堅陣
「そうか、ニコラが……」
その日の夕方にようやく合流できたパスカル・シクスは泥と砂埃に塗れていた。恐らくかなりつらい戦闘をしながらここまで逃げ延びてきたのだろう。
「俺はそれなりにあいつをいい弟として可愛がっていたのだがな……仕方があるまい」
顔を歪めて空を仰ぐ。
裏切られて嘆くことは、トップの資質としてはどうかと思うところもあるけれど、人としてはとてもわかる。
私が2人のお兄様に裏切られたら、軽く目からハイライトなくす。パスカル・シクスかわいそう。
ベルナールお兄様は宣言通り堅陣を構築して、パスカル・シクスの軍を迎え入れた。
今はジャン・ヤヒア子爵をはじめとしたパスカル・シクス侯爵家の武将達と打ち合わせをしている。
そんな中、私はパスカル・シクスとはじめて会っていた。
ユーリお兄様と同年齢で、学園でも同窓だったということだが、気が合ったのだろう。無精髭のイケメンではあるが、その顔には濃い疲労が浮かんでいた。そりゃそうだよねぇ……
本当だったらくるはずの援軍はこず、追加の援軍を何度も何度も要請しても握り潰された。
そりゃストレスが溜まるわけだ。
「……」
しばらく瞑目してからパスカル・シクスは私に顔を向けた。
「そういえば君とは初対面だな、ジェルメーヌ嬢。俺がパスカル・シクスだ」
「挨拶が遅れ、申し訳ありませんでした、侯爵閣下。クリスティアン・ペドレッティの娘、ジェルメーヌ・ペドレッティです」
挨拶を返すと、パスカル・シクスが不思議そうにこっちを見ていた。
「嫁が話してたキャラと違うぅ……」
はっきり言うけど、あなたの夫人、ちょっと変な人よ? 会ったことないけど。
やがてベルナールお兄様やジャン・ヤヒア子爵をはじめとしたシクス家の武将が戻ってきた。
「この短時間で、これだけの堅陣……感服いたしました!」
なんか知らんおっさんがベルナールお兄様の陣を褒めていた。いいよー、ベルナールお兄様のことはもっと褒めてー。
首脳が揃ったので、先ほどパスカル・シクスにも話したノーランの状況をみんなにも話しておく。
みんな揃って苦虫を1ダースくらいまとめて噛み潰したような顔になった。苦そう。1匹でも苦いのになぁ。
「ニコラ……様という方は、どのような方なのですか?」
「様」を付けるかどうか悩んだ末の発言にパスカル・シクスは苦笑を浮かべる。
「ニコラは、実力でいえばシクス侯爵家でもトップクラスでしょうね」
ジャン・ヤヒアが口を開いた……「様」が取れていた。
ニコラ・シクスは原作ゲーム、王冠の野望の中でも良将だった。
武力91、統率力87は、側にパスカル・シクス(武力98)がいるから霞むだけで、戦乙女、セリーヌお義姉様とほぼ同水準である。なお、セリーヌお義姉様より知力が高い。セリーヌお義姉様って脳筋だからね。
そして隠しパラメータの義理がやたら低い。ゲーム内義理値ワースト1が海賊、サンディ・アンツで、ブービーがニコラ・シクスだった。
ちなみに第3位はメンディ大司教である。あの人聖職者に向いてないよ。
下手をすれば忠誠100でも寝返っちゃうタイプであり、ゲーム中はお世話になりました。参考までに、ジャン・ヤヒアさんはほぼ裏切らない。知力も高いから忠誠を下げる工作にも引っかからない。
まぁ、ニコラ・シクスの能力が非常に高く、それを評価されていることはわかっていたことだ。
そうでなければクレティアン砦の攻防戦のあと、ガスティン侯爵家への抑えのために派遣されるわけがない。
そんな重要人物の今回の裏切りに、戸惑いよりも怒りを感じる人が多いようだ。
ニコラ・シクスの義理を高く見積もりすぎである。
「さて、こちらの話も共有しておこうか」
パスカル・シクスは切り替えるように明るい声を出した。
「俺はペドレッティ軍を含む北方同盟を頼りにはしていたが、いなくても勝機はあると思っていた」
ふむ?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科