笑顔
私が楽しくラジオペドレッティをやっている間も攻められたり守ったりしてた。
まぁ、ベルナールお兄様は武力100ばかりがフィーチャーされるが、統率力も95だし、パスカル・シクスも統率力92だ。
この2人が本気で作った堅陣はそう簡単に破れるわけではない。
しかも敵は一方向だけだった。
南側からくるデュマ大公率いる軍だけ。大軍とはいえ、一方向だけだ。
北からは敵はこない。
北……ノーランのニコラ・シクスはまったく動いた様子を見せず、静まり返ったままだった。なお、パスカル・シクスが使者や偵察を送っているが、まだ距離的にまだ帰ってくるような時間ではない。
ただ、今、ニコラ・シクスがこちらに向かって動いていればちょうど挟撃された形になり、難しい戦いになっていたことは確かだ。
その日の夕方、ついにノーランの情勢が判明した。
パスカル・シクスが出した偵察と一緒に数騎の兵が合流したのだ。彼らは旗印すら失っていたが、その顔には見覚えがあった。
キャメルさん……ペラン子爵令息のキャメルさんだ。
「ココ将軍は戦死なさいました……私を、逃すために」
唇を噛みしめながらキャメルさんはパスカル・シクスに報告する。
軍衣はボロボロで血も滲んでいる。軍旗も持っていないということは……持ち出す暇すらなかったのだろう
ココ将軍が……そうか。
あの気のいいおっさんともう会えないのか……
クレティアン砦の雰囲気を明るくしてくれていた様子を思い出す。
あの人は、ゲーム的な能力はそこまで高くなかったかもしれないけど……人間的な能力は非常に高い人だった。
「キャメル様は落ち延びてくださいませ! ここは私の見せ場ですぞ!」
ココ将軍とキャメルさんの予定では、ペドレッティ軍がいなくなったことにニコラが気づいたとしてものらりくらりとかわして時間を稼ぐつもりだった。
実際にベルナールお兄様も私も、2人が逃げてくれるのなら、とこの方法を採用したのだけど。
しかし、ニコラ・シクスは想像以上に性急だった。
私達がいなくなったことに気づいた瞬間に、ペラン子爵軍、アルテレサ伯爵軍に襲い掛かったのだ。
2人になんの言い訳をする時間すら与えず、いきなり、だったそうだ。
そうでなくてもニコラ・シクスの用兵能力は非常に高い。ほんの短時間でキャメルさんとココ将軍は追い詰められていたそうだ。
「ダメです! 落ち延びるのなら、ココ将軍も一緒に、です!」
「いやいや」
ココ将軍が子供のわがままを聞くように苦笑する。
「私はこの片腕ですからな、馬を駆ることも難しい。一緒に逃げるとなれば足手まといになってしまいます!」
ココ将軍は歯を見せて笑った。
「それよりも私が残りの兵をまとめて、この街の南門を守ってみせますから逃げ切ってペドレッティの方々にお伝えください!」
南門は、今、私達が陣を構築している場所に通じる道がある重要な場所である。
もちろんそれはニコラ・シクスもわかっているから……そこを守るというのは命がけの行為だということはわかりやすい話だった。
「しかし……!」
「えぇい、時間はありません! そこの君、キャメル様をお連れして必ず逃げ切ってください!」
面倒になったのかココ将軍はキャメルさんの兵に指示を出して、部屋を出ようとして、ドアを開けたところで振り返った。
「キャメル様、ご武運を! ペドレッティ家のお2人にもご武運をお祈りしているとお伝えください!」
キャメルさんの見たココ将軍は、最後まで笑顔だったそうだ。
「南門は燃え上がっておりましたが、すでに戦闘は終了しておりました。ココ将軍率いるペラン子爵軍は……誰一人脱出することなく、誰一人捕虜になることなく、全員が討死したとのことです」
報告の最中に肩を落として膝から崩れ落ちたキャメルさんを支えながら偵察の人が報告を続ける。
「またニコラ・シクスはココ将軍を討ち取ったあと、軍をまとめて北門から出陣しました。南門の火事のためそちらから出撃できなかったためと思われます」
偵察の報告にパスカル・シクスは眉を跳ね上げた。
「火事にも関わらず、消火をせずに出陣したのか!?」
ニコラ・シクス、領民を守る意思もないじゃん……私はそっとため息をつく。
またココ将軍と……あの愉快なおっさんとお酒飲みたかったなぁ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科