第85話 これこそ、人類の宝です! なぜ分からないんですか!?
見たこともない魔法の書で、現存する魔法の使い方より詳しく、効率的な魔力の使い方が記されている。
雷魔法を、心臓マッサージなどの医学に使う技術まで記されていた。
遺伝子を取り出して、人間のコピーを作り出す、人造人間の製造法まで載っているではないか。
「そんなの、なんの足しにもならないわよ!」
吐き捨てる男爵夫人に、ジョーイが詰め寄る。
「これこそ宝です! これさえあれば、医療問題も、食糧問題も一気に解決します! これらの技術と、資金さえあれば!」
「ジョーイちゃんの言う通りです! 近い将来、この技術はキエフを救います!」
医学書を手にして、リッコが力説する。
「それはシングニアが独占するわ。いいえ。母を死に追いやったシングニアを打倒し、キエフに攻め込むことだって」
夫人には、リッコの叫びは届かない。
「あなたの身に起きた、不幸は察します。ですが、秘宝の恩恵を私怨に使うのですか!?」
「人間が小さいとでも言いたいなら、いくらでもおっしゃいな。わたくしの抱えている欲望など、あなた方には理解できないわ」
望めぬモノを手にできなかったせいか、怒りに震える男爵夫人が杖を振るう。大魔法を使う気だ。
「よせ、ここで特大魔法を使うな!」
ソランジュが呼び止めるが、もう遅かった。
夫人が繰り出そうとした魔法は暴走を始め、夫人の身体に命中してしまう。
「きゃああ!」
爆風で吹き飛ぶ程度で済んだようだが、夫人は衝撃で宝箱に激突した。
そのスキに、リッコは王子たちを助ける。
「許しませんよ、みなさん! お覚悟を!」
王子はジョーイに任せ、リッコは二人の逃げ場を確保した。
取り巻きたちを次々となぎ倒す。
「ワイもいくニャ!」
谷底から這い上がってきたチヨメも参戦して、大乱闘に。
「宝の中身は、落とさないでください!」
ジョーイに注意され、リッコは慎重に動きつつ的確に相手を攻撃する。
「骨だけとはいえ、まだ魔力を残した魔王だぞ。そんなヤツの上で魔法なんか撃ったら、魔力同士が過剰反応する! そんなことも分からんとは!」
「うるさい! 復活すればそれでよしなのよ! 世界なんて滅びればいいんだわ!」
ソランジュと武器を打ち合いながら、夫人は世の不満を説く。
「シングニアは母を追放した。アタシのことも、閑職の男なんかに嫁がせた! 夫もすぐに死んで、アタシは十代なのに未亡人よ! 子どもだっていない!」
「だから、生まれの呪いを自分の力でなんとかしようとしたのだな?」
「そうよ! 悪いの?」
朱砂の魔女とまで言われたソランジュと、夫人はまともに戦っていた。
これが怒りの力なのか。




