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21 崩壊

小鳥のさえずりが聞こえるうららかな春の日に、主人の葬儀が行われた。

国葬に近い形での葬儀だった。 軍関係者と私と子供たち。それとアン、ソフィアが立ち会ってくれた。


任務中に事故にあった。保護対象者を庇っての事故だった。と、発表された。

 

保護対象者を庇っての名誉ある殉職だと称賛された。

でも、真実は違う。彼を慕って涙を浮かべている騎士たちが哀れだ。


「オリビア大丈夫?」

声を掛けてきたのは、侍女の装いでリオンを抱いているソフィアだった。


リオンは昨年生まれた男の子で、銀糸のようなはちみつ色の髪色は、レオの色のような私の色のような曖昧さだった。

しかし、僅かに緑がかった藍の瞳は、レオを連想させる。


「ねぇ、あれ」

ソフィアが顎でしゃくった先には、近衛兵の一団がいた。 白い騎士服が緑の芝に映えていた。

「あの中に、()がいるんじゃない?」

苦笑いをするしかない。 さすがに主人の葬儀中に、私を捨てた男を捜す気にはなれなかった。

「もう、終わった事よ」

私は彼女の腕の中から、ぐずりだしたリオンを抱き上げた。


その時、射るような視線を感じた私は顔を上げた。 その方向は、先ほどの近衛兵の一団がいる。

「どうしたの?」と、不思議がるソフィアに「なんでもない」と答えた。


空砲が澄んだ青空を揺らした。 霞のような硝煙が、その青に消えていった。


*******


あれからいくつの季節が流れただろうか。


ルカは騎士見習いとして、厳しい寄宿生活を過ごしている。 時折届く手紙には、憧れの騎士の話ばかりだ。

ランドヴェール領館で過ごす事が決められた、サラとリオンだったが、私と「離れたくない」と、泣け叫ぶサラに根負けした侯爵夫妻は、後ろめたい気持ちがあったのだろう、私が領館で共に生活することを提案してくれた。

私もレオとの子供であろうリオンを、他人に任せることが心苦しかったので、侯爵夫妻の申し出を快く受けた。


それからというもの、ランドヴェール領館とエルセルホテルを往復する日々が続いていた。


ーーーホテルの執務室の机の上には、私との婚姻を希望する、高年齢の貴族の釣書が積んであった。 私は封を開けることなく、暖炉の紅々と揺らめく炎へと投げ込む。


「アン!アン!」


私は、付き合いの長くなった侍女の名前を叫んだ。 ノックの音に声を荒げる。

「もう、何度言えばわかるの? 釣書は受け取らないでって。 もう、男は懲り懲りなのよ」

「でも、お嬢様。 もう何年も同じ方からのお誘いが届いてるじゃないですか。その方と一度お会いしてみたらいかがですか?」

「だから、()()()は止めてって言ってるでしょ?」

ため息をつきながら、部屋の入口に立つアンを睨んだ。 三十半ばの私に対する嫌味にしか聞こえない。


「独身なんですから()()()です」

そう言いながらアンは暖炉に近づき、くべたばかりの釣書を火掻き棒でつつき出した。

「ほら、これですよ。 お嬢様」

アンがつついている火のついた釣書を、私は横から覗き込んだ。


リオネル・ルーウェン


息を飲んだ。そんな、馬鹿な………。

ソフィアとの会話を思い出す。 引き籠りの公爵子息、『レオ』かもしれない人物。

「お会いしてみますか?」

「冗談でしょ?」


リオネル。その名前を見つけてから、悪夢を見る事が増えた。


ルーウェン伯がレオだったら………。

リオンが自分(レオ)の子供だと気づいて、取り返しにくるのだろうか。

それとも、まだ、私を?


コテージの広いベットで一人寝に慣れるのに、どれだけの時間がかかっただろうか。

期待してしまう自分が嫌になる。

(レオ)はマダム・ルイと結託して、私を騙したのかもしれないのに。


いつからか、一日の終わりにコテージのテラスの椅子に腰かけ、アルコールを楽しむ事を覚えた。

ふと押し寄せるレオの思い出に負けまいと、アルコールの力を借りていた。

今日のような寒い日には、ホットワインを楽しんでいる。


テラスから空を見上げると、満天の星空の中にオリオン座が輝いていた。

冬の星座をみると、嫌でもレオとの別れを思い出す。

泣きながら見上げる夜空には、決まってオリオンが見下ろしていた。


夜風にブルリと身震いした私は、ガウンの合わせを直しながら寝室へと戻る。

パチパチと爆ぜる薪の音を聞きながら「今日は悪夢を見ませんように………」と、祈りながら眠りにつく。

暖炉の横のディーゼルにかかる『星空の夜』が、私を見守っていた。







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