橋梁
戦場はマルセル川にかかるクレティアン橋だった。
後方にクレティアン砦という山を利用した砦が控えている。いわゆる山砦というやつだ。
ベルナールお兄様が砦を見てうんうんと頷いていたから結構いい場所ではあるのだろう。
私もここでの作戦行動が終わったら砦に入る予定になっている。
ここまでペドレッティ伯爵家領の西部はガスティン侯爵家に切り取られてしまっていた。そして今、ようやく川を挟んで両軍が睨み合っていた。
領地を多少切り取られてもなお、喉から手が出るほどほしかった準備時間と戦場を手に入れたのだ。負けるわけにはいかない……
ガスティン侯爵軍は切り取ったペドレッティ伯爵家領の村々の略奪はしていないようだった。
多分、この戦争に負けるつもりなど1ミリもなく、今後の統治のことを考えて掠奪するのは得策じゃないと思っているのだろう。
目の前のベルナールお兄様を無視して勝つつもりとは身の程を知れって話である。
ガスティン侯爵軍の総大将はリシャール・ガスティン。侯爵ティボー・ガスティンの弟で、過去二度にわたってペドレッティ伯爵家に使者としてやってきた人。そして二回とも断られた……多分ものすごいヘイト溜め込んでる人。
原作ゲーム、王冠の野望ではお父様が亡くなった後のペドレッティ伯爵家にガスティン侯爵家が攻め込んだときも総大将であり、そして彼がペドレッティ伯爵家を滅ぼした。
……こっちもヘイトの溜まる人事である。
しかし……
川の向こうに布陣しているガスティン侯爵軍を見る。
兵力は2000といったところだろうか。
ペドレッティ伯爵家領を速度によってできるだけ切り取るために、ご自慢の軽騎兵と、歩兵の中でも足の速いものだけで進軍してきたのだろう。それはそれで悪くない戦略に思える……なぜならアルテレサ伯爵の軍がまだ到着していないからだ。800人は今の私達には大きな戦力だ。アルテレサ伯爵家領、ちょっと遠いからなぁ……
ガスティン侯爵軍は4000人で出陣したという報告だから、時間が経てば合流されてしまう。それはおいしくない。でもこちらも時間が経てばアルテレサ伯爵が来てくれるし、パスカル・シクスに援軍を要請しているので時間の経過は重要。最終的にはパスカル・シクスからの援軍頼りのため、どちらかといえば時間は私達の味方であるとはいえ、100%の味方ではないという状況である。
……まずは生き残ることを考えましょう。
「フレデリック、準備はいいかしら?」
ベルナールお兄様から借りている魔法使いのフレデリックは、緊張した顔で頷いた。
やっぱり魔力30は大事だなー。
私はフレデリックを見て、むふふんと笑った。
「音を大きくする魔法というのはあるのかしら?」
「音を大きくする魔法ですか?」
まだ出陣前のことである。ベルナールお兄様は室内で作戦を練る中、館の外に呼び出した私の質問にフレデリックは首を傾げた。
「ありますけど……なにをするんです?」
あるんだ……よかった。本当に魔法のことは魔法使いじゃないとわからないことばっかりだからなぁ。
「例えば私が歌ったら、遠くの相手まで聞こえるくらいの大音量にできたりする? あ、できればこちらの陣地の人にはそれほど大きくは聞こえない感じで」
「指向性ってことですね。できますよ」
いいじゃないの、魔法!
「ふんふんふふーん」
私の考えていることができそうで、ご機嫌についつい鼻歌が漏れる。
「うるさいぞ、ジェルメーヌ」
二階から顔を出したベルナールお兄様に怒られた。
……フレデリックが得意そうに音声拡大の魔法を使っていた。なんで私の鼻歌の指向をベルナールお兄様方面に向けたよ?
「じゃあフレデリック、はじめましょうか」
「はい」
そして私の声が戦場に響いた。
「ごきげんよう、ガスティン侯爵軍のフレンズ! ペドレッティ家の可憐なるお姫様、ジェルメーヌ・ペドレッティですわ!」
この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。
男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。
モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。
☆今回の登場人物のモデル
ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科




