万金
戦闘は三日三晩続いた。
戦闘といっても直接のぶつかり合いはほとんどない。
堅陣とわかっている場所にわざわざ突っ込んでいく部隊などない。
だから「部隊を出したふり」だ。ただの「ふり」じゃない。プロによる「ふり」だ。
逆にこちらも国王軍の兵站を切ろうと偵察を出していた。結局見つからなかったけど。
だからこそ、それだけで私達は休むことができなくなる。戦闘はほとんど行われなかったにせよ、私達は目に見えて疲弊していた。
「ねぇねぇ、デュマ大公。そろそろ飽きたりしませんかー? あっ、ゲームします? ゲーム! ジャンケンしてデュマ大公がヘルメットをかぶって、うちのベルナールお兄様がヘルメットごと頭蓋骨を押し潰すっていう内容なんですけどー!」
「はっはっは、死ぬねぇ、それ」
三日三晩休むことができなくても、ココ将軍の戦死が精神的に結構響いてても……それでもラジオペドレッティは続けなければならなかった。
「まったく、ジェルメーヌ嬢と話していると、飽きないものだね。ずっとここにいたいものだ」
おう、しっと。楽しませちゃってどうするんだ。
「あらあら、楽しんでいただいた料金は即時撤退でチャラにして差し上げますよー!」
「そうしよう。今から撤退するよ」
なんだと?
私は一瞬、デュマ大公の言葉に頭が真っ白になってしまった。
「十分な戦果だと思わないかね? 邪魔なパスカル・シクス君に一撃を加えることができたし、そのパスカル・シクス君とベルナール・ペドレッティ君の本気の守備を見せてもらった……実際にお手本のような堅陣だ。学園で教えたいくらいだね」
いいぞ。もっとベルナールお兄様を褒めろ。
「そして君だ、ジェルメーヌ嬢。君と話をするのはとても楽しい。できれば私の私室に牢屋を作って、そこに閉じ込めて、ずっと声を聞いていたいものだね」
「牢屋のある私室ってお客さんに見られたら一発で終わるやつじゃないですか? そんなに終わりたいんだったら首刎ねときましょうか?」
そんな遠回しな自殺を考えなくても、ベルナールお兄様をはじめ、いくらでもデュマ大公を終わらせるスタッフは揃っているというのに。
「ジェルメーヌ嬢が刎ねてくれるのだったら考えようか」
「そういう形の愛の告白とか受け付けてないんですよ」
刎ねないよ。剣重いし、まともに扱える気がしない。あと絶対愛じゃない。
「まぁ、撤退してくれるんだったら文句は言いませんよー。あはー、撤退が決断できて偉いでちゅねー! デュマちゃん撤退できて偉いでちゅねー!」
「そうとも。私は偉いんだよ。大公だからね」
言ってくれんじゃないか、貴族社会の申し子め。
「ところで私が撤退しようとしたら襲撃してくるかい?」
「そんなことをするわけないじゃないですか! 当たり前じゃないですか! 本当ですよ、本当!」
私の言葉にデュマ大公が笑うのが聞こえて、そこで拡声の魔法は途切れた。
「本当に撤退するつもりなのか!?」
「なぜだ!」
軍議は大盛り上がりだった。私はぐったりしてたけど。
「兵糧がもたないのではないか」
誰かが発言するが、そんなわけはない。
戦場は王家直轄領とシクス侯爵家領の境界あたりに位置する。そこからパスカル・シクスが敗走してきた、この陣地まではシクス侯爵家領を切り取り放題だったということだ。それは、つまり、略奪し放題ってことだ。
近隣に対する略奪部隊を編成してもまだ余力が十二分にあるだけの大軍だ。兵糧切れの線はほぼないと思う。
「本当に撤退をはじめたぞ」
敵陣を観察していた武将が戻ってきて報告する。
ふぅーっと大きなため息をついたジャンさんにパスカル・シクスが目を止めた。
「ジャン、どう見る?」
促されたジャンさんが口を開く。
「時間を稼がれたということなんでしょうね。私はこの3日間でとても大きいものを失ったんじゃないかという気がしていますよ」
そんな言葉を聞き流して私はぼーっとしていた。
お風呂入りたいなぁ……
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科




