舌戦
「ごきげんよう、ガスティン侯爵軍のフレンズ! ペドレッティ家の可憐なるお姫様、ジェルメーヌ・ペドレッティですわ! 今日はガスティン侯爵ってこんな人ということを皆さんに教えてさしあげましょう!」
戦場に響き渡る爆音。自分でもなんだこれって思うシチュエーションだけど……
「皆さんがガスティン侯爵にどんなふうに焚き付けられたかは知りませんけど、ガスティン侯爵の卑劣な作戦に巻き込まれて大変かわいそう! 歴史書にも卑劣な軍隊と書かれてしまうのでしょう! 皆さんにおかれましてはご落胆もいかばかりかと存じますわ! 卑劣な作戦が100年、1000年と残ってしまうのですもの……」
対岸のリシャールの陣を見ながら気持ちよく喋る。向こうも慌ただしく動いているようだった。魔力を持っている人間を側に呼んでいるのだろう。まぁ、魔力持ちなんて、仮にも名門のガスティン侯爵家にもいないわけがない。
「なにが卑劣であるものか! ペラン子爵は農民を虐げている大罪人であり、貴様らはそれを匿っているでは」
「黙りなさいブサイク!」
直球で罵ったらうちの兵士に受けた。どっと笑いが出た。
なお、リシャールとは二度会ったけどイケメンの部類だと思う。でも写真なんてない世界だし、私がブサイクと主張すれば世間にブサイクと知らしめることができるのだ。フェイクニュースこわぁい。
「なっ!? ……な、な?」
過去二回にわたってペドレッティ家にやってきて、二回とも私に口で負けてるくせに言い返そうとするのはドMなんだろうか、リシャール……うーん、ナイスファイト。
「ブサイクのブサイク語はわかりません! 出直しなさい! ……それで、ガスティン侯爵の主張ですが、それは先ほどブサイクがブサイク語で語った通り、我が盟友ペラン子爵が農民を虐げた、というもの!」
「そうだ! 貴族が領民を虐げるなど、あってはならないことだ! 罪は裁かれなければならない!」
リシャールは立ち直ったらしく言い返してくる。彼はガスティン侯爵は正義であると主張しなければならない立場だからね。
「あら、ブサイクというのは認めるのですのね! これからはご本人公認でお顔が不自由なリシャール様と認識を改めましょう! それはそれとして、罪を裁くとのこと! まったくご立派な考え!」
私が話してる途中に「ぶさっ、ブサイクじゃないし!」とか聞こえたけどブサイク語なのでよくわからなかった。あー、学園に戻って美少女に会いたいなぁ。美少女分補給したい。
「まったくご立派ですわ! なんせ、一方の意見だけを聞いて、一方の意見だけを信じて軍隊を送るのですから! ガスティン侯爵の政治というのは一方だけを優遇するものなのだと感心いたします!」
当然のことだが傭兵を別とすればガスティン侯爵軍の主力、というのはガスティン侯爵領の領民たちだ。だから……
「どんな事実があろうと、どんな事情があろうと、ガスティン侯爵が今、我々と対峙していることは間違いがありません! それは一方の主張だけを聞いて、ペラン子爵の主張をまったく聞かずに一方的に殺戮しようというもの! 絶対に許すことはできません!」
そもそも「ペラン子爵領から逃げ出した農民」というものの存在自体が怪しい。怪しいのだけどそれをつつくと面倒そう。
「これがガスティン侯爵の治世なんですよ、皆さん! ガスティン侯爵という方は一方の意見だけを聞いて、それを信じて殺戮に及ぶお方! 今は軍隊として皆さんのお力を借りなければいけない時期ですから皆さんにいい顔をしていますが、本質は人の話を聞かない人ですからね! きっといずれ皆さんも一方的な冤罪でいきなり殺されちゃう日がくるのだと思うと悲しくてたまりませんわー!」
兵士は毎日兵士というわけじゃない。兵士のほとんどは戦時に徴収される領民だ。
向こうの陣地では「あんな妄言に耳を傾けるな!」とか「正義はこちらにあるのだ!」とか味方を鼓舞する声で、もはや言い返す声も届いてこない。
「はぁー、正義正義! 一方的な正義と決めつければ一方的に人を殺すことができる人なんですもの! ガスティン侯爵ってどんな裁判をなさるのかとても興味がありますわー! きっととても愉快な判決をくだされるんでしょうね!」
私が気持ちよく喋る続ける中、ガスティン侯爵軍が動きはじめた。
騎兵が橋を渡りはじめようとしている。
うるさい小蝿を踏み潰して黙らせようとでもいうのだろう。
私は笑いながらフレデリックに視線を送った。
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科