第87話 信じられないトラブルが発生しました。
「まだ生きていたのか?」
ソランジュが、不快感を露わにする。
「あんな攻撃で死ぬほど、ヤワではない」
将軍の皮膚は、ピンク色に焼けただれていた。黒い鎧も、所々ひび割れ、欠けていた。眼差しは、なおも憎しみに満ちている。
「せっかくお互いが分かり合えるという状況の中、どの面を下げてきた?」
たしかに、ソランジュと二人で倒したはずなのに。
「貴公に言われる筋合いはない。偉大なる魔王・アガリアレプト復活のイケニエとなるがよい」
「魔王復活だと?」
「この地に眠るオパールの光は、魔力。これだけの魔力を使えば、魔王復活など容易! 見よ」
グシオンが刀を抜く。刀身が真っ赤に染まっていた。光沢はない。
「これは冒険者や悪党の血を集めた刀だ。この刀をオパールに突き刺し、血を注ぎ込めば、魔王アガリアレプトは復活する!」
止める間もなく、グシオンは刀を背骨に突き刺した。
「出でよ、アガリアレプト! 我が前に、その姿を示せ!」
あばら骨の一つが、血に呼応して宙に浮かぶ。
あれだけ攻撃しても傷一つつかなかったオパールが、爆発して砕けた。
「大きな魔力のカタマリがくるぞ、警戒しろ!」
珍しく、ソランジュが焦りの表情になる。
グシオンの前に、虹色に輝く女性の全身像が浮かぶ。
こめかみに、牛の角が生えていた。
「おお、これぞまさしく、魔王アガリアレプト!」
「ちっ、厄介な相手が現れたぞ」
ソランジュが舌打ちする。
もしこんな怪物がこの地に眠る魔王の骨から魔力を吸ったら、アガリアレプト復活どころではない。
古代の魔王に匹敵する強さになる。
そうなれば、誰にも止められなくなってしまう。
「ようやく……ようやく会えましたぞ、魔王アガリアレプト」
愛おしそうに、グシオンは虹色の魔王に近づく。
「霊体とは言え、あなたはまさしく我が知る魔王なり。気配で分かりますぞ」
虹の魔王は言葉は発しないが、グシオンの声が分かるらしい。グシオンを懐かしむように、近づいていく。
「まずいぞ。ヤツらに手を組まれては」
グシオンと虹の魔王との間に、ソランジュが駆け寄ろうとした。
「これで心置きなく……あなたを斬れる! けええええええええええい!」
刀を上段に構え、グシオンは虹を切り裂く。
何をされたか分からない、という仕草で、虹は霧散した。
なぜだか分からないが、主である筈の魔王を、グシオン将軍は斬り捨てたのだ。
「はあ、はあ! さすが魔王アガリアレプト。霊体となろうとも、手応えあり!」
狂気じみた笑みと息づかいを、グシオンは繰り返す。
「わたしたち、勝ったんですか?」
「違う! これからが戦闘の始まりだ!」
一瞬安堵してしまったリッコに、ソランジュの叱咤が飛ぶ。




