ステータス
「おぉ……」
「どうですか?圧巻ですか?」
王宮から出ると、圧巻の景色が広がっていた。規則正しく並んだ家、そこから少し遠くに見える市場、所々に建てられた神聖さを感じさせる神殿、活気のある人々。そこには、紛れもなく俺の知らない世界が広がっていた。あぁ、俺ホントに異世界に来たんだな…。
「どうですか?圧巻ですか?」
「ちょっとサリアさん…王様のモノマネしないでください。」
「すいません。冗談です。」
冗談ならもうちょっと笑ってくれよ。真顔でそういう事言われると、本当にNPCみたいに見えるから。しかし、近くで見たらより美人だなこの人は。西洋風のキリっとした顔立ちに、スラリとした黒くて長い前髪。俺と歩いているとより美人が際立つな…。
視線に気づいたのだろうか。サリアさんもこっちを向く。しまった。つい見すぎてしまった。何か話を逸らさなければ…。
「しかし、あの王様変でしたね〜。」
咄嗟に思いついたのはあの王様のことだった。
「えぇ。ですが大きい声で言ったら殺されるのでこれからはもうちょっと抑えめでお願いしたいです。」
「ヤッバ!!」
急いで周りを見渡した。誰も…聞いてなさそうだな。危なかった〜…。開始早々進行不可になるところだった。
「そうですね…。少し前までは、あんな風ではなかったのですが…。王様も変わってしまいましたね。」
コツ、コツと階段を降りながら、サリアさんは考え込んでいるようだった。
「何が王様を変えたのでしょうか。ストレスですかね?いやまぁ、もともと変なヤツだったんですが…。」
「いや、もっと抑えましょうよ…」
自分から言っておいてこの人は…。いや、そんな話をしている場合ではない。
「魔王討伐ってったって、どうやったら良いんですか?僕には勇者の剣も、特別な役職もないですよ。」
あるのは、ゲームの中でだけだ。いきなり本番って言われたって、何が出来るわけでもない。
サリアさんは少しだけ考えて口を開いた。
「まぁ、そこら辺は現実世界のステータスも引き継がれたんでしょう。ですが、恐らく」
「ちょっと待ってください。今ディスりました?」
不意打ちの悪口に面食らった。やめて欲しい。まだ就活生なんだから役職もクソも無いだろ。
「いえ、悪気はなかったんですが。そうですね〜。魔王が活性化したのはつい最近。魔王討伐に関する文書がある大聖書庫も今は魔王軍が占拠しています。今頼れるのは、貴方の経験 なんです。」
「経験…?」
「あなたは、ゲームで魔王討伐の経験があります。私の転移魔法も、その素質を見込んであなたを勇者として迎え入れたのでしょう。」
言っている意味が一瞬わからなかったが、今理解した。確かに、俺はゲームばっかりしていた。それも、全部もれなく魔王討伐系のRPGを。経験だけなら、役に立てるかもしれない。
「あっ!」
急にサリアさんが大声を出したので、びっくりして転びそうになった。慌ててサリアさんの方をみる。
「もしかしたら、ゲームの経験値がそのままこの世界に影響してるかも!ステータス、見てみてもいいですか!?」
始めてみるサリアさんの顔だった。新しいことに気づいた子供のような、そんな顔。さっきまでとのギャップに少しドキッとしてしまう。状態異常とかでバレたらどうしよ…。
「あ、えっと…。まぁ、良いですけど。」
「では、失礼します」
サリアさんが、さっと俺の背中側に回ってきた。そして、指で俺の背骨を上から下へ、スッとなぞった。
「アレフレーゼ」
そう聞こえたかと思うと、自分の体から緑色の光が、一気にブワッと立ち昇ってきた。
「え!?え!?なにこれ!?」
「落ち着いてください。ステータス確認の魔法です。害はありませんから、じっとしておいてください。」
言われるがままに、深呼吸をして心を整える。
サリアさんの弾んだ声に、少し期待をしてしまう。もしかしたら、俺めっちゃ強くなってるかも…。いやいや、慢心するな。
数秒くらいたつと、緑の光が眼前に集まってきた。そして、文字らしき物を構成し始めた。
……まったく読めない。すべて異国の文字だ。だが、二文字だけ異様に見慣れた文字があった。
「あっ!!あった!!あれ俺の苗字ですよね!田中ってやつ!」
「見慣れない文字があると思ったら、あれは田中様のお名前でしたか。」
何もかもが見慣れない世界で、唯一自分の知っている物が出てきたから舞い上がっちゃったけど……。しっかりと見ると異様すぎる。こんなファンタジーな文字の中に漢字で田中って……。
「僕の苗字もこの世界の文字にしてくださいよ。このなかで見たら田中だけ田中すぎますって。」
「良いんですよ。田中だけ田中すぎても。」
少し可笑しくて、笑ってしまった。サリアさんも同じらしい。暫くの間、二人で笑い合っていた。
異世界での生活は、案外悪くないものになるかもしれない。
30秒ほど経って、ようやく笑いが収まった。
「では改めて。ステータスを観させていただきますね。」
打ってかわり、真面目な雰囲気になった。文字が読めないため、自分から観ることはできない。ドキドキしながら結果を待つ。
「……。」
「えっと…どうでした?」
黙りこくっているサリアさんに痺れを切らし、直接聞くことにした。
「……普通ですね。」
「ですよね!!!」
「はい。驚くほど普通でした。」
まぁそうだよな…、という気持ちと共に、自分でも見ててみたいという気持ちが湧いてきた。この目で見るまで、まだ真相はわからない。
「サリアさん、私にも、この世界の言語がわかるようにしていただけませんか?」
「あぁ…。確かに字、読めないですよね。待ってください。一時的にですが、あなたの世界の言語に翻訳させていただきます。」
そう言うとサリアさんは、俺の前に出てステータス画面を人差し指でなぞった。
そして、反対の手で俺の手をぎゅっと握った。
「アレリアール」
そう唱えたかと思うと、画面の緑の光が移動を始め、どんどんと見慣れた雰囲気に変換されていく。
「おぉぉ…。」
より一層魔法感を体現できて、かなり興奮する。これが…これが、ずっと憧れていた魔法の世界か…。少しの間の感傷も、失望に変わった。
「何が基準かわからないですけど、これ絶対普通ですよね……。」
「はい。普通です。」
眼前には、日本語に変換されたごく普通のステータス画面が広がっていた。
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名前:田中
種族:人間
職業:勇者
レベル:22
HP:120/120
MP:0/80
筋力(STR):80
耐久(VIT):75
敏捷(AGI):80
魔力(INT):75
器用(DEX):62
幸運(LUK):5
スキル
・未取得
・未取得
・未取得
称号:未取得
・
・
加護:取得済
・ファレトローゼ
経験値:0
次のレベルまで:500
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これだけ普通だと、落胆通り越して絶望にも等しい。だって俺これから魔王討伐しなきゃ何でしょ?終わってるだろ。
「田中様…終わってますね…」
「俺の心の声代弁しないでもらえます?」
あぁ。先が、思いやられる……。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。もし誤字脱字や設定の矛盾、不備等あれば、教えていただけるとありがたいです。




