反意
ベルナールお兄様が自分の愛馬にハミを咥えさせているのを見ながら「こ、こんなにおっきぃの咥えるなんて……やっ、やらぁ」と心の中でアテレコしておいた。
ハミは馬の口に咥えさせる馬具で、これによって馬の嘶きを抑制することができる。静かに行動したいときには必須の道具だ。
この状況の馬を擬人化したら、きっと拘束されて、口に卑猥な道具を咥えさせられている子になっちゃうのだろう。
「べ、ベルナールお兄様のえっち!」
「……マジか」
ベルナールお兄様に傷ついた目で見られてしまった。ごめんね。
結局、ココ将軍とキャメルさんを残して私達だけ静かに出撃することにする。
2人のことは心配だけど、戦場の様子も心配だ。
本来であれば計算できていたはずの辺境仲良しクラブの兵力が、そっくりそのままなくなってしまったのだから。
今のパスカル・シクスの気分は関ヶ原で秀忠さんを待っている徳川家康さん気分だろう。秀忠さんはちっともきやがりません。
家康さんは関ヶ原で勝ったけど、どうなるか……
そこからは強行軍だった。
よく言えば、うちの兵士達はずっと英気を養っていたわけで。追加の補給が得られなかったというだけで、通常の衣食住は確保できていたので元気は有り余っている。
その元気を一気に吐き出すかのような強行軍で、私はいつもどおりベルナールお兄様の馬に一緒に乗せてもらっていて……お尻が痛かった。
戦場のモンソローまでは本来は約3日の行程だ。私達はそれを考えうる限りの最高速度で行軍しようとしていた。
……結論からいえばその必要はなかったのだけど。
パスカル・シクスがニコラ・シクスに出した使者が私達の前に姿を現したのだ。
私は天を仰ぐ。ベルナールお兄様も苦々しい顔を隠さなかった。
「すでに決戦は終わり、パスカル・シクス侯爵は敗れ、現在敗走中であります。私はニコラ様に早く救出のための軍を出していただくよう伝令のために走っておりました」
……終わっていた、か。「敗走中」であり、「救出のための軍を要請」ということはパスカル・シクスの戦死という最悪の事態は免れたのだろう。
最悪じゃなくてラッキーとはとてもじゃないけど言えないが。
「一つ伺います。パスカル・シクス侯爵はニコラ様に援軍の要請の使者を出しておられましたか」
「はい、何度も!」
伝令兵から怒りを感じる。
「握り潰されていたらしいな」
ベルナールお兄様が憮然とした顔で呟く。
「ベルナールお兄様、この場所に守備陣を築くことは可能ですか?」
私の質問にベルナールお兄様はあたりを見回す。
「うん、時間は多少かかるが、堅牢な陣を作りあげてみせようか」
ベルナールお兄様の答えに、私は伝令に向き直る。
「あなたはノーランに向かわず、このままパスカル・シクス侯爵の軍に合流してください。『ニコラ・シクス様に反意あり。北方同盟の軍は補給を受けられず、今日まで出撃も認められませんでした』と。『この場所に陣を構築しますので、なにとぞここまで逃げていただきますよう』と侯爵にお伝えください」
「このまま前進して、侯爵閣下と合流していただけないのでしょうか」
伝令の苦しそうな顔……それだけつらい敗走なのだろう。
気持ちはわかる。わかるけど……
「侯爵が敗走中ということであれば、軍も秩序を失っているものと思われます。であれば、そこに合流していくより、私達が秩序だった堅牢な陣を整えた上でお迎えした方がよろしいように思われます……パスカル・シクス侯爵には大変申し訳ないことではありますが、今しばらく駆け抜けていただきたい」
私の言葉に辺りをきょろきょろ見回していたベルナールお兄様も伝令に顔を向ける。
「全方向から攻め込まれても守り切るだけの守備陣を作り上げてやる。お前は急いで侯爵に伝えてほしい」
「全方向から攻め込まれても」ね。なるほどなるほど。
敵が前だけじゃないの、本当にやだなぁー。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科




