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狂犬

「お前、遅すぎないか」

部屋に戻ったらアドリアンに呆れた顔をされた。

「乙女には秘密の時間があるものなんです。察してくださいよ」

「乙女?」

不思議そうな顔をするな。ぶち転がすぞ。


部屋の前で議論の様子を少しだけ伺ってから、戻ってきた。

別に私に意見を求められたわけじゃないし、いきなり出ていってもみんな困っちゃうだろう。

八尺様の話をしてるときに、いきなり「ぽぽっ?」とか言って出てきたら困るじゃん? そういうこと。


「……まぁ、シュヴァリエだって一枚岩じゃないから。現に俺だって最初は大反対してた」

さっきのことを話すとアドリアンは難しい顔をした。

「ペドレッティ伯爵家の臣下になることは、かなり反対意見が多かった。それを父上がかなり強引にまとめたんだ……あっ、この話は父上からあまり公にはするなって言われてたからお前も他の人には言うなよ」

はいはい、わかりましたとも。でもそうだったのか……全員一致で賛成されてたとは思わなかったけど。

となるとペドレッティ伯爵家にとっても、どんどんとマリウス・シュヴァリエという人物個人の価値が上がってくる。

「今は、オリーブの取り引きだけじゃない。技術的な支援もしてもらってるし、ペドレッティ伯爵を認めてもいいんじゃないかって空気が出てきてる。現にお前だって前にきたときほど敵意は感じてないだろう?」

確かにそれは思っていた。シャルルあたりがオリーブの取り引きのときにシュヴァリエ支援を持ちかけたのだろう。

「だから、今、道を作ると言ってもほとんどのやつらが賛成すると思う」

「ほとんど。なるほど、ほとんど、ですね」

私の言葉にアドリアンはため息をつく。

「シュヴァリエは一族のほとんどが潤ったよ、それなりにな。でもまだ全体に行き渡っているわけじゃない。農業の話だからすべて軌道に乗って全体が潤うには数年かかるだろう……それを父上がペドレッティ伯爵と組んで搾取しているからだ、と言っている連中がいる」

はぁん、なるほどねー。

「多分、その反対してたのがローランって人だ。その人の息子のケヴィンは、俺と同い年で昔は一緒に遊んだもんなんだけどなぁ……」

その、ローランって名前は覚えときましょうか。




翌日、道を作ることになったということで私は帰ることになったのだけど、そのときに事件は起こった。


「ん、なにか騒がしいわね」

「見て参ります」

帰りの馬車に乗るために館を出た私の耳になにやら喧騒が聞こえてきた。アルノーがすぐに騒ぎの方に走っていき……見送りに出てくれたマリウスが、なにやら渋い表情を浮かべていた。

やがて、アルノーが1人の男を捕まえて戻ってきた。

「この男が館に放火しようとしておりました!」

あらまぁ、危険。

「ローラン、お前……」

マリウスが怒りを押し殺したような表情で呟く。あっ、この人が噂のローランさん? ボンジュール。

「マリウス! 貴様がペドレッティの(令嬢の辞書にない用語)野郎と組んで汚ぇことをしてるのはわかってるんだ! そのために俺達は(令嬢の辞書にない用語)だ、(令嬢の辞書にない用語)が!」

なにを言ってるのかはよくわからないが、多分理解したところで進展はないだろうから、流しておく。

「えー? アドリアンさん、あなたのお父上は汚いことしてるんですかぁ?」

「一日中働いて、いい汗かいて汚れちゃうからな」

私の軽口にアドリアンも合わせてくれる。まぁ、アドリアンとの間にはこのくらいの信頼関係は築けた。

ローランはそれをきょとんとして見たあと、目を吊り上げて騒ぎはじめた。

「(令嬢の辞書にない用語)ーっ! (令嬢の辞書にない用語)ーっ! この悪魔めーっ!」

悪魔ってのだけはわかった。こんな天使みたいな伯爵令嬢になんてことをいうかね。

「貴様、お嬢様になんてことを!」

アルノーがローランの腕を捻って、地面に突っ伏させる。

私はにっこりと笑って、しゃがみこんでローランさんと顔を見合わせた。

「私達ペドレッティ家にとってマリウス・シュヴァリエ男爵は重要な人物ですわ。あなたが害を与えていい人ではないんですの。そんなにマリウス・シュヴァリエ様が嫌ならこの土地から出ていって、別の土地で、自分の好きな法律を作って暮らせばよろしいのでは?」

ローランさんはその間もずっとなにかを喚き続けていた。

よくわからないけど病気なのかもしれない。病気だとしたら感染したらやだなぁ。




マリウスはローランさんの家族を財産を没収した上でセリーヌ湖畔から追放した。

あんな狂犬に大事な人材を殺されてたまるかよ、ほんとに。

この話の舞台になっているのはイタリアによく似た地形の架空の地域です。

男性登場人物のほとんどにはモデルとなっている人物がおり、「そのモデルとなっている人物の所属している、または所属していたチーム」の本拠地が、その登場人物の勢力範囲となります。


モデルとなっているのはあくまで外見と地域だけであり、その人物の能力や適正、チームの規模や本拠地の規模などはまったく関係ないものとします。


☆今回の登場人物のモデル

ジェルメーヌ・ペドレッティ:ヒト科

ローラン:ルイジ・ディ・ビアジョ

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