剣戟
「それで、だね……その……」
ロニー様が歯切れ悪そうに私になにかを喋りたそうにしています。
「……」
ロニー様がなにをおっしゃりたいのかはすぐにわかりましたし、なぜ歯切れが悪いのかもすぐにわかってしまったため、私は思わず苦笑してしまいました。
今、学園は……いえ、学園だけでなく、この街は大変な騒ぎになっています。
はじめは学園にペドレッティ家の家士がジェルメーヌ様を迎えにきたことでした。
学園は建前上、中立な場所とされています。そこに学生でもないペドレッティ家の兵士が立ち入ることは、異常事態であるといえました。
しばらくして新しい情報が出回りはじめました。
ガスティン侯爵がペドレッティ、ペラン、アルテレサの北方同盟に宣戦布告したのだ、と。
私の父は将軍としてガスティン侯爵に仕えています。
もちろん父は私に情報を漏らすほど迂闊な人ではありませんが、アルテレサ伯爵の令息であるロニー様が私に情報を聞こうとするのも、また自然なことであると思えました。
「もうしわけありませんが、わたしはなにもぞんじあげません」
「そう、だよね」
ガスティン侯爵家の勢力から、私以外に数人がこの学園に通っていますが、それぞれに話を聞いてみても、みんな特に情報は持っていないようで退学して実家に帰ろうとしている者もいたくらいです……まぁ、気持ちはわかりますけどね。北方同盟に宣戦布告などをしてしまえば、ガスティン侯爵家の勢力である子供達は針の筵でしょうから。
学園は勢力の縮図です。仕方のないことでしょう。
そろそろ夕暮れです。
私達は家々へと帰っていく人並みの中を歩いていました。
私は寄宿舎に住んでいますし、ロニー様はこの街にお屋敷を構えていらっしゃいます。
あぁ、日が沈む……
そう思った瞬間の出来事でした。
ロニー様の護衛の兵士が血飛沫をあげて倒れたのがスローモーションのように見えたのです。
そこからはすべて、ゾーンに入った、とでもいうのでしょうか……私にとってもとてもゆったりした時間でした。すべての色が消えていました。
驚愕の表情で血煙をあげて倒れていく兵士……すでに目の光は失われ、事切れているのがわかりました。
その向こうをロニー様がなにが起こったのか理解していない表情で後ろを向こうとしています。
私が目を後ろに向けると、マントを被った小柄な人物が剣を振り下ろしていました。あぁ、こいつが兵士を斬ったのですね……
マントは私に目もくれず、ロニー様に向かって、兵士を斬るために振り下ろした剣を再び振り上げようとしていました。
なるほど。ロニー様は北方同盟における重要人物です。どこかの誰かがそれを疎ましく思って暗殺しようとしてもおかしくはありません。
私のことを無視してロニー様の暗殺だけを狙っているのでしょう。
私は無言でマントの横に踏み込んで、剣を振り上げようとする、その手の甲に左の肘を叩き込みました。
マントの目が驚愕に見開かれます。私のことは本当に無視していたのですね……それは好都合でした。
剣の柄に手をかけながら、私が思っていたのは「あぁ、いやだな」ということだけでした。
マントは私の肘の一撃で負傷したのでしょう、片手がだらんと下がって、もう片手だけで剣を持っている状態でした。
あぁ、いやだ。本当にいやです。
お医者様からはまだ止められているんですよ、歯を食いしばるのは。
しっかりと奥歯を噛み締めて右手で全力で剣を握ります。
奥歯が触れ合って、口の中に大きな炎が生まれました。
熱い。
熱い熱い熱い。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
炎は食いしばった口から逆流し、鼻の穴から吹き出しました。
熱い。
マントの喉がガラ空きなのが見えていました。
熱い。
精密さだけは、ずっと、子供のころから高めてきたんです。
熱い。
びゅっ。
私が横に薙いだ剣はマントの喉を斬り裂いていました。
ロニー様がようやく事態に気づいたとき、マントはすでに倒れていました。
周りからは大きな悲鳴が聞こえます……そりゃそうですよね。2人死んでいるんですから。
「ろ、ロランス……?」
ロニー様の声に私はロニー様に目を向けました。
口の中は大火傷で喋るどころではありません。
口を開けると、口の中から黒い煙がぼわっと吹き出して目に入り、目が痛くなりました。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科




