盟主
2日、守り切った。
籠城している中でセリーヌ(暫定)お義姉様が言っていた。
「いい砦ですね。うちの愚弟がジェルメーヌ様との緒戦に敗れた時点で……この砦に入られた時点で6割方ガスティン家の負けは決まっていたのでしょうね」
6割……
「4割も勝ち筋ありましたか?」
「私が旦那様の首をお空にぽーんしてたらわからなかったです」
セリーヌ(暫定)お義姉様怖いわ。絵本とかの微笑ましいボール遊びのシーンみたいに、軽率に「お空にぽーん」とかいうのはやめてほしい。
ココ将軍は隻腕になったが、命は助かった。
下山するときに、弱々しい声ではあったが「またいつでも駆けつけますぞー」とか言ってくれた。
アルテレサ伯爵家はカンデラ将軍といい、ココ将軍といい、人材に恵まれていると思う。
そう、私達は2日間守りきり、シクス侯爵家の軍がガスティン侯爵家領の直前まで進軍し、圧力をかけたことでペドレッティ伯爵家領に進軍していたリシャール達は撤退せざるを得なかった。
それはもう、ペドレッティ伯爵領西部の村々を略奪する暇もなく、速攻で撤退するしかなかったのである。
なぜなら、シスク侯爵家軍はさらに援軍としてサヴィダン公爵の軍を伴っていたからだ。
ロッド・サヴィダン公爵……王家直轄領の南側に領地を持ち、王家の進軍を幾度となく跳ね返したことからサヴィダン鉄壁公と呼ばれる、この国でも有数の名将である。原作ゲーム、王冠の野望では最終シナリオでは諸事情あって滅亡しているものの、シナリオ4まではずっと、生きて、王家の進軍を守り切った、文字通り鉄壁である。
今まではシクス侯爵もサヴィダン公爵も、独立して王に対応していた。
噂ではシクス侯爵家とサヴィダン公爵家は同盟を模索していると聞いていたんだけど……まさか、ここにきてとは思わなかった。そういえば同盟に尽力していたと思しきシクス家の政務官のガエル氏が暗殺されていたはずだ。よく同盟が進んだものだと感心する。
この同盟について、サヴィダン鉄壁公は、爵位は自分の方が上でありながらもパスカル・シクスを盟主とする発言をし、国内に大きな衝撃が走った。
撤退する前にリシャール率いるガスティン軍に取り引きを持ちかけ、イヴォン達人質を、高値で買い取ってもらった。
いやー、善行を積むとお金が儲かりますね。
「どこが善行だ」
「傷一つない体でお返しするんですから、十分善行じゃないですか。ココ将軍からずっときれいな言葉をかけられて嬉しそうでしたよ、皆さん。さて、じゃあいいお取り引きをありがとうございました」
私が立ち上がろうとするとリシャールが顔をしかめたまま声を上げる。
「待て待て。次の取り引きだ。うちの姉上を返してもらおう」
思わず取り引きの現場に付き添ってくれたセリーヌ(暫定)お義姉様を見る。本人も首を傾げた。この人、人質じゃないんだけどなぁ。一回も縛らなかったし。
「本人が帰りたいっていうのなら、身代金は今回だけのサービス大特価で無料にしておきますよ」
「えっ、やだぁ。帰らない。やだぁ」
言い方。言い方変えなさい。
「あっ、旦那様がガスティン侯爵家にきてくれるなら帰ってもいいですよ」
「なに言ってんですか。うちのベルナールお兄様がそちらにいくわけがないじゃないですか。お義姉様はまずうちの家訓をご理解いただかなくてはいけません。家訓その一、軍神は転籍しない。家訓その二、詩人も転籍しない」
私の言葉にリシャールはへにゃっと腰から砕けるようにへたり込んだ。
「……お義姉様。お義姉様って呼ぶまでに至っちゃったかぁ」
一瞬そっちを見てから、不意に気づく。
「あっ、ということは私とリシャール様も義理の兄妹ということになるじゃないですか。やだぁ。リシャール様と仲がいいって社交界とかで思われちゃったら恥ずかしいです」
「俺の方が不本意だわぁっ!」
リシャールが叫んだ。うるさい人だなぁ。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科