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発明

予想外の答えだったのだろう、父上は目を瞬かせる。

「いきなり打って出るなどの積極性を出せというつもりはなかったし、無論そんなことを言われたらダメ出しをするつもりだったが……理由を説明してもらえるのだろうね?」

私は学園の講義を思い出しながら答える。

「まずベルナールお兄様に伺いますが、兵を率いて一番困ることはなんですか?」

「兵站が切れること」

即答された。それもそうなんだけどぉ。いや、それも大事なんだけどぉ。

「えーっと、それはそうなんですけど……あの、ほら、今の話題」

困ったようにベルナールお兄様に顔を向けると、ベルナールお兄様はしばらく考えて、それから手を打った。

「一番困るのは軍に疫病が流行ることだ」

ありがとう、ベルナールお兄様。下手か!

ベルナールお兄様の下手さに微妙な表情になってしまったお父様に話を戻す。

「えっとですね、お兄様が今、おっしゃったように兵站の問題は大事なことはわかりますが、それは後方と、前線のそれを請け負う者がしっかりしていればなんとかなることではあると思えます。兵站担当の教育はこれからするとして、疫病対策ができていれば、お兄様が先ほどおっしゃった懸念である軍中での疫病の流行を食い止めることができるでしょう」


それがメインじゃないんだけどね!

お父様への感染を止めるのが主目的なんだけどね!


「また、この地域にはマルセル川という川があります。歴史を調べるとたびたび氾濫しているとか……」

ですよね? と確認する視線をシャルルに向ける。

「さようでございます。最近では5年前に氾濫し、大きな被害をもたらしました」

「あれはひどかった……領民も500人以上が犠牲になった」

シャルルとお父様は深く頷く。

5年前だったらベルナールお兄様は王都で学園に通っていた時期かな?

でもユーリお兄様は普通に領地にいたんじゃないかな?

ユーリお兄様の方を見てみると「そんなことあったかなぁ」みたいな顔をしていた。思い出せないなら無理しなくていいです。

「学園で新しいことを教わったのです。川の氾濫こそが疫病を連れてくることを。川の中や土の中に悪い……なにかがいて、それが疫病の元になる、と」

みんなが「ほぉー」という顔をする。ウイルスのことは説明しても理解してもらえないだろうから、この程度の話にしておいた。

それに学園で教わった知識ではなくて、元々知っていた知識なのだけど。

「そこで、です。学園で習ったことの中に疫病を防ぐスペシャルアイテムがありました。それを使えば氾濫も軍中の疫病もばっちこいです」

いや、ばっちこいじゃない。そもそも氾濫とかしてほしくないし。

「それは?」

「石鹸です!」

私の答えにみんなゲンナリとした顔をした。

「……石鹸かぁー」




いや、ゲンナリする気持ちはわかるのだ。

王都から伯爵領に帰るまでに色々と調べてみたのだが、実はこの世界の石鹸は私が知っている石鹸よりもかなり時代が遅れているようなのである。

いわゆる「軟石鹸」と呼ばれるほぼ液状の、動物性油脂を使って作られた石鹸だ。


これが、くっさいのだ。




「そこで考えました。動物の脂を使って石鹸作るからくっさいのではないか、と」

「ん」

父上が興味を持ったように身を乗り出す。

防疫に効果があってくっさくないんなら、みんなほしいところだろう。

「オリーブオイルに薔薇の香油などを混ぜて石鹸を作ったらいい匂いになるんじゃないかと思うんです。あれも油ですからね」

「おぉ!」

私の言葉に感心する男性陣。


私の知っている前世の記憶では動物性油脂を使った軟石鹸が作られるようになったのが8世紀ごろ。植物性油を使って石鹸が作られるようになったのが12世紀ごろといわれている。植物性の石鹸が作られるまで400年のギャップがあるのだ。このアイデアは誰もが思いつかなかったものに違いない。

「なるほど、オリーブオイルか……やってみてもおもしろいかもしれんが……」

難しい顔で考え込むお父様。

「なにか問題があるのでしょうか?」

ユーリお兄様に聞いてみた。

「オリーブオイルは基本的に食用としか考えてなかったからね」

あぁ、そんなもんですか。

「いや、それもあるがな……我が伯爵領内にもオリーブの産地がある」

あ、ちょうどいいじゃないですか。

「それが、セリーヌ湖のほとりでな」

頭にクエスチョンマークを浮かべるユーリお兄様と私。「あー」という表情のベルナールお兄様。

シャルルが苦笑しながらお父様の言葉に補足をする。

「セリーヌ湖のあたりはシュヴァリエの一族がいるのです。オリーブも彼らが領内に持ち込んだものなのでございます」




その、シュヴァリエ? というのがよくわからないが、わからないなりに理解できたことがある。


ユーリお兄様は知ってなきゃまずいことなんじゃないの、これ。

この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。

男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。


モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。


☆今回の登場人物のモデル

ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科

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