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23 星空の夜

「なんで、なんでまた私の目の前に現れるの?消えて、今すぐ消えて!」


私は半狂乱になり、レオに向かって枕を投げる。だが、届かない。

私の、すぐ目の前に落ちた。


せっかく忘れていたのに。

もう、思い出したくもないのに。


「どうしたの?母上。 彼の絵を好きだったじゃない。落ち着いてよ。それに、僕の恩人だよ?」


そうだ。 私はレオの後援をして()()のだった。

ジェミが戸惑うのは無理もない。

あの時期は、()()()後援者だった。


落ち着きを取り戻した私は、ベットに座り直し、ソファーへと腰を降ろしたレオを睨んだ。


「恩人って?」


話が見えなかった。

隣国に帰ったはずの『レオ』が、なぜ、ここにいるのか。


「レオさん達が、僕を救い出してくれたんだ」


ーーー再びジェミが話し出した。


「かの村に、王国軍の生き残りが住んでいるらしい」

という旅の行商の噂を、騎士団が掴んだ。


その真意を確認するために騎士団が派遣されたが、その村は国境を越えた敵地にあった。

その敵地をつき切り、ジェミ達を救出したのが、リオネル・ルーウェン伯、―――レオが率いる部隊だった。


「驚いたよ。レオさんが近衛兵団にいるんだもん」


ジェミは興奮していた。きっと、その時の事を思い出しているのだろう。

そして、私たちがいるこの場所は、王国水練所の施設にある一室だそうだ。


救い出されたジェミ達は、国王との面会の後、王国の()を取り戻す手続きを行うことになった。

なにせ、()()したことになっているのだから。

そこで、父親の逃亡と母親が『ハンク伯』と名乗っている事を知る。


「それで、母上に会いに来てみたら山火事だし、死にかけてるし」


ケラケラ笑うジェミを、横目でにらむ。まったく笑えない。


―――山火事に気付いた彼らは、ボートを出し、オリビアの所在を確認しに来た。

ジェミは「()()()にいるはずだから、安全だよ」とレオに伝えたのだが、レオは「()()()()な居るはずだ」と譲らなかった。

半信半疑でボートに乗り込んだジェミだったが、結果、沈みかけていた母を救うことが出来た。


「レオさんが、付いて来てくれて良かったよ。じゃなかったら、母上を助けられなかった」


急にジェミが姿勢を正した。顔つきまで変わった。


「それでね、母上。 レオさんと再婚しない?」

「何を言っているの?」


驚きジェミを見ると「先に言っておくけど、僕は賛成だよ」と、ニコニコしている。

私は唖然として、口をパクパクするしかできなかった。

何をどうしたら、そんな話になるのだろうか。


「じゃ、僕は外に出ているよ。レオさん、頑張って」


後ろ手に手を振り、部屋を出るジェミは、随分と大人びていた。


ジェミと入れ変わり入ってきたのは、白と黒のローブを目深に被った二人の、()()魔法使いだ。

ハッと息を飲んだ。背中がゾワゾワする。


「何の契約をさせるの?ジェミの記憶は消さないで」

私は咄嗟に、頭を両手で覆った。

せっかく生きてジェミに会えたのに、忘れるなんて、また離れなければならないのか。


「違うよ、オリビア。僕の話に機密事項が出てしまったら、彼らに()()してもらうんだ」

「ジェミを()()んじゃないの?」

私はイヤイヤをするように、頭を左右に振り続けた。

「大丈夫。ジェミは消さない。消すなら、()の方だ」

「えっ?」


私は頭を上げ、マジマジとレオを見た。

「聞いてくれる? 任務中に恋をしてしまった馬鹿な僕の話を」

レオは、ハニカミながら話始めた。


―――とある人物の情報を掴む為にマダム・ルイの交友関係を調べる必要があった騎士団は、特殊部隊に所属しているレオの描絵の特技を生かし、マダム・ルイの屋敷に潜入させた。

