義務
「やーい、ばーかばーか」
ココ将軍は忙しそうに走り回っているが、イヴォンの前を通るたびにきちんと立ち止まり義務感のように声をかけている。あんなやる気のない「ばーか」ははじめて聞くなぁ。
イヴォンも嬉しそうに「むがぁー! ぐぁっ! がぁっ! ごおひであぐぅっ!」と返事をしていて、とても微笑ましい。
私も声をかけてあげるべきかもしれない。イヴォンは金のなる体なわけだし、大事にしてあげないと。
綺麗な言葉をかけながら育てたイヴォンは、とても莫大な身代金になるのです! ……いい。いいじゃないか。
私はそれなりに暇を持て余していたが、ベルナールお兄様をはじめみんなはとても忙しそうだった。
セリーヌ・ガスティンの部隊が到着する前にこの山砦を、より堅牢なものにするために突貫工事を行なっていたからだ。
セリーヌ・ガスティンの出陣の一報から数日が経過した。
同時にシクス侯爵軍も出陣したという報告が入った。
これがガスティン侯爵領に到達するまで、おおよそ2日……私達は2日間、この砦を守り切れば勝ちといえた。
もちろんガスティン侯爵軍もそんなことはわかっている。2日で落とすだけの苛烈な攻撃をしてくるだろうことは簡単に予想できる。
山道だからご自慢の騎兵は役に立たないだろうが、それでも圧倒的な兵力差がある。
これまでなんとかリシャールが釣れないものかとフレデリックに拡声の魔法を使ってもらった上で、自作のブサイクの歌をリシャール軍に聞かせてあげたのだが彼は動いてくれなかった。
まぁ、さすがにこの状況で挑発に乗っちゃうような人を、弟とはいえ総大将には任命しないよなぁ。
「ブサイクだからー、ゲロ男だーからー! ダダッダー!」
「ゲロ男ってなんだ!? オリジナル用語を作るな!」
たまにリシャールからのツッコミが入って、ひたすら私だけが楽しむ空間になっていた。
しかし、そんな楽しい時間も永遠には続かない。
その日の朝、ベルナールお兄様が空を見上げて鼻を鳴らした。
あ、覚えてるぞ、これ! ベルナールお兄様の気持ち悪いやつ!
「軍の臭いだ」
出たー!
ついに、戦乙女、セリーヌ・ガスティンがきた。
武力92は、もちろんベルナールお兄様には及ばないにしろ、ガスティン侯爵家中ナンバー1。そしてこの国の女性の中でナンバー1だ。
私なんか彼女の左手の小指一本にも及ばないだろうという自覚はある。彼女がどっち利きなのか知らないけど。
武力だけではなく統率力も86と、かなりの高水準である。
統率力95、武力100のベルナールお兄様が化け物なだけで、この国でも上位に食い込む女傑であることは間違いないのだ。
その証拠に原作ゲーム、王冠の野望のシナリオ5……最終シナリオである王国暦428年の状況は王家はほとんど滅亡寸前であり、シクス侯爵家とガスティン侯爵家が完全にぶつかり合っている状況だ。彼女はそんな時代を生き延びているのだ。
生き延びてるだけですごいんだ。
パプテマス・シロッコも、ジャミトフ・ハイマンも、バスク・オムも、ブレックス・フォーラも、当時の有名人が軒並み死んでいったグリプス戦役を生き延びたヤザン・ゲーブルさんはすごいんだ!
セリーヌとの合流後、時間を置くことなくガスティン侯爵軍は動きはじめた。
向こうにも時間が残り少ないことはわかっているのだ。
ココ将軍が走って、ベルナールお兄様と私のところに走ってきて「ばーか。あほー」と、律儀にイヴォンに声をかけてから、私達に向き直る。
「ついにきましたな! 腕が鳴りますぞ!」
「あまり無理はしないようにな。あなたになにかあってはアルテレサ伯爵に申し訳ない」
ベルナールお兄様の言葉にココ将軍は豪快に笑う。
「それでは私も準備がありますので、ごめん!」
そして走って、イヴォンの前で立ち止まって「あほーあほー。ばーか」と雑に話しかけた。
イヴォンは嬉しそうにむがむが言ってた。戦争の前の静かな和みである。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科




