勇者サラ、そして俺たちの戦い
<サラ>
――――ロウィンの視点。
サラは戦神ヴァルグリムに導かれ、選ばれし勇者として覚醒した。
神威がその身を包み、血潮のように力が脈打つ。
彼女の瞳には迷いがなく、ただ戦うべき運命を受け入れていた。
「立ち塞がるなら誰であろうと斬り伏せる――これが勇者の誓いニャ!」
サラは「エターナル・ハーモニー・リヴァイブ」で、魔王と化したかなえの心を救い出した。
その瞳には決意の光が宿る。
高らかに詠唱する。
「神光の天罰――《光刃雷竜》!」
天地を裂く轟音とともに、八つの首をもつ雷竜が顕現した。
その咆哮は大気を震わせ、魔王軍と冥王軍を暴風の光で呑み込み、跡形もなく消し去った。
参謀アスヴァルは斃れた。だが、その肉体は崩れ落ちることなく、黒き炎に包まれてゆく。
裂けた大地から瘴気が溢れ、虚空に轟音が響いた。
その媒介を通じ――魔王アスタロスが現世に姿を取り戻した。
「ヴァルグリムよ……私に力を! あの魔を、討ち払うニャ!」
アスタロスは魔界の扉を開き、ケルベリス・ノクスを召喚。
対するサラは戦神の力を使い、天使セラフィナを呼び出した。
サラは「ヘブンズ・レクイエム」でアスタロスを打ち倒し、「光の牢獄 (プリズン・オブ・ライト)」でその魂を封じようとする。
「光よ、永遠の牢獄となれ――!」
だが、冥王ハルバス・ドラウグスが割って入り、アスタロスの魂を奪い去った。
「愚かなる勇者よ。アスタロスはただの器にすぎぬ。我が覇道の礎と化すのじゃ」
そして、闇の渦となりながら、その姿は消えた。
サラは悔しげに呟く。
「……アスタロスを討ち果たしたはずなのに……冥王まで現れるニャンんて……!」
セラフィナが静かに頷く。
「けれど、あなたの光はまだ揺らいでいません。勇者サラ――次に立ち塞がる闇も、必ず討てます」
サラの瞳が力強く輝いた。
「うん……もう迷わないニャ。たとえ冥王だろうと、私が必ず――光で打ち砕く!」
*
俺は揺れる景色の中で、エリスとマリスの姿をじっと見つめていた。
二人は何も言わず、ただ立っている。その沈黙が、胸に重くのしかかる。
「お前たち、何か隠してるな」
俺が問いかけると、エリスは目を伏せた。深く息を吐き、ゆっくりと顔を上げる。
「もう……あなたと一緒には戦えない」
落ち着いた声だった。だけど、瞳に宿る想いは隠せていなかった。
俺は立ちすくむ。言葉の意味が頭の中でぐるぐる回り、胸の奥で何かが崩れそうになる。
マリスも、何も言わず、ただ俺を見つめるだけだった。
「なぜだ……?」
声が震えた。どうしてそんなことを言うのか、理由が知りたかった。
「私たちには、言えないことがある」
エリスの言葉が胸を刺す。俺は目を細め、彼女を見つめる。
かつての仲間の面影は、もうその瞳にはなかった。
「言えないこと?」
問い返す俺に、エリスはゆっくり息を整え、視線を戻して言った。
「それが、今の私たちにとって一番大事なことなの」
静かだが、強い意志を感じさせる声だった。
俺は足を止め、胸の奥で何かが溢れそうになるのをぎりぎりで押さえる。
言葉にすれば、きっと壊れてしまう――
「エリス、マリス……ずっと一緒に戦ってきたんだぞ」
弱々しく呟く。声が途切れそうになる。
「数えきれない敵を倒して、死ぬほどきつい戦いも、全部乗り越えてきたじゃないか。俺は……お前たちを信じてる。仲間だって、俺は信頼しているから」
沈黙を破ったのは、マリスだった。
「私たちも、同じ気持ちよ。今でも、変わらずそう思っている」
その瞳は揺るがず、断固たる光を宿していた。
「でも、戦う理由は、それだけじゃないの」
エリスがゆっくりと歩み寄り、俺の目をまっすぐに見つめる。
「あなたが好きなの」
澄み切った、ぶれない声だった。
「それが、私の理由」
言葉を失った俺の胸に、静かに波紋が広がる。
「エリス……マリス……」
ようやく口に出した名に、すべての思いが詰まっていた。
どう返せばいいのか分からず、俺は立ち尽くす。
二人はそっと目を合わせ、小さく頷く。その表情には、どこか寂しさがにじむ。
「でもまた、あなたの力が必要になるときが来る。そのときは――」
エリスが強く言った。
「私たちをひとりにしないで」
マリスが声を添えるように続ける。
「そうよ、絶対に――」
俺は目を閉じ、短く息を吐く。
そして、ゆっくり顔を上げ、二人を見据えた。
「わかった。どんなときでも、必要なら必ず力を貸す」
二人はほっとしたように笑みを浮かべ、目を閉じる。
「ありがとう、ロウィン」
エリスの声には優しさと、わずかに別れの色が混じっていた。
「またね。必ず会いに行くから」
マリスは涙をこらえつつ、そう言う。
俺は、ゆっくり離れていく二人の背を見つめた。
胸の奥に湧き上がる想いを抱え、俺もまた歩き出す。
「じゃあな……エリス、マリス」
その声には、過去への感謝と、これから進む未来への決意がこもっていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




