水底
そもそも色恋沙汰を話せっつってんのに、なんでチャンバラ話を語るんだろう、この子は。
いや、偉いよ? とても偉いよ?
ロニーは言うまでもない辺境仲良しクラブの重要人物だ。
それを暗殺の危機から守り切ったのはとても偉い。
でも恋バナのテンションで聞き始めて、話を聞いたあとどうしろというのか。
シャレオツなパスタを食べるつもりでいたら、焼肉が出てきた感じだ。しかもホルモン系ばっかりのやつ。
いや、美味しいんだけど、パスタを食べる口になってたんだけどなぁー? 美味しいんだけどなぁー?
ロランスはやり切った顔でお茶を飲んでいる。いいけどさぁー。
しかし、あれだ。
私はその事件のことを聞いていない。
時期的に私がガスティン侯爵家との戦争のことでテンパっていた時期だから、恐らくお父様が処理をしたのだろう。
じゃあ誰が暗殺者を送り込んだのか……
可能性としては3つだろうか。
可能性その1、サヴィダン鉄壁公。
サヴィダン公爵家は宰相デュマ大公家に並ぶ、この国での最有力貴族だ。
王家と激戦を繰り広げ、現時点で一番多くの血を流している家でもある。
今、サヴィダン公爵家はパスカル・シクスを支えると発言し、その勢力に組み込まれた。しかしそれは辺境仲良しクラブがガスティン侯爵と渡り合うことができたからだ。
逆にいえば辺境仲良しクラブがガスティン侯爵に敗れていれば、自分が次の王位を狙うという野心を捨てずにすんだはずだ。
流した血に見合った結果を望むのであれば、辺境仲良しクラブの敗北を願っても、そうおかしいことはない。
……まぁ、この可能性はゼロではないというだけで、それほど高いものではないだろう。
可能性その2、王家。
原作ゲーム、王冠の野望の王家はやることがなくなったらとりあえず暗殺コマンドを実行する機械になっている。
私が知らないだけで、きっとシクス家のガエル政務官以外の人物も暗殺されているのだろうと思う。
では王家がアルテレサ伯爵に暗殺を仕組んだことによりどんな展開が考えられるだろう……?
アルテレサ伯爵家領には港がある。
そしてこの国の南部には海賊であり、反逆者、サンディ・アンツがいる。
現時点で国王とサンディ・アンツが結んだという情報はない……しかし、水面下で盟約が結ばれていたとすればサンディ・アンツが海を越えてアルテレサ伯爵家に攻め込むことはあり得ることだ。
アルテレサ伯爵家の令息を討っておくのは、布石としては十分だろう。
可能性その3、ガスティン侯爵。
そもそも、この暗殺未遂が実施されたのがガスティン侯爵家との戦争前だ。
ガスティン侯爵にしてみれば辺境仲良しクラブの戦力を減らすことになる。ガスティン侯爵にとってロニーがいなくなることによるデメリットはまるでない。
そして……
私が戦争中にずっと気になっていたことがあった。
ガスティン侯爵軍はリシャールとセリーヌお義姉様が指揮を執っていた。
ガスティン侯爵本人が現地にいなかったのは確かだが、それにしても本人の動きがなさすぎると思っていたのである。
もしかしたら、辺境仲良しクラブに目を向けず、他の方向への工作をしていたのかもしれない……例えば教団領の切り崩しを同時進行で狙っていたということは十分に考えられる。
しかし、もし私であれば、作戦の方向は一方向に絞る。戦争中に別方向への工作はしない。
……しかしそれにしてはガスティン侯爵の動きが重すぎたのである。
暗殺を狙っていたため、他の工作が間に合わなかった……十分にあり得ることだった。
「はぁー」
私はため息をつく。
まぁ、どちらにしても犯人が斬り捨てられている以上、これ以上絞り込むのは難しいだろう。
「は、話せって言われたから話したのに……ため息なんてひどいです」
あー! そうじゃないそうじゃない! ごめんごめんごめん!
それから4日後、ようやくソウ辺境自治区に到着した。
「ようこそ、アルテレサ使節団ご一行様」とか、看板が立てられている。
私は馬車から降りて、はじめて獣人を見た。
「わっ、わぁー!」
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科