求婚
リシャールが放った矢は、普通にベルナールお兄様に避けられた。
ちくしょう。
「……」
「……なんでお前、そんな不機嫌そうなんだ」
本陣に戻ってきたベルナールお兄様を出迎える。
そりゃ不機嫌にもなる。
「あぁいうときは、そのベルナールお兄様の胸元の木札に矢が刺さって『ふっ、こいつに助けられちまったな。可愛い妹が札を首から下げるように言ってくれたおかげだな』って、私の美貌に感謝するところじゃありませんかね?」
「美貌ははちゃめちゃに関係ないな」
関係ないかなぁ? ほんとぉ?
ひょいっとベルナールお兄様の後ろをチェック。
リシャール達は一度下山したらしい。まぁ、ベルナールお兄様が「軍の臭い」とか気持ち悪いことを言い出さないので、この辺りに隠れて様子を伺っていることはないんだろう。
「貴君がベルナ……だ、旦那様のっ、妹君ですね」
……照れるくらいだったら言い直さないでよ。ベルナールお兄様の後ろからセリーヌ・ガスティンもついてきていた……えーっと、彼女は、どう対応すればいいんだろう。
これにはベルナールお兄様も困り顔。
ちなみにセリーヌさんはリシャール下山時に「では。兄上にはよろしくお伝えください。あなたも達者で暮らすように」とか言っていて、さすがにリシャールがかわいそうだった。
「はじめまして、ジェルメーヌ・ペドレッティですわ……えっと、なんとお呼びすればいいでしょう」
「セリーヌと呼んでくれればかまいません」
つかつかと本陣を歩いて木材に腰掛けた。
「よろしく頼みます。お茶はないですか?」
余裕あるなぁ、この人。
「お茶はすぐには準備できないけど、ワインだったらいいやつがありますよ」
「いいですね」
やっぱり余裕がある人だった。
ワインを開けていたらマリウスも帰ってきた。帰ってきて、セリーヌを見てぎょっとしてた。そりゃそうだよねぇ。
「あの、午前中にベルナール殿に蹴飛ばされてたドラソーとかいうやつが率いてきてたから粉砕してやったわ」
あー、あの人……ガスティン侯爵軍の中でも序列としては高い人なのかなぁ、実は。
というか獣道からの攻撃、やっぱりあったんだなぁ。
ココ将軍には本当に感謝しないといけない。
ワインをみんなが飲んでいると……いや、私は飲ませてもらえないんだけど、ふと気づくと周囲が異様な雰囲気だった。
イヴォンと8人の人質達がセリーヌを見て、絶望フェイスを浮かべている。そりゃそうだよなぁ。私達にとってベルナールお兄様が軍神であるのと同じくらい、彼らにとっちゃ本物の戦乙女だもんなぁ。
セリーヌもそれに気づき9人の人質の方を見て、しばらく考えた。
「私も縛られたほうがいいでしょうか?」
1人だけ縛られてなくて羨ましいとかそういう絶望じゃないと思う。
私は黙って首を横に振る。
「セリーヌ様は美人さんですから……美人さんが縛られているところを見てえっちな気分になっちゃう男性がいたら困ります」
ベルナールお兄様が私の方を見た。
「えっちな気分になるのか?」
「……いや、私はなりませんけど、他の方々が」
ベルナールお兄様は「そうなのかー」とだけ呟いた。
さて、縛る縛らないは別として、セリーヌはガスティン侯爵家の戦乙女だ。それが一騎打ちに負けるのも衝撃だろうし、求婚も……そうだよ、求婚だよ!?
「どうするんですか、ベルナールお兄様は!?」
「うーん」
考え込む。
「やはり結婚となると父上に相談しなければならないが、俺個人はこいつを嫁にしてもいいと思うぞ。及ばないにしろ、俺に挑む気骨もよかったし、跳ね返したにしろ、俺とずっと会いたかったと叫んだ槍もよかった。乱世の嫁だな、こいつは」
なに? 槍が叫ぶってなに言ってんだ、この人。乱世の嫁ってのもなんだよ。みんなの嫁みたいに言うな。
まぁ、そういうのはどうでもいい。
私としては、だ。
「ベルナールお兄様がセリーヌ様と結婚することで幸せになれるのなら、私は祝福する以外致しません。家族の幸せが私の幸せです」
「よかった」
私達の会話を聞いていたセリーヌ・ガスティンは大輪の笑顔を浮かべた。
「結婚を断られたら旦那様を殺して私も死ぬところでした」
笑顔だったけど、言っていることは殺伐としていた。大丈夫、この人? ほんとぉ?
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科