パトロンも仕込みの団員だった。


それに、オリビアが引っ掛かってしまった。


今更、作戦変更をする訳にもいかず、オリビアを巻き込んだままに作戦を実行した結果、マダム・ルイはオリビアを含む貴族達に、不信感を抱いて国外逃亡した。


騎士団としては必要な情報は得られたので、捜査自体は成功したのだが、レオ自身はコンクールで入賞したり、絵が売れるようになったりと、思わぬ形で有名になってしまった。


そのために、潜入捜査を行う部隊から、以前所属()()()()近衛兵団に戻る事になったのだ。


(それを、ソフィアが見たのね………)


なるほど。とは思ったが、()()()とどんな関係にあるのかわからない。

小首を傾げながら、レオの言葉を待つ。


「もう一つ困った事があって………、その………、君に恋してしまったんだ」


いきなりの告白に、頭が真っ白になる。 

過去の日々で、私の告白を顔色一つ変えず、涼しい顔で受け流していたくせにっ。

目の前で、嬉々として告白してくるレオに、腹が立った。


「………確か『君の望むような絵が描けない』って言って、私の元を去ったわよね? 話が見えないんだけど。 もしかして、私が未亡人になったから? そうゆう事?」


レオの顔が歪む。やっぱり………、そうゆう事なのだろうか。


「主人が死んだから、いまなら不倫にならないから? だから、いまさら告白してきた、って事なのかしら?」

「違う!違うよ、オリビア。 確かに、僕の立場もあるし、不倫はまずいと思って………。それで、君の元から離れたけれど………けれど、忘れられなかかったんだ。だから………時機を見て、君が………」

慌てたように私の両腕を掴んだレオは、必死に首を振る。


「オリビアに、迷惑を掛けたくなかった………」


私はレオの指をゆっくりと剥がし、彼の腕を押し戻した。

「忘れているかもしれないけど、わたし、あなたのパトロンだったの。 とっくに不貞を働いてるわ」

レオは驚いたように私を見つめる。拒絶されるとは、思っても見なかったのだろう。


冗談じゃない。 わたしに恋してしまったのなら、わたしを攫って国外逃亡することだってできたではないか。

ソフィアの彼や、あの憎い元主人がやったように。


「悪いけど、疲れたわ。少し眠らせて? それと、助けてくれて、ありがとう。感謝します」


私は、布団をかぶり彼に背を向けた。 

パタン………と、ドアが閉まる音がした。


わかっている。わかっているのだけど………。

公爵子息の立場で、機密事項を知っている立場で、国を捨てる事は出来ない。


でも、あの時、少しでも私の好意に向かい合ってくれていれば………。

最後まで、レオは好意を伝えてくれなかった。

そう思うと、悔しくなる。


「ーーー宜しいのですか?」


躊躇いがちに問いかける声に、我に返る。()()使()()達の存在をすっかり存在を忘れていた。


「記憶をいじるならしっかり消してね。後から思い出して、苦しむのもしんどいわ………」

「………いえ、記憶はいじりません。ただ………ゆっくりお休みください」


音もなく近づいてきた白の魔法使いが、私の頭を撫でだした。段々と瞼が重たくなる。


(そうだ。リオンの事、話さなきゃ。 明日。明日になったらレオに話そう。驚くかしら?)


微笑みながら眠りに落ちる私に、どこかで聞いたようなセリフが聞こえた。

「あなたは何も悪くない………」


********


部屋から出てきたレオを見つけて、ジェミが駆け寄る。


「どうでしたか? 母の返事は」


キラキラした瞳でレオを見つめるジェミに、レオは首を振る。

「ダメだったよ。怒らせてしまった。()()()()なんだろな………。」

レオは薄く笑った。


「でも、いいさ。 これからは、正々堂々と彼女と向き合える。 もう、隠し事はないんだから」


レオが視線を向けた先には、何も知らないアンが立っていた。

彼女は胸に一枚の絵を抱えていた。


レオはスッキリした顔で、アンが大切に抱えている『星空の夜』を眺めた。

 



お読みいただき、ありがとうございました。

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