第44話 今日は、お鍋です! もぐもぐ……
「私が覚えている一本松は、ジジイだった気がするが」
装備だけは、当時のままだと言うが。
「それはお父ちゃんのサンダユーだニャ。クテイの財宝を探したっきり、行方不明になったんや」
死んだのではなく、行方知れずだ。ゆえにお墓も建てられない。
家の中に炭を燃やす仕掛けがあり、天井にフックがかかっている。さらに、フックには鍋が吊られていた。
「今、夕飯の支度をしとったニャ。もうすぐできるニャって、ゆっくりしてニャ」
独特の訛りを持つ少女が、鍋の中身をオタマでかき混ぜる。
「娘……そうか。あのガキが、こんなにデカくなったのか」
「せや。もう一五年前かな。あの時は、ワイも三歳ニャったな。ちゅうても、おっぱいは大っきならニャかったけど」
チヨメは、自分の胸をまさぐる。
「ほんで、その子は誰ニャ? あんたの娘かニャ?」
リッコがソランジュの前に立ち、首を振った。
「違います。わたしはリッコ・タテバヤシといいます。ソランジュさんとは友達で」
「腐れ縁だ」
首をかしげつつ、チヨメは「まあいいニャ」と、鍋を混ぜる作業へ戻る。
「タテバヤシとは、変わった苗字ニャね。どこかで聞いたことがあるニャ」
「育ての親から姓をいただきまして」
リッコの師匠は英雄であり、未亡人だ。夫を早く亡くし、女手一つで娘を育てた。その娘が結婚した相手が、タテバヤシという。
幼なじみと同じように、リッコは分け隔てなく育てられた。今でも自慢の親である。
「師匠は拳聖で、弓使いでした」
「ふむふむ。もしかして、ショーナ・ドッコイの弟子かニャ?」
「よくご存じですね!」
「オヤジの仕事仲間だったニャ。弓使いの拳聖なんて、一人しか思い浮かばないニャ」
狭い世界だ。こんな遠くまで来たのに、師匠の関係者と出会えるとは。
「できたニャ」
少量をオタマですくい、チヨメはリッコたちに鍋の具をより分けた。
「どうぞ、食べてくれニャ。箸は使えるニャー?」
「はい。いただきます」
中身は、鹿の肉だ。具材は洋風だが、風味、味付け共に今まで食べたことがない。
「薄味なのに、しっかり整っています」
「ワイが豆から作った、しょう油ニャ。クテイは科学が発展してるから、豆の発酵技術もこの国持ち込めたニャ」
ソランジュも、鍋をつつきながら東洋の酒をたしなんでいる。
「今日は英気を養って、明日の冒険に備えるニャ」
「ありがとうございます。おかわりください」
リッコは遠慮せず、目一杯おかわりをした。
「はえー。いい食べっぷりニャ。人数分以上作っておいてよかったニャ」
「我々が二人で来ることを知っていた風な口ぶりだな?」




