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VOL.12:キララvsロック

「ウソ……! あたしの“風弾(バレイ・ウインダム)”を無効化するなんて……」

 キララとしては、調子に乗っている1年坊主を最初の一撃で沈めるプランだったはずなのだが、それが崩され、驚きに震えながらつぶやいた。

「言っただろ、俺様のオリジナル魔法“絶対防御(ストリック・ディファール)”。物理的な攻撃だろうが、魔法だろうが、すべてを吸い込んで無効化する、俺様が最強の座に上り詰めるための布石のひとつさ」

 ロックは学院最高の魔力を持つと言われてきたキララの攻撃魔法をも防いだことで自信を持ったのか、ペラペラと喋りはじめた。

「だったら……あんたなんかに使うのはもったいない気もするけど、あたしもオリジナルを見せてあげようじゃない。これをまともに食らって無傷だった相手は今までにいないわ。――荒れ狂う風よ、巻き起これ! “烈風爆裂波(バーストゥン・ウインダム)”」

 キララは気持ちを切り替えて、次の攻撃に打って出た。脱走時にガランスを吹き飛ばしたオリジナル魔法をロックめがけて放つが、

「無駄無駄無駄ぁ! 俺様の絶対防御は破れねえよ!」

 ロックが自信満々に言い放ったとおり、決して威力が弱くはないはずのキララの烈風爆裂波は、絶対防御の黒い球に吸い込まれて消滅した。

「そんな、これすらもダメなんて……」

 だんだん表情に焦りが見え始めたキララに対し、

「はん! 学院史上最高の魔力とやらもこの程度なのか、これなら俺様が最強を名乗る日も近いかもな。まあいい、ずっと防御してても詰まらんしな、いずれ最強の座を手にする俺様の攻撃、受けてみな! ――蛇のごときしつこさに、焼き尽くされちまいな! “火炎大蛇(フレイズ・オーロテス)”」

 最初に絶対防御を使ってから何もしてこなかったロックがついに攻撃に打って出た。彼の杖から放たれるは、燃え盛る炎の大蛇。巨大な炎の蛇が、その牙を剥いてキララに襲いかかる――しかし、

「なめるんじゃないわよ。こっちの攻撃がちょっと通らないからって、調子に乗りすぎ。ところでその魔法は自分の放った魔法(もの)も防御できるのかしら? あんたの魔法、そのままお返しするわ! “反射(リファレック)”」

 自分の攻撃が(ことごと)く無効化されても、キララはまだ冷静だった。ロックが放った大蛇が自分を飲み込む直前、キララは魔法を唱えていた。

 ――その瞬間、キララを囲うように魔法を反射する鏡が張られ、大蛇が跳ね返された。

「くっ! “火炎大蛇”!」

 ロックは跳ね返されるとは思ってなかったのか、自分に牙をむいた大蛇をもう一発同じ魔法を放って相殺した。

「ふーん、どうやら跳ね返された魔法は絶対防御の効果でも防御不可なようね。これで、あんたはあたしに負けないかもしれないけど、勝てもしない。あんたの攻撃は悉くあたしが反射するからね。このまま純粋な消耗戦やってもいいけど、確実にあんたが不利。謝って降参するなら今のうちよ?」

