眼下
「なかなかきませんねー」
「向こうも慎重になっているのだろうな」
クレティアン橋から撤収してから数日が経った。
その間、リシャール・ガスティンは馬防柵の撤去を行なったが、それ以外に特に行動することなく、川の向こうに布陣したままだ。
おかげで合流が遅れていたアルテレサ伯爵家のココ将軍は被害ゼロでクレティアン砦に入ることができた。
ココ将軍は元アルテレサ家に仕えていたカンデラ将軍やベルナールお兄様よりも統率能力は劣ると自覚しているらしく、ベルナールお兄様に「命令を下さればなるべくその通りに動いてみせますぞー!」とか言っていた。
ベルナールお兄様にそれを言うのはいいのだけど、私とリシャールとの戦闘のこともどこかで聞いたらしく、私にも同じことを言われた。
私は、そんなでもないよ?
「ガスティン家の様子はどうですかな?」
後ろからココ将軍とペラン子爵が声をかけてきた。
途中、ココ将軍は杭に縄で繋がれているイヴォンに「いえーい、ばーかばーか」と雑な煽りをしてからこっちに向き直る。イヴォンは猿轡をかまされながら「むぐー! むぐー!」とか言っている。きっと「いやぁ、それほどでもないっすよー」とか言っているんだろう。
とりあえずココ将軍は彼の前を通るたびに義務感のように煽るのはやめてあげてほしい。積極的に止めるわけじゃないけど。
……今さらだけど子爵本人がこの場にいるのって本当にどうなんだろう。でもパスカル・シクスも戦場に出てるからいいのかなぁ?
「今日も動きがないですねぇ。カメでも頑張ったらもうちょっと動きますよ」
眼下のガスティン軍は橋の向こうでひたすら防備を固めていた。
「こちらから奇襲をかけてやるのはいかがでしょう!?」
ココ将軍も私達に並んで対岸を見据えながら言う。
「やるのであれば、全力を出しますぞ!」
いやいや、無茶だろう、それ……
ガスティン侯爵軍が布陣しているのはクレティアン橋の向こうだ。
奇襲をかけるためにはどうしてもクレティアン橋を渡る必要がある。
夜に紛れようが、なにをしようが、橋を渡るほどの行動を起こせばガスティン侯爵軍に察知されないわけがない。
完全防備を固めているガスティン侯爵軍に攻撃をかけるのは、さすがに自殺行為に思えた。
「むぅー」
しかし、ベルナールお兄様はココ将軍の言葉に考え込む。
なんだろう。ベルナールお兄様が迷うような要因でもあっただろうか。
「……結局は時間がどこまで我々の味方かというところなのだろうな」
クレティアン砦にアルテレサ伯爵家の援軍が間に合ったのと同じように、ガスティン侯爵軍も進軍速度を重視するために置いてきていた後続部隊が合流していた。
あとは私達はユーリお兄様がシスク侯爵家の援軍を動かすまで待っているだけでいい。
時間は私達の味方じゃないのだろうか。
……本当に?
「あー、そうか。ベルナールお兄様に指摘してもらえてやっと気づきました」
「うん、だからココ将軍の言うように奇襲もかけておいたほうがいいとは思ったが……」
ベルナールお兄様は再度、対岸を眺める。
「さすがにあそこまで固められては無理だ。挑発でおびき寄せることもできんだろうしな」
さすがに数日前に挑発でおびき出されたリシャールも、また挑発されるような武将ではないだろう。
ここで挑発されて軍を動かしてしまうようなら顔だけでなく、脳も残念ということになってしまう。
「あの……」
ペラン子爵が私達の話に遠慮がちに言葉を挟んできた。
「どういうことなのかな? 奇襲をかけておいたほうがいいとは……」
「失礼いたします! 伝令が参りました!」
ペラン子爵を遮ってアルノーが伝令兵を連れてきた。
「ご苦労。なにがあった」
ベルナールお兄様の言葉に伝令兵は緊張しながら答えた。
「はっ! ガスティン侯爵家より援軍4000が出陣したようです! 主将はセリーヌ・ガスティン!」
あぁ、やっぱり……
単純に考えればわかることだった。私達がシクス家の援軍を待っている間に、向こうも援軍を要請していた。
援軍が合流する前に叩ければよかったけど……あの防備じゃ無理だ。
そうか。ついにきたのか……原作ゲーム、王冠の野望ではこの戦争では動かなかったはずの大物が。
ガスティン侯爵家の最高武力、ガスティン家の戦乙女、セリーヌ・ガスティン。武力92。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科




