飯テロで勇者覚醒!
魔王軍と冥王軍が力を合わせて暴れまわる戦場は、地響き、銃声、魔法の閃光、そして敵の咆哮でひどく混乱していた。俺――ロウィンは最前線に身を低く構え、仲間たちの動きや敵の姿を頭の片隅で冷静に追いながらも、心の奥底では焦りが渦巻いていた。
神の勇者サラは、まだ回復の眠りについている。このままではループは終わらず、魔王アスタロスは必ず復活する――突破口は、サラを目覚めさせることだけだった。
目の前では、「新魔王 天星かなえ」と「神託の使者 レイナ」の戦いが、周囲の空間を歪ませた。稲妻の光が裂ける空を走り、景色は水面の波のように揺れた。感覚が狂い、現実と幻が入り混じる、信じがたい光景が戦場全体に広がる。
エリス、マリスも必死に応戦している。表面上は優勢に見えても、じわじわと押されているのが手に取るようにわかる。敵の一挙手一投足が鋭く、体感する時間さえ押しつぶされそうだ。
頭の片隅に浮かぶのは、ダークエルフの指揮官――妙に陽気で、呪文を唱えながらお尻をつねる女――の姿。あいつがシルヴァーナかどうかはまだわからない。だが、気になる存在である理由は、ただ奇抜なだけではなく、異様な冷静さを見せるところだ。強さと危険の香りが、俺の直感に訴えかけてくる。
「何度タイムリープを繰り返しても、最終的に魔王アスタロスは復活する……サラを起こさなきゃ、状況は変えられない!」
エリスの声が、不安と焦りを帯びて響く。
「でも、サラが目覚めるタイミングって決まってるはずよ? どうやって?」
俺は戦場を見渡し、口元に小さく笑みを浮かべた。
「目覚めれば状況は一変する。可能性があるなら、試すしかない」
マリスは眉をひそめた。
「普通に声をかけたって……間に合わないんじゃない?」
「だからこそ、あれを使う」
「“あれ”?」
エリスが首をかしげる。俺は迷わず答える。
「“ご飯の時間”だ」
マリスは目を見開いた。
「えっ、それ本気?」
「サラは食べ物に目がない。寝ていても、“ご飯”の一言で飛び起きる。絶対に」
エリスは思わず笑いをこらえた。
「なら……試す価値はあるわね」
「このループも限界だ。サラが動けば、流れが変わる」
マリスはあきれたように言った。
「じゃあ……ロウィン、叫んでみなさいよ」
俺は深呼吸し、戦場の轟音を突き抜けるように声を張り上げた。
「サラ、起きろ――ご飯の時間だ!」
一瞬の静寂。サラの耳がぴくりと動き、目をぱっと開ける。
「ご飯!? どこニャ!?」
辺りをきょろきょろ見回すその素早い動きに、俺は内心にんまりした。
「本当に……ご飯で起きた」
エリスもつい吹き出す。
「よし、サラ。食べ終わったらすぐ出撃だ」
戦場の混乱の中で、仲間たちが俺の指示を受け、動きを合わせる。魔法弾が閃き、剣が交差するたび、俺の体に緊張の波が走る。だが、今なら流れを変えられる――そう、サラが目覚めた今なら。
俺は心の中で拳を握りしめた。
「さあ、ここからが本番だ……流れを俺たちの手に取り戻す!」
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