 キララは絶対防御の弱点に気づくと、ニヤリと笑って事実上の降伏勧告を出した。

「へっ、誰が降伏なんかするかってんだ。俺様にはまだ策は残ってるんだからなぁ! そのムカつく鏡、ぶっ壊してやんよ! “破壊の大槌(スレジャス・ハンマー)”」

 ロックが気丈に言い返し、魔法を唱えると、上空から巨大なハンマーが勢いよく落ちてきて、キララの反射鏡にぶつかると、粉々に破壊して消えた。

「見たか、俺様のパワー! 反射できない、防御も到底できるようなものじゃねえ、このハンマー、もう1発受けてみろ! “破壊の大槌”」

 すると、さっきと同じ、巨大なハンマーが今度は直接キララを叩き潰さんと襲いかかった。

「くっ! なら、さっきと同じようにするっきゃないわね! “反射”」

 キララは押され気味の自分にイライラしつつも、まずは目先の危機を回避するため、自分の周囲に反射鏡を作り出した。直後、巨大なハンマーがそれを粉々に破壊して、消える。

「ふん、何発でも放ってやるよ。お前が潰されるまでな!」

 ロックはもはやキララを連れ戻すためというよりも、ただこのタイマン勝負に勝つためだけに、さらに破壊の大槌を放とうとした。しかし、

「いつまでも、調子に乗ってるんじゃないわよ? だったら、こういうのはどう? ――あんたの魔力、吸いつくしてあげるわ。“風魔吸収(アブソーマ・ウインダム)”」

 キララはだんだんイライラが募ってきたのか、杖を数回振り回すと、別の魔法を唱えた。すると、紫色の風と霧が渦を巻くようにロックを取り囲む。

「う、うおおおお!? なんだ、力が抜ける!?」

 ロックはやがて浮いているのも維持できなくなったように、ゆっくりと地面に着地してへたり込んだ。同時に、絶対防御の黒い球も消滅した。

「ごちそうさま。あんたの残り魔力、ぜーんぶあたしが吸い取っちゃったわ。あんたを取り囲んだ紫色の風とともに発生させた霧、あれは魔力を吸い取る特殊な霧。それを応用して、竜巻状の風であんたの動きを封じて、霧で魔力をまとめて吸い取ったってわけ。回復するまでは何もできないわ。あんたの防御が働かなかったのは、この魔法はけして対象に攻撃する意図はない。その防御魔法は危害を加えてくる現象に対してのみ働くと思っていたけど、ビンゴでよかったわ」

 キララがようやく本領発揮と言わんばかりに、満面の笑みでロックに説明してやると、

「くっ、姑息なマネを……だが、詰めが甘いな」

 ロックはゆらりと立ち上がりながら懐に手を入れ、何かの容器を取り出し、中に詰まっていた液体を一気に飲み干した。

「なっ、まさかそれは……」

 ロックが飲んだ液体にキララが驚く間もなく、ロックの身体が淡い緑色に輝いた。

「――そうさ、何かあった時のために1本だけ持っていた、回復薬さ。向こうでもかなりの貴重品だから、そうそう手に入るものじゃねえがな」

 ロックは空になった容器を再び懐にしまうと、杖を構えて、絶対防御を復活させた。

「もう薬は持ってないみたいだけど、たとえ何度回復されても、あたしはあんたの魔力を奪い取るだけよ。まあ、でもさすがにあんたの防御に負けっぱなしじゃ最強の名が泣くわね。いいわ、もうあんたの魔力を奪い取るのはなし。ふふっ、あたしの本気にあなたの防御は耐えきれるかしらね?」

 キララはクスクスと笑うと、集中力を高めていった。

「いかなる魔法だろうと、俺様の防御は破れねえ!」

 ロックは自分に自信があるのか、キララを止めようとはしなかった。しかし、行動や言葉とは裏腹に、その表情には不安から来る迷いがあった。

「あたしの攻撃系オリジナルはなにも烈風爆裂波だけじゃないわ。学生相手に使うのはこれが初めてよ、感謝しなさい! ――火よ、風よ、雷よ、水よ、氷よ、今こそ我が魔力で混じり合い、敵を討て! “五種混合(クインタース・ブラス)”」

 キララの魔力があたりに満ち、ついにその魔法は放たれた。火柱、風弾、雷撃、水弾、そしてすべてを凍結させんとする冷気、普通は混じり合うことのない5つの属性が、今、1つになってロックに襲いかかる。しかし、キララが満を持して放った五種混合も、ロックの絶対防御に吸い込まれて消えた。

「わははは、残念だったな! やはり俺様の防御の方が上だった! 最強の座を返上するならいまの――」

 ロックが高笑いしながらキララに最強の座を譲り渡せと言いかけた、そのとき。ロックの周囲にある黒い球がドクンと脈打って収縮した。

「な、なんだ!? う、うおおお……!」

 ロックは突然の事態に高笑いをやめ、状況を確認しようとした、次の瞬間。絶対防御の黒い球は大爆発を起こし、消滅した。

「誰の方が、上だって? 残念ね、吸いこんだはいいけれど、それを内部で消滅させるには、あなたの魔力では力不足だったみたいね。今までこれが完璧な防御だと思っていたのは、単にあたしほど強力な使い手とやり合ったことがなかっただけ。でも、あたしにここまでさせたのは、あなたが初めてよ。それは間違いないから、誇っていいわ。あたしにタイマンで挑んできたのはちょっと褒められた行為ではないけどね」

 キララが爆発に巻き込まれて倒れたロックの実力を認め、笑顔を見せた。と、

「見つけたわよ、キララ。さあ、ハルゲンファウスに帰りましょう」

 母親のマリアと、ガレリアたち捜索隊がその場に現れたのだった。

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