目覚めたらこの夢も終わっているんだと思うと少し心残りだけど、この夢の続きではリシャさんが幸せになりますように。

そんなふうに祈りながら俺は目を閉じた。

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― 新着の感想 ―
無駄な現実逃避は見てて痛いかもです、、、 主人公は異世界転生系のラノベとかは一切知らない 設定だったりします??
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