VOL.11:捜索隊、接近す
ガレリアたち捜索隊がキララに接近しているころ、ハルゲンファウス・中央都市――
「なに、25年前の事件で新発見だって? 詳しい話を聞こうじゃないか」
執務室のイスに座りながら、25年前にリューンを追放することを決めた副大統領で、現在大統領を務めるアンダス=カーペントが、入ってきた部下に言った。
「はい、当時はただ一人事件のアリバイがなかったリューン=サルファス元隠密部隊長が犯人ということで解決させ、彼をハルゲンファウスから追放する決定が下されましたが、そもそもあの件でリューン元隊長は本当に潔白だったのです」
鼻息も荒く入ってきた、かつてリューンの部下だった壮年の男は、そう切り出した上で、25年の時を越えて明らかになった事件の真相を話し始めた。
ピエールたち5人が血まみれで殺害されているのが見つかった25年前のあの日、確かにリューンは一人で仕事をしていたために、それを証明することができなかった上、他にアリバイのない人物がいなかったために犯人として、捕まってしまった。しかし、本当はもう一人だけアリバイのない、いや、アリバイはあるとされていたが、ウソの証言でアリバイを作っていた人物がいたのだ。
「ほう、それは誰なのかね?」
アンダスが訊ねると、男は一呼吸置いてから、
「それは……あなたです。アンダス大統領。当時副大統領だったあなたこそが、ピエールたちのクーデター計画の、真の黒幕だった。そして、計画がリューン隊長率いる我ら隠密隊に潰されたあと、口封じのためにピエール以下実行犯5名を殺害し、自らは何食わぬ顔して周囲に金を握らせてウソのアリバイを証言させ、リューン隊長に罪を着せた。その時間はいつも一人で仕事をしている事を知っていたあなたしか、それが可能な人はいないんです」
男はつらそうな表情ながらも、ゆっくりとアンダスの犯行内容を指摘した。
「な、何を言うんだね、キミは。私が真犯人だという証拠はどこにあるんだね?」
アンダスはいきなりの指摘に多少動揺はしたようだが、男に対して証拠を見せろと詰め寄った。
「証拠、ですか。ええ、ちゃんと用意してますよ。おい、入ってきてくれ」
男がドアの外に呼びかけると、カチャリとドアを開けて、少女が一人入ってきた。
「その子は誰だね? 誰かに似ているような気はするが」
アンダスが男に訊ねると、
「この子の顔を見て、誰だか分かりませんか、アンダスさん」
男は逆にアンダスに問いかけた。
「いや、わからんな」
アンダスは首を振って否定した。
「私は、サリー=ディスケージ。エド=ディスケージの娘、といえば分かりますか?」
サリーと名乗った少女が父親の名を告げると、アンダスの表情が変わった。
「エドの娘だと? エドは元気なのか? 20年ほど前に政府から去って行ったあと、消息不明になっていたが……」
アンダスは焦ったようにサリーに訊ねたが、
「父は、10年前から病に倒れ、そして先日亡くなりました。亡くなる直前、私に1通の封筒を遺して――」
サリーはそう言いながら、持っていたカバンの中から封筒を取り出し、男に渡した。中からは、結構な大金が出てきた。
「父は、そのお金は現大統領のアンダス氏から、とある件で口裏を合わせるために受け取ったと言ってました。でも、本当はウソなどつきたくなかった、だからお金は全然使ってないんだ、とも言ってました。そして、最後の遺言で私に、そのウソを暴き、無実の罪で追放された人を救ってやってほしい、と言い残して逝きました」
サリーがそう締めくくると、いよいよアンダスの顔は青ざめ、やがてゆっくりと崩れ落ちるように床に膝をついた。
「あいつには……いつも負け続けてきた。そして、立場的には私が上になったが、いつもどこか見下されてるような思いを抱かされてきた。今後もずっとあいつに見下されるくらいなら、いっそのこと……政府から追放されてしまえばいいと思ってたんだ……!」
