ハギザ38
よろしくお願いします
お邪魔します。
そう言って君の部屋に入ると、1番に目に入ったのは、ドアから入った部屋の右奥。ベット近く隅にいる灰色の化け物だった。
いつもは目を瞑っているはずの灰色の化け物。あのハギザよりもずっと大きい目を見開き、歯を尖らせていた。しかし、相変わらず何かを喋る素振りもない。
「秋乃くん…?」
「あぁ、ごめん。なに?」
君の化け物に意識が集中していて、ベットに座っている君からの反応に遅れてしまう。
「えるの?…」
「え?ごめん聞こえない」
8畳ほどの間、真ん中にある丸い黒テーブルに座る僕。こんなにも君と離れている時点で、今の状況がいいものだとは思えないし、いつまでも俯いている君にどんな対応をすればいいかなんて、僕にはわからなかった。
「秋乃はさ!本当に、本当に…化け物って奴が見えてるの?かな…なんて」
呼び捨て、感情的、一度は震え掠れた君の声。次第に収まる感情は君を俯かせていく。
それと同時、隅っこにいたはずの灰色の化け物は君の背後に憑いていた。
僕の答えはどうすれば正解になるのだろうか。いや、僕自身の答えなのだから、それはもう既に正解なんだろうけれど、でもやっぱり、今の君に何を言っても正解にはならなそうな気がした。
「あー、前の話だっけ?あ、あれは嘘っ、もしかして信じてた?あはは」
堅苦しい嘘話をするのは慣れているのに、君の前だと、どうもぎこちない自分を感じていた。
「うそ?本当に嘘なの?」
俯く君から感じ取れる威圧感。
前髪で目が隠れてはいるけれど、その中にある目を見てしまったら後悔しそうな、そんな威圧感。こんなにも攻撃的な君を、僕ははじめて見る。
「え、その、嘘というか、冗談…的な?」
『おい、しんっ!それ苦しいからやめろ!』
今僕が感じている君に対しての緊張感や動揺。それがハギザにも伝わっているらしく、ハギザは背後で踊り悶えていた。
確かに、「化け物が見える」なんてことを正直に言って仕舞えば楽だったかもしれない。たけど、直後になってから気がついたことがあった。それは、「僕が化け物が見える」と認めてしまった後のことだ。
何か、得体の知れない何かが変わってしまう気がした。それに、血の繋がった母親にすら信じてもらえなかったこの現象を、他人に言って軽蔑されたくもない。まして、それも尚更、君と言う存在だからこそなのかもしれない。
「私、信じるよ。秋乃くんが見てるものを信じる」
君の背後の化け物は笑う。
『しん、嘘だ。騙されんなよ?…おい、しん?』
「本当に、信じてくれるの?」
ハギザの声は、僕には届いてなんかない。
ただ、今目の前にいる君だけを見て、僕は君を疑っている。でも、その疑いは軽率なものだ。
「うん…だから私、秋乃くんのこと知りたい」
『がぁーーーーはっ』
この時初めて、灰色の化け物が声を出した。
それは聞いたこともないくらいに低く、醜い声。
それは僕を笑っている様で、馬鹿にしている様でもある。そればるで、化け物の中でも、一段と化け物の様だった。
『しん…俺はこんな化け物と関わるのは真っ平だっ!』
「僕も、月乃さんのこと知りたい、ずっと前からそう思ってた」
ハギザの忠告を無視してまでも、僕はいったい君の何を知りたいのだろうか。そんなことは一切わからなかった。
ありがとうございます