アンダスは床を拳で叩きながら、ほぼ言い訳としか聞こえないような弁解をした。
「アンダス大統領、いや、アンダス=カーペント。25年前のクーデター、およびピエールたち5人の殺害容疑で、逮捕する」
ハルゲンファウスには基本的に事件の時効は存在しない。いまここに、25年前の冤罪がひとつ晴らされたのだった。
事件の真犯人が捕まった、それはすなわちリューンこと龍一郎の容疑が晴れたことを意味し、急きょ副大統領から昇格した新大統領の名前で、龍一郎に追放が取り消されたことを伝えることになり、それはアンダスを逮捕した男が行くことになった。
一方その頃、ガレリアたちは、勝手に先走ったロックを追いかけていた。
「まったく、タイマン張ったらキララは学院最強だと言っておいたはずなのに……」
マリアが呆れたようにつぶやき、一行はキララの居場所目指して進んでいった。
そして、当のロックは、キララのいる佐伯家の上空にたどりついていた。
「ふん、人間などと仲良く戯れやがって……まずはこれでもくらいやがれ!」
ロックは窓の内側に見えるキララめがけて、凍結を弾丸のごとく発射した。
「ん、来ちゃったみたいね。って、いきなりぶっぱなすの!? 伏せてっ!」
キララがロックの魔力を感じ取り、立ち上がった直後、氷の弾丸が窓を打ち抜いた。幸いにも、ギリギリで遼や龍一郎には伏せるよう指示したおかげで、2人ともケガはないようだ。
「来たって、向こうの追っ手か?」
遼が訊ねると、
「ええ。でも、一人で来ることは考えづらいから、おそらく集団から勝手に抜け出してきたってとこね。よほど自信があるのか、それともバカなのか。ともかく、あれをなんとかしてくるわね」
キララは相手の風貌から、同じ学生であると判断し、そんな推理をすると、壊された窓から飛び出していった。
「あんたがキララ=シュプールだな? 俺様は学院の高等部1年、ロック=ハートウェル。脱走したあんたを連れ戻すため、あんたを倒しにきた」
ロックはキララが出てきて、同じ高さまで来たのを見ると、意外と律儀にも名乗りを上げた。
「なに、1年風情がこのあたしとタイマン張ろうって言うの? いいわ、格の違いってものをその身に刻みつけてあげる! でも、ここでドンパチやるのはさすがにまずいわ、場所を変えるわよ。着いてきなさい」
キララは人によっては悪役にも取られかねない発言をすると、飛び立った。
「どこで戦おうと俺様には関係ないね。好きな所を選びな」
ロックも一度杖をしまうと、キララの後を追って飛び立った。
キララが選んだのは、ちょっと広めの空き地だった。ロックが到着したのを確認すると、一般人が近づかないよう、結界を張った。
「さあ、はじめましょ」
キララが杖を構えると、その魔力が一気に高まり、並の魔力の持ち主なら倒れてしまいかねないほどのプレッシャーが立ち込める。
「ふん、さすがに最強と言われるだけはあるか。だが、ただ魔力が高いだけで俺様は倒せん! “絶対防御”!」
ロックはキララの魔力を鼻で笑い飛ばすと、先手を取って魔法を使った。キララは聞いたことのない魔法に身構えたが、魔法によって現れた効果は、彼自身を守るように生成された、3つの黒い球だった。
「あたしもなめられたものね……それが何かは知らないけど、このあたしにたった一人で挑んできたことを後悔するといいわ! “風弾”!」
キララはこめかみに青筋を浮かべながら杖を振りかざし、叫ぶと、猛烈に圧縮された空気の弾丸がロックめがけて放たれた。しかし、
「そんな攻撃、俺様の絶対防御の前には無力だ!」
ロックが叫んだとおり、キララの風弾は、ロックに当たることなく、彼の周囲に生成されていた黒い球に吸い込まれて消えた。
「こいつは俺様に向けられた攻撃を感知し、すべて吸い込んで無効化する、究極まで防御に特化した、俺様のオリジナル魔法さ」
ロックは得意げな顔で、まさかという表情をしているキララに言い放ったのだった。